第6話 エリートオカンスパイ、実験される 後編

 恍惚の表情を浮かべ、可奈子はボンテージ女に体液を注ぎ込んでしまう。


「はあ、はあん!」


 ペニス型の器具を、女が抜く。


 まだ情けなく、ペニス型の物体はビクンビクンと跳ねていた。

 

「気持ちよかったでしょ?」 

 

「うちの体液がほしいんやったら、電気ショックでも与えて絞り出したらええやんけ。快感なんて与えんと!」


 恥辱から立ち直り、可奈子はボンテージ女に怒鳴る。


「それじゃあ、わたしが面白くないのよ。あなたが『自分から出したい』って思わないと、強奪になっちゃうでしょ?」


「十分、強奪やんけ! はあん!」


「こっちは、そうは言っていないわ」


 可奈子が、女にハリガタを撫でられた。

 まだ神経がつながっているため、射精の快感がダイレクトに押し寄せてくる。


「さて体液は採取できたんだけど、万全を喫するためにアンタの息子もさらってき――!?」



 可奈子は拘束を解き、その場からいなくなった。


「なに、なんな、の!?」


 女の首を片手で絞め、可奈子はそのまま持ち上げた。


 女の部下たちが、銃を構えた。

 しかし、弾が出ない。

 

「撃ってみい!」


 予備の弾丸もろとも、可奈子は床に落とす。

 

 彼らから武器の弾薬を奪うなど、可奈子には児戯に等しい。


「さっきまで、博士を盾に取られて、動き取れなかったくせに!」


 首を絞められながら、負け惜しみを言う。


「あんたらから武器を奪って、全滅させることもできたんやぞ」

 

 一味の一人が、避難ボタンを押そうとした。

 だが全員が、可奈子の呼んだ部下に取り押さえられる。


「くそ、今一度!」


 女が、クモの巣を張り巡らせた。針によって、可奈子を再度拘束する。


 だが、まったく電流が効かない。


「インパクトの瞬間、針同士をくっつけて散らしたったら、簡単にショートすんねん。持ち主やのに、わからんかったんか?」


「最初からやられたフリをして、油断したところを。コイツめ!」


「今すく殺してもええんやぞ」


 会話などする気もないと言わんばかりに、可奈子がすごんだ。


「どうせあんたらは戸籍もない、裏組織が作った戦闘員やろうしな」


「そこまで知ってて……」


「あんたも家庭に恵まれとったら、ええ子になってたんやろうな」


 戦闘員などならずに。

 

「せやけど、それとこれとは別や。お前に遺伝子はやらんし、息子も襲わせへん。二度とうちの息子に、手を出そうなんて思うなよ。こっちは全部見とるんやからな」


 さっきまでの余裕ある表情がすっかり抜けて、ボンテージの女はおもらしをした。


 


「お疲れ様でした」


 かけつけた研究班の主任・IQ《イクー》が、保護対象の教授に気付けのショックを与える。


「助けてくださって、ありがとうございます。この器具は本来、子どもに恵まれない人たちのために、体組織を精液に変換する装置だった。それが悪用されるとは」


 試作段階なので、あの女に可奈子の疑似精子が着床することはないだろうとのこと。


「おおきに、教授。ウチも、色々考えさせられました」


「といいますと?」

 

「大事なんは快楽やのうて、愛情やねんなって」


 可奈子は決して快感で、裕太郎を産んだのではなかった。

 夫との愛情を侮辱する相手は、許さない。



 帰宅後、裕太郎にハンバーグを作った。


「うまいよ、おかーちゃん」


「そうかー。せや、メロンあるねん」


「ホント!?」


 あの教授は植物学の権威らしく、研究中のメロンをおすそ分けしてもらったのである。

 助けたお礼にと、くれたのだ。


「……おかーちゃん、このメロンさ、食べてみて」


 裕太郎が、渋い顔になる。


 おかしい、裕太郎はメロンが大好物のはずなのに。

 

「どないしたんそんな顔し……ボエッ!?」



 あまりの不味さに、可奈子はメロンを吐き出す。


 メロンの箱には、「子どもが好きなものシリーズ」と書いてあった。 

 品種改良だったのだろう。


 そのメロンは、カレーライスの味がした。

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(R15)おかーちゃんパーマ行ってくるさかい(スチャ) 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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