第27話 そろそろパンツがないのが気になる

 体重が最初の目標としていた二桁台に突入したので、そろそろできるだろう、とスクワットをしたら膝を痛めた。

 解せぬ。

 みんな大好きスクワットは、もう少し体重を落さないと、始めることすらできないらしい。

 

 だが、さすがに前世で誰もが知っていた体操ならできるだろう、と挑戦してみる。

 まだ膝には不安があったので、ジャンプは控えた――ら、翌日筋肉痛で動けなくなった。

 カーネリアになってからというもの、少しずつ体を動かすようにしてきたつもりなのだが、プロが計算しつくして作ったというあの体操は効果が覿面すぎる。

 動いている時はなにも感じないのだが、わき腹や太腿の裏側がビキビキと引き攣る感じだ。

 痛みが引くまでに三日かかった。

 

 ……そろそろパンツがないのが気になる。

 

 妹たちを構うようになって判明したのだが、私が下着パンツを穿いていないのは、カーネリアの趣味ではない。

 妹たちもそうだった。

 つまりは、そういう文化なのだろう。

 

 普段はとくに問題はない。

 私のは場合は長い衣を着ているので、うっかりでも中身が見えることはないからだ。

 だが、妹たちは違う。

 簡素なチュニック姿で過ごしているので、転ぶと中身が見えてしまうことがある。

 

 ……私も、体操中はチュニックだしね。

 

 普段は長い衣で安全だが、体操中の私はチュニック姿だ。

 まだまだ三段腹がならされないデコボコな体だが、だからこそ、そんな雪だるまの局部など、うっかりでも見えてしまえば悪夢なんてものではない。

 

 ……たぶん、布を裁つってことに抵抗感みたいなものがあるんだろうな?

 

 抵抗感は少し違う。

 おそらくは工場製品なんてないであろう布は、すべて手作業で作られる貴重な品だ。

 切って縫って服を作り、断面を解れやすくするよりも、布のまま使うことで、長く使っているのかもしれない。

 

 ……や、ゲームのキャラは普通に洋服っぽいの着てたけどねー。

 

 これはもう、本当に『ゲームだから』としか言いようがない。

 モブですらない私に手が出るものではないのだろう。

 

 ふむ、っと少し改めて考える。

 布はあまり裁ちたくない。

 しかし、この先は絶対に動きやすい服装が必要になってくる。

 前世の下着を再現することは、カーネリアなら人を使うことで可能だが、作れたとしても紐パンが限界だろう。

 希望を言えば、これから痩せていく予定なのだ。

 布が貴重品だというのなら、今の私の体格に合わせた下着など、作らない方がいい。

 

 ……ってことは、体格に構わず着れて、構造が単純な……ふんどし?

 

 自分でもそれはどうかと思う結論なのだが。

 ふんどしなら、布を裁つ必要がなく、体積が減っても使い続けられる気がする。

 

 ……いや、でも、さすがに『ふんどし』はなぁ?

 

 なんとなく、心は乙女として抵抗がある。

 試してみる価値のある、いい案だとは思うのだが。

 

 ……他にないかな……なにか、他に……布を裁つ必要がなくて、体格に融通が利いて、構造が単純な……。

 

 なにかないだろうか、と前世の記憶を探る。

 極力布を裁たずに衣としていることから、参考になるものを探そうと思ったら、平安時代や昔話を思いだした方がいいかもしれない。

 

 ……平安貴族は……知らない。たぶん、着てても腰巻とか、そんなの。古代ギリシャは……下着とか着てなさそうだな。

 

 ならば、と方向性を変えて考えようとしたら、脳裏にひらめくものがあった。

 

 ……パレオとか、どう!?

 

 前世で女性の水着にパレオが付き始めた頃に、一度調べたことがある。

 日本ではなんとなく水着女性が下半身を隠すために使っていたが、本来のパレオは普通に衣として使われているのだとかなんとか。

 

 ……パレオなら布を裁つ必要はないし、いけそうな気がする!







 ものは試し、と風呂上りのコロンに乳母に用意してもらった布を巻きつける。

 やはりこの世界での布は貴重品で、できるだけ裁たず、長く使うらしい。

 質の良いものを最初に王族や貴族が使い、使い古しは侍女や下女へと下げ渡される。

 そこでさらに布を使い、古くなった布はようやく裁つことに抵抗がなくなるようで、下着や赤ん坊のオムツへと加工される。

 

 そう、下着と布オムツに。

 

 男性用の下着はあるのだ、この世界。

 これは男女で日常的な動きに差があるからかもしれない。

 女性はほとんど室内から出ないが、男性は外で働くことが多い。

 そのための差だろう。

 ただ、その代わりというのか、経済的な理由もあるだろうが二重には穿かない。

 下着パンツがズボンを兼ね、ズボンが下着パンツを兼ねる。

 

 ……よさそうだったら、パレオ用の布を用意してもらおう。

 

 今は下げ渡す一歩手前の、少し使い古された布だ。

 お試しの段階なので、これは仕方がない。

 

 できるだけ裁たずに使うためか、布のサイズは意外に多い。

 乳母に持って来てもらったのは、バスタオルより一回りぐらい小さな布だ。

 三歳のコロンには少し大きかったかもしれない。

 

 縦長に布をあて、背中で端を縛る。

 下に垂れた布をぐるりと股座を通して背後に回し、今度は正面で端を縛った。

 

 ……うん、隠すべきところは隠れたな。

 

 やはり布が大きすぎたのか、少し生地が余っているが。

 チュニックの下は丸裸、という情況からは抜け出せるだろう。

 夏場は水着代わりにもなりそうだ。

 

「……ネリねーさま、わたし、オムツとれた」


「オムツ……?」


 問題は、自分カーネリア用の布を用意しようと思ったら、すごく大きな布が必要になりそうだな、と考え始めていたら、パレオ(仮)を巻きつけられたコロンが不満そうに唇を尖らせている。

 気のせいでなければ、若干目が潤んでもいた。

 

「え? あ、これ、オムツだと思ったの?」


「…………っ」


 じわっと滲んだ涙に、慌ててコロンを抱き上げる。

 下着を付けさせたかっただけなのだが、コロンにはオムツ代わりの何かを付けられた、と思われてしまったようだ。

 オムツが取れた、と自負しているのなら、オムツ(仮)を付けられることは、コロンの自尊心を傷つけるものだったかもしれない。

 

「オムツじゃないよ、これはオムツじゃない。赤ちゃん扱いじゃないよー」


 よしよし、とコロンを宥めながら、誤解を解くべく説明をする。

 パレオは下着代わりであり、オムツではない。

 基本的には女性しかいない奥宮の中だけなら問題はないかもしれないが、女性には異性に見せてはいけない場所があるのだ、と言葉を探しながら話した。

 その場所が、転んだ拍子などに見えないよう、パレオを考えているのだ、と。

 

「あかちゃん、ちがう?」


「むしろ、お姉さん扱いかな?」


 赤ん坊扱いでオムツをつけたのではない。

 むしろ、女の子扱い、大人の女性扱いで、下着を付けさせたのだ、と伝えると、コロンはようやく泣き止んだ。

 少しだけ大人扱いされているということが、嬉しかったらしい。

 あとは少しはにかんだ顔をして、パレオの上からチュニックを着た。







■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 なお、昔調べた時の図解では、パレオの向きが前後逆でした。

 ナイスバディーのお姉さんが着ると、セクシーなドレスにも見えるのがパレオ。

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