第二章 おかーちゃん、遠くに買い物行ってくるさかい(スチャ)

第4話 エリートスパイオカン 実験される 前編

「ユータァ、ちょっとおかーちゃん、遠くに買い物行ってくるさかい」

 

 念入りに化粧をしながら、 須藤すどう 可奈子かなこは、息子の裕太郎ゆうたろうに告げた。


「何を買いに行くん?」


「メロンや。自宅療養してはる親戚に届けるねん。ウチらの分も買うさかい」


「荷物になるんやったら、ついていこうか?」


 裕太郎は優しいので、同行しようとする。


 だが、本当に向かうのはスパイの事務所だ。

 

「ええから。あんた勉強あんねやろ? 行っといで」

 

「せやけど」

 

「荷物は宅配で送るさかい。せやけど通販やと、サギとかあるやろ? せやから見に行くだけよってに」


「そういうことやったらええけど。高いんとちゃう?」


「ええ値段はするやろうね」


「ちょっと出そか?」


「なんで高校生に恵んでもらわんとアカンのよ? 気にせんでええし」


 それより早く勉強しにいけと、裕太郎を家から追い出した。


 ヒールを履き、まっすぐ事務所へ向かう。


 パート先と偽っている、駅前スーパーの裏手に回った。


 秘密の暗号を押すと、内部のエレベーターが動く。




「須藤可奈子、参りました」


 秘密基地の応接室に入り、可奈子はあいさつをした。

 

 チームリーダーであるアイパッチの男が、プロジェクターを操作する。

 

「今回の任務は、要人の救出だ。居所を突き止めて、救い出してほしい」


 プロフェクターに映ったのは、科学者の少女だ。


「といっても、ウチがせなアカンのは」


「察しがいいな。相手の凄腕の足を止めることだ」



 可奈子の戦闘力で、敵組織を壊滅させることも可能ではある。


 しかし、前任者が強すぎたせいで、全部その人任せになった。

 彼がいなくなって、組織が一時、機能不全に陥ったこともある。


「スパイ組織も、チームが普通人でも回す必要性が出てきた」


 そのための斥候として、可奈子は存在するのだ。

危険な目に遭っても、自分なら逃げ切れるからである。


「せやね。あんたがチームのボスを演じられるんも、ウチがおるからやし」


「そうなんですよぉ。助けてください」


 半べそをかきながら、アイパッチは手を合わせた。


 ぶっちゃけ、このアイパッチ男もボスではない。

 組織の通信役にすぎなかった。

 要人が捕まったのも、彼の部下のミスである。

 

「場所の特定はできたんか?」


「どうにかなりましたぁ」

 

 スタッフの働きにより、要人がいそうな場所を特定できた。


「行くわ。指示があるまで待機や。●時間以内に連絡なかったら突撃」


「承知しましたぁ。お気をつけてぇ!」


 

 

 場所は、某所の研究所だという。

 廃墟になっているのに、電気が通っているらしい。

 いかにも悪党がいそうな場所だ。




 研究所の地下を、探索する。


 見張りを無力化し、さらに奥へ。


 鏡の向こうに、誰かがいる。

 

「あらいらっしゃい」


 ボンテージの女が、可奈子のすぐ後ろにいた。


 即座に裏拳を繰り出す。しかし、大量のクモの巣が、可奈子の腕に絡みついた。

 

「しま……」

 

 体中に画鋲ほどの針が刺さって、電流を流される。

 

(テーザーガン!? ちゃう。もっと小型や。それにしても、なんやのこの武器は!?)  


 狭い場所での格闘には、慣れているはずだったのに。

 

 膝が折れ、可奈子は気絶してしまった。

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