第2話 恋
「ねぇ…何であんたまで掃除してる訳?」
「私は、自分の役割を押し付けたり逃げたりしないだけ。先輩達は貴女達にやれって言ったけどそれに甘えて私がやらなかったら同じレベルに落ちるから、そんなの助けてくれた二人をガッカリさせちゃうだけだもん。」
私の言葉に何も言い返す事が出来ないみたいで…「そっか…」とだけ言って掃除に戻っていった。
「おーい、司ー!終わるか~?」
「先輩っ!もう終わりますっ…って、待っててくれたんですか?」
「おうっ!もう終わるなら帰ろうぜ。」
「はいっ!」
直ぐに片付けて荷物を持って教室を後にする。
「彩音先輩はご一緒では無いんですか?」
「あぁ、今日は何か親と出掛けるみたいで先に帰ったんだよ。俺も誘われたけど、何時もお邪魔する訳には行かないしな。」
「何時もですか?」
「えっとな?俺って基本は一人暮らしなんだ。」
「え?中学生で一人暮らししてるんです?ご両親は…?まさか…」
「生きてるよ!仕事で二人共海外を飛び回ってるだけだ。」
「あぁ…失礼しました。」
「良いって。そんで彩音とは隣同士でさ。両親も親友同士で俺と彩音って産まれた頃から一緒なんだよ。それで、よくおじさん達には誘われたりしてるって訳。」
「幼馴染…羨ましいです…先輩と…」
「どうした?司。」
「いえっ!何でもっ!それじゃー今日の夕飯はどうするんですか?」
「ん-…コンビニ…牛丼…ファミレス…のどれか…かなぁ~…」
「えぇぇ…普段はどうしてるんです?」
「あぁ、彩音の所でお世話になったり彩音が作ってくれたりかな。」
「成る程…あの!それなら私が…作れ…無いです…なので、一緒に食べに行きませんか?ファミレスならちゃんと食べられますし一人より二人の方が良いですよ。駄目ですか?」
「俺は良いけど、司の家の方は大丈夫なのか?ご飯支度してるんじゃ無いか?」
「それは、帰ったら話します。まだ多分、大丈夫です…?」
「ん〜…まぁ、着替えたりもあるし俺が迎えに行くから話だけはしておいてな?」
「は、はいっ!やったぁ!先輩とご飯っ!」
先輩に家の前まで送って貰った後、先輩は一度帰っていったのを見送った後、私は家に入りお母さんに夕飯はいらない事、先輩とご飯に行く事を話してシャワーを浴びたり着替えたりと準備を進めた。
…………………………………………………………
大丈夫かな…?先輩の隣を歩いてもおかしくないかな…?釣り合うかな…?うぅ…不安になってきた…
「司ー、迎えが来たわよー!」
「はーいっ!直ぐに行くー!」
うぅぅ…先輩が来たみたいだしもう迷ってる時間は無いし行かないとっ!
トントントンと、階段を降りていくと話し声が聞こえてきた。
「すいません、娘さんを遅い時間なのに連れ出してしまって。必ず無事にお帰ししますので。」
「まぁ、そこまで遅い時間な訳では無いし構わないさ。君の事は司から聞いているしな。」
「司からですか?一体どんな…?」
「ん?あぁ、アレだよ。カッコ…「わー!わー!わー!」…来たみたいだからここまでかな。」
「もう!お父さん!余計な事言わないでよ!」
「余計では無いだろ?大切な娘を預けるのだから見極めないとだ。」
「な、何を意味の分からない事を…もぅ…先輩!お待たせしました!行きましょ!行きましょ!」
「お、おう。それでは…お邪魔しました。」
「行ってらっしゃい。気をつけてな。」
「司!頑張ってっ!」
何を頑張るの…?ただご飯を食べに行くだけだってば!
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「いらっしゃいませー!蓮夜君いらっしゃい!」
「すいません、お邪魔します。」
「気にしない!気にしない!今日はまた随分と可愛い子連れちゃってぇ!彩音ちゃんが居るのに隅に置けないなぁ~っ。」
ぁぅっ///可愛いって…///
「天羽司って言うんだ。後輩の子になるんだけど、俺が今日は一人でご飯食べるって言ったら付き合ってくれる事になってさ。ファミレスでも良いけど折角だから俺と彩音のお気に入りに連れて来てみた。」
ほぇぇ…ここって先輩達のお気に入りなんだ。
「司ちゃんだっけ?折角だから楽しんで行ってね?てか友達とか家族とか連れて来てくれると嬉しいかなっ。」
「は、はいっ!是非是非!」
「ありがとうねっ。それじゃ何時もの席に案内しまーす。」
店員さんの後を先輩と着いて行きながら店内を眺める。
そこはとても落ち着く内装で大人っぽい感じなのに子供の私達が居ても可笑しくない雰囲気もあって…凄く素敵なお店だと、私にはそう見えた。
「蓮夜君は何時もので良い?」
「うん。それでお願い致します。」
「司ちゃんはどうする?何か苦手な物とかアレルギーとかは?」
「そう言うのは大丈夫です、特に無いです。私も先輩と同じで…」
「はーい。それじゃ待っててねっ。」
ウインクをしながらお店の奥の方に歩いていくのを見送りながら前に座る蓮夜先輩を見る。
「あの…私の顔に何か付いてますか?」
「いや…そんなんじゃ無いけど、可愛くなったなって思ってさ。眼鏡からは変えないのか?」
「か、かわっ///もう…直ぐに誂うんですから…///コンタクトに変えようとは思うんですけど何か怖くて…」
「冗談じゃ無いんだが…まぁ良いか。そいや、クラスの奴も言ってたっけな…目に物をいれるの怖いって…」
「ですです!私も同じで…」
「それもそうか〜…まぁでも無理するものじゃ無いしな。眼鏡を付けた司も可愛いけど、裸眼ならもっと可愛いと思ったんよ。」
だぁかぁらぁ〜…可愛いって簡単に言い過ぎなんですよぉ〜…先輩に言われたら照れますしっ///
「お待たせしましたっ。司ちゃんの顔赤いけどどうしたの?」
「な、何でも無いですっ!大丈夫ですっ!」
「ん〜…?あぁ…また蓮夜君かぁ〜…」
「またって何よ?何も変な事してないぞ俺。」
「どうせ可愛いとか綺麗とか言ったんでしょ?直ぐに女の子褒めるんだから…」
「うぅ///確かに言われましたけど、そんなに色々な人に言ってるんですか?」
思わず向かいに座る先輩をジト〜っと睨んじゃう。
「色々な人に言ってる訳じゃ無いよ。主に彩音ちゃんに言ってて顔を赤くさせてるのを見るから、司ちゃんにもそうだったのかな〜?と思ってね。」
「可愛いのを可愛いと言って何が悪いのよ。司にしたって可愛いだろ?眼鏡じゃ無くコンタクトにしたらもっと可愛くなるだろうなって言っただけだっつーの。」
「あぁ…それは確かにね。眼鏡も良く似合ってるけど、コンタクトにしたらもっと可愛くなるだろねぇ〜!」
「うぅぅっ///もうそれは良いですから!食べましょうよっ!冷めたら勿体無いです!いただきますっ!」
「ふふっ。ごめんね?それじゃ後は若い二人に任せてお姉さんはお暇しま〜すっ。」
もぅ!一緒になって誂ってくるし…助けて貰えると思ったのに…
「相変わらずだな…うん、美味い。司はどうだ?」
「美味しいですっ。流石はお二人のお勧めのお店だと思います。お店の雰囲気も凄く素敵ですしこんなお店あったんですねぇ〜。」
「結構、隠れ家的なイメージのお店だからな。潰れるのは困るけど、話題になって混みまくるのも俺としては困るな。」
「お店としては繁盛した方が良いんでしょうけど、それでこのお店の雰囲気が壊れてしまうのは確かに嫌ですね。」
凄く落ち着いて大人のお店って雰囲気だけど、子供の私が居ても可笑しくない空気感もあって自分もオシャレに大人になった様に感じられる素敵なお店だから、先輩の言う事は凄く納得した。
「ふふっ。ありがとね!これは新しい可愛いお嬢様にサービスよっ。」
「あ、ありがとうございますっ!美味しそう…」
苺とレアチーズのタルトケーキかな?上には飾りのミントっぽい飾りもあって凄い可愛い!
「うんうん。素敵な笑顔だっ、ゆっくり楽しんでね。」
先輩と二人…ご飯もデザートも最後の一欠片まで私は堪能して、沢山の事を話しながら最後まで降って湧いた時間を楽しむのでした。
…………………………………………………………
「ただいまー。」
「おかえりなさい。楽しかった?」
「うん!楽しかったし新しいお店に連れて行って貰えたよ〜。これ、先輩から皆さんでどうぞだって!」
「あら…変な気を使わせたみたいね…それで?それで?!キスの一つでもしたの?!」
ぶふぅぅぅぅーーー!私はお母さんの余りに余りな言い方に飲んでいたお茶を思いっきり吐き出してしまう。
「うわっ!汚いっ!いきなり何よ…」
「な、何じゃないよ?!行き成り何を言うかな?!別に先輩とはそう言う関係って訳じゃ無いし!!!」
「え?でも…好きなんでしょ?」
はぃ…?いや…そりゃ~…嫌いでは無いし寧ろ…だけど…ねぇ…?
「好きって…べ、別にそんなんじゃ…まだ知り合ったばかりだし…?私そんなにちょろく無い…筈…」
「自分で気付いてないみたいだけど、蓮夜くんの事を話す時のあんたの顔真っ赤よ?先輩大好き!ってのが誰が見ても分かる位に。男の子として好きなんでしょ?司も遂に初恋かぁ~…子供だと思ってたのに…」
「初恋?!私が?!先輩に?!」
「誰が見てもそうでしょ…何を言ってるのよ?」
一気に今までとは違う意味で顔が真っ赤になった…私が蓮夜先輩に恋…?絶対に叶わないのに…?
でも…うん…先輩に助けて貰って…彩音先輩も一緒だけどお買い物でプレゼントして貰ったり…今日もご飯を一緒に食べに行って凄く楽しくて…今日のお出かけ前も凄く格好にも悩んで、隣に立ってもおかしく無い?と気になったし…先輩に可愛いって言われるだけで嬉しくて、幸せで…
「あぁ…そっか…私…うん!先輩が好き…大好きっ!」
初恋は叶わないと言うけど、確かにこの恋は叶わない。
だって、蓮夜先輩の一番の席はもう埋まってるのは、私にだって分かるから。
「叶わないのは分かってるけど、それでも私は先輩が好き。」
「叶わなくても大切な時間になるんだから思いっ切り楽しみなさい。それに、チャンスもあるかもしれないしね。」
うんっ!ありがとうお母さん!私達の話を聞きながら微妙な顔をしてるお父さんを尻目に私とお母さんは、先輩との時間の楽しさ、どんな事を話したか…自分の影響力を考えずに、女の子を褒めて彩音先輩をヤキモチさせているかそんな話を遅くまで話したのだった。
蓮夜先輩…私は貴方が好きです。
例え叶わなくても側に居させてください。
この日…天羽司は人生で初めての恋を自覚した。
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