第18話 カーネリアには一人、同母の妹がいる
「妹……?」
話題に出され、改めて指摘をされると、そんな存在がいた気がするが。
普段はまったく思いだしもしない存在の妹だ。
カーネリアには一人、同母の妹がいる。
「……妹がいた気はするけど、ほとんど覚えていないわ」
なぜだろう、と不思議に思って少し記憶をさぐる。
父アゲートが色を好むので、弟妹が多いという自覚はあるが、妹と聞いて思いだされる個人はいない。
これはほとんど誰とも会わずにカーネリアが過ごしてきた結果とは、少し違う気がした。
「セラフィナ様は、カーネリア姫の双子の妹です」
「双子の……妹? え? カーネリアって、双子の妹ですら覚えてないの?」
「……あの頃のカーネリア姫は、まだカーネリア様ではございませんでしたので……」
カーネリアではなかったからこそ、忘れてしまったのかもしれない。
そう続いた言葉は気になったが、続きを促す。
イスラはなにか言い難い話をしてくれているようなので、話の腰を折りたくはない。
「セラフィナ様は銀髪でこそありませんでしたが、真珠のように輝く白髪と、翡翠のような緑瞳の姫君でした」
双子とはいえ、銀髪ではなかったので、カーネリアとセラフィナの扱いはそれなりに違ったようだ。
それでもセラフィナに名前が付けられたのは、カーネリアの『ついで』だ。
赤い瞳の姉に『カーネリア』と名付けたので、ついでに緑の瞳の妹に『セラフィナ』と付けた。
それだけの、父のほんの気まぐれだ。
ただこのセラフィナ。
普通の子どもではなかったようだ。
名前を付けられた、という以外は他の兄弟姉妹と同じように奥宮で育てられたのだが、おとなしく奥宮に納まっているような女児ではなかった。
一人で勝手に奥宮から抜け出し、王城へ忍び込み、文官を捕まえて教師にし、読み書きを学んだ。
そして、その行為が父アゲートの知るところとなり――
「……セラフィナ様は秘密裏に処刑されました」
「しょ……っ」
処刑と聞いて、脳裏にひらめく面影がある。
白髪の、快活に笑う女児の顔だ。
彼女はいつも
軟禁される前のカーネリアの行動範囲が意外に広いのは、
「あ、思いだした……私、なんで忘れていたの……?」
処刑という単語が衝撃的過ぎて、忘れていたことを思いだした。
さすがのカーネリアも、双子の妹が処刑されたことはショックだったのだろう。
この記憶に蓋をして、心の奥底へと沈めて隠して、忘れたふりをしていたのだ。
無知である、ということは恐ろしい。
その恐ろしさが判るのは、私の中に白雪 姫子の知識があるからだ。
けれど、父アゲートの下で育てられる
幼い姫の好奇心ですら父は許さず、処刑したというのだから。
「あ、れ? ……でも、イスラはわたしに勉強を教えて……?」
今さらだが、王の意向に逆らっているが、イスラは大丈夫なのだろうか。
それを心配したら、イスラには大丈夫だと微笑まれた。
「私の主はカーネリア姫です。カーネリア姫が望まれるのでしたら、王の目を盗んで学を運ぶぐらい、なんということもありません」
いざとなったら自分の首を差し出してでも守ります、と微かに笑うイスラに驚かされる。
カーネリアはイスラに夜伽を命じて断られた。
しかし、カーネリアの命に対し、イスラは首を差し出してでも守ると言ってしまう。
貞操は捧げられないが、命は捧げてくれるらしい。
「……わたしは、
少なくとも、カーネリアのために首を差し出すような真似はしなくていい。
そう白雪 姫子の
不思議なことを言われた。
何を言っているのか、理解できない。
そんな表情だ。
「私は幸せですよ。カーネリア姫が生きていて、幸せだとおっしゃるのなら、それだけで私は幸せになれます」
不思議そうな表情から、イスラの顔つきが変わる。
ふんわりと、本当に幸せそうに微笑んでいるのだが、何かが足りない。
画面の外から見たら気付かないのかもしれないが。
誤魔化されるのかもしれないが。
イスラの表情の変化を正面で見て、一瞬たりとも見逃すものかと見つめていた私としては、気付いてしまった。
イスラの言う幸せには、イスラという中身がない。
あくまで本命は
……イスラがそう言うのなら。
「イスラが死んだら、わたしは不幸せよ」
だから、絶対に軽々しく命を差し出すな、と釘を刺してやる。
私であっても、カーネリアであっても、これは変わらない。
私たちはイスラが大好きなので、彼が死ぬのは嫌だ。
「……では、もしもカーネリア姫が処刑されるようなことになりましたら、私に攫われてください」
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主人公の行動範囲が狭すぎて、ほぼ毎回会話だけで進んでいる気がしている系作者です。
そろそろカーネリアの不動っぷりが気になってきた。
運動しよ。
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