第26話 相手によるよ
女の子というものは、どんな世界でも変わらない。
身を飾ることと、整えることを好む。
風呂へ入って丸洗いをされた結果、さっぱりと綺麗になって戻ったマロンたちに、他の妹たちは興味津々だ。
翌日も大部屋へと行ったら、待ち構えていた妹たちに囲まれた。
どうやらもなにも、風呂に興味があるらしい。
もともと妹たちも風呂へは入っていたはずなのだが、と不思議に思って聞いたところ、風呂の広さや湯量がまるで違うのだ、とマロンが教えてくれた。
室内遊びをした後、年長の妹を三人選んで連れ出す。
マロンはすっかり引率役で、コロンも自動的に付いて来た。
アコモを連れ出すと無口な妹も付いてくるので、意外に大所帯の移動になった気がする。
先日と同じように
少し違うのは、今日はマロンも洗う側にいるところだろうか。
マロンはザクロに教わりながらコロンを洗い、無口な妹はアコモの風呂を乳母から教わっていた。
その後はやっぱり湯に浸かるのだが、前日にマロンたちが100まで数えられなかったことから、数は70までにした。
この頃になると、アコモの風呂の世話が終わった無口な妹もこちらに合流する。
翌日も同じように三人を選んで連れ出し、風呂へと入れる。
盥へ入れて丸洗いをするのは、マロンと前日に洗われた側の妹たちだ。
侍女は洗い残しがないよう、指導するだけになった。
私の真似をしているだけなのかもしれないが、驚いたことに数を最初に覚えたのはコロンだ。
50までだったが、三日目にして一人で言えるようになっていた。
幼児の記憶力というものは、本当に侮れない。
私の浴室には身長制限を設けた。
場所によっては深い浴槽があるので、当然といえば当然だろう。
無口な妹を基準とし、彼女以下の身長の妹には王子用の風呂を開放した。
こちらの浴槽は浅いとは言わないが、深いところがない。
コロンの身長でも立てば問題なく首が出る。
どちらの風呂も、昼間は好きに入っていい。
そう許可を出したのだが、これには侍女が待ったをかけた。
私の風呂については、私が使った後になら自由に入っていい、と。
一緒に入るのなら止めないが、先に入ることは許されないようだ。
……まあ、そういうこともあるかもね?
この辺は、私がゆるくても認められない、姫とまだ姫と認められていない彼女たちとの違いだろう。
王子用の風呂も、年少者だけで使うことは禁じた。
必ず侍女か年長の妹と入るように、と。
せっかくなので、と私用の風呂の使用許可を、侍女へも出した。
これまでは私しか使っていない風呂だったので、湯がもったいないと思っていたのだ。
昼間は妹たちが、夜は侍女たちが残り湯を使う。
王子用の風呂は、夜は女性の使用人に解放した。
これでジェリーも水風呂生活から解放である。
男性の使用人? 知らん。どうでもいい。
いや、冗談はともかくとして。
妹たちが使う風呂に時間制限付きであったとしても男など入れる気はない。
文句があったら、銀髪の王子が生まれた時にでも、自分たちで待遇改善を求めてほしい。
私がなにかできるとしたら、衛士の風呂に使用許可を出すぐらいだが、こちらはこちらで不平が出ることが判るので、私が手をつける気はない。
「待って? 今、100キロ切ったよ? 100キロ切ったよね? 99キロとはいえ、二桁突入!」
「いやいや、姫さんの気のせいだろ。ホラ、よく見ろ。99キロじゃない。100キロ……101、102……」
取りすぎていた食事を減らし、簡単な体操と散歩を続け、妹たちを構うことで室内遊びをして少しずつ動く。
こんな生活を三週間続けたら、ついに最初の目標の二桁台に突入だ。
やったー! と喜ぶ私に水をさすべく、マタイが横から合いの手を入れる。
合いの手というか、幼竜用の体重計に手を加えてきた。
グッと秤に力が込められて、私の側が大きく沈む。
「……マタイ、とりあえずその手を退けろ」
「姫さん、そんなドスの聞いた声出せるのかよ」
「相手によるよ」
イスラと妹たちの前ではドスの聞いた声など出す気はないが。
子どもじみた悪戯をするマタイに対してなら、出してもいい声だろう。
恒例の竜舎にある幼竜用の秤を使った体重測定で、ついに目標としていた二桁台の体重に手が届いた。
さすがというか、もともとが太りすぎた体は、食事制限と運動を意識するだけでも減量の効果が大きい。
もう少し数字が小さくなったら、今度はこんなに簡単には数字が動かなくなるだろう。
ダイエットには停滞期というものが付き物だ。
……いや、これ停滞期とかいう問題じゃないけどね。
本当に。
そもそもが太りすぎているのだ。
減量が必要なほどに太った体だからこそ、短い期間でそれなりの効果が見えた。
それだけのことだ。
「妹たちには感謝だね」
多すぎる食事の消費を手伝ってくれてありがとう、と今日は神ではなく、妹たちに感謝を捧げる。
相変わらず私に用意される食事量は減らないのだが、これは仕方がないだろう。
残すことには躊躇いがある、と私がイスラや妹たちに分けることで消費している。
結果として、消費されているのだから、これは必要な量だ、と料理人たちが判断をする。
これではいつまでも出される食事量が減るはずはない。
近頃は、父が持ってくるおやつも妹たちへと分けている。
おやつを運んで、大部屋で妹たちを構っているとそのまま夕食の時間になるので、夕食は妹たちと一緒だ。
その場でそのまま料理を分けてしまうので、効率はよくなった気がする。
……そういえば、白い
私が妹たちに食事を分けていると、使用人たちも把握しているらしい。
白い生地の枚数が減り、薄茶色の生地の枚数が増えた。
それを考えれば、私の「食事量を減らしたい」という訴えは叶えられていることになる。
ちなみに、朝食は妹たちとは取らず、相変わらず
露台で朝食を食べていると高確率で白い飛竜が朝の挨拶にやって来て、朝からイスラの顔を見ることができるからだ。
「……最近、肉の量減ってね?」
「妹たちを気にかけろ、ってわたくしに言ったの、マタイですよね?」
イスラに朝食の残りを貢いでいるつもりはあるが、マタイに貢いでいるつもりはない。
イスラに持たせる肉の量が減ったからといって、マタイから不平を言われる覚えはなかった。
……でも、まあ、そうか。
妹たちによれば、マタイも妹たちを気にかけ、イスラが食事を運べない日はマタイが代わりに運んでくれていたらしい。
妹たちが最近少しだけふっくらとしてきたことには、一応マタイも貢献しているのだ。
……マタイ用にもお肉、包もうかな?
多少なりとも感謝はしているので、イスラ用のついでにマタイのオーチルを包むのもいいかもしれない。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
たぶん、イスラが面倒くさいことになるから、やめて差し上げて。
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