第三話 赤山ららは「世間一般にはそれをデートと呼ぶんすよ」と目を輝かせて身を乗り出した。
「おやおや、みなちゃんじゃねすか」
水瀬が上機嫌に体を揺らしながら帰りを待っていると、声をかけてくる人物がいた。
振り向くと、立っていたのは見覚えのある顔。
大きな制服とそれに着られるような身長、長い茶髪は腰まで伸びている。
赤山らら。
高校から知り合った、一番の友人ともいえる相手。
手を振りながら近づいてくるのを、スマホを置いて迎える。
「今、一人すか?」
「ううん、部活の友達と。今トイレ行ってるんだ」
「部活の――あ! 例のカレくん! それってデートじゃないすか!」
「か、彼氏じゃないしデートじゃないよ!」
「じゃあ何だっていうんすか?」
「一緒にご飯食べに来ただけだよ」
「世間一般にはそれをデートと呼ぶんすよ」
赤山は目を輝かせて身を乗り出してくる。
「……そうかな?」
「そうすよ。――いやあ、一回話してみたいすねえ。みなちゃんが好きな人って全く想像つかんす」
「……一緒にいると楽しい人、だよ」
「デレデレじゃないすか。やっぱり隠してるだけで付き合ってるんじゃねすか?」
恥ずかしそうに目を逸らす水瀬の頭をわしゃわしゃ撫でながら、楽しそうに微笑む。
「だからそんなんじゃないって。ほら、あの人鈍感だし……」
「あぁ。そういえばそんなこと言ってたすね」
「もう、告白しちゃった方が楽になれるのかな」
「告白……みなちゃんらしいっすね。その行動力」
「でもさ、実際しようと思っても怖気づいちゃって。相手に嫌われるんじゃないかって」
「される側は案外嬉しいもんすよ。そういうの」
「あぁそうなんだ」納得したように水瀬は相槌を打った後「って、え!? されたことあるの!?」目を見張って赤山を覗き込む。
赤山は少し頬を染め、視線を逸らす。
攻守が逆転したようだった。迫っていく水瀬の瞳がすごく生き生きとしている。
「……断っちゃったんすけどね」
「あ……そうなんだ」
「仲良い男の子だったんすけど、タイプじゃなかった……って言ったらアレすね。恋愛対象に見れなくて」
「ふぅん……あ、幼馴染とかだったの?」
「……!? よく分かったすね!」
「あ、ううん。オタク脳なだけだよ。仲良い男の子なのに、恋愛対象に見れないってなったら幼馴染なのかなって」
「あぁ……確かに、そう言われてみればそうすね」
赤山は頷く。
「幼馴染だったすねえ。今はあんまり話せてないんすけど」
「え、そうなの?」
「そうなんすよ。なんか、避けられてるみたいで……当然といえば当然なんすけど」
「…………そうなんだ」
「でもみなちゃんなら、そう言うの気にせず行けるかもすね」
「ええ!? そう、見える?」
「そうすよ。みなちゃんはちょっとぐいぐい来るくらいでも問題ないすよ。そっちのほうがっぽいっす」
「そっか……うん! がんばってみるね」
いつも通りににっこり笑う水瀬。
赤山は眩しそうに目を細める。
「――なんちゃって! なはは。あーし、彼女も彼氏もいたことないのになんで偉そうに講釈垂れちゃってんすかね。ウケるす」
「……ううん。参考になったよ。ありがとう」
「そすか? 話半分でいいすよ。あーしのいうことはいつも適当す」
自虐的に笑うのを、水瀬は首を横に振って否定する。
「ううん。誕生日プレゼント選ぶの手伝ってくれた時もそうだったけど、アドバイス助かってるよ」
「あ、そんなこともあったすね。もう渡せたんすか?」
「ううん。明日渡す予定。六月三十日」
赤山が目を見開く。
「……へぇ、奇妙な偶然もあるもんなんすねぇ」
「偶然?」
「いいや、こっちの話すよ。――ちなみに、そのちょうど三日後、あーしの誕生日す」
「え、そうなの!?」
「そうなんすよ」
「ごめん。プレゼントとか用意してなくて。何が良い?」
「言ってなかったのはあーしっすから、そんなのなくていいすよ。……あ、でも、お昼ごはんの時にお菓子でも持ってきてくれたら嬉しいすね。一緒に食べるす」
「そんなのでいいの?」
「そんなのでいいんすよ。他の人の誕生日の時もそうだったじゃないすか」
「え…………。じゃ、じゃあ、もしかして、私があの人に誕生日プレゼント渡そうとしてるのって……変?」
「変じゃないすよ、好きなんすよね、その子のこと」
「それは……す、好き、だけどさ」
「それなら、プレゼントで気を引きたいって思うのも人として当然のことすよ」
「……うん、ありがと」
「どういたしまして。――と良い所に、彼氏くん帰って来たっぽいっすね。あーしは退散するす」
「え、話していってもいいのに」
「きっとお邪魔虫になっちゃうし……部活の友達待たせてるから別にいいすよ」
「あ、そうだった。友達さんには申し訳ないことしちゃったね」
「いいんすよ。ヤツらもみなちゃんの恋愛模様に興味あるんすよ。いい土産話ができたす。――じゃ、また明日!」
「うん。じゃあね」
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