エクストリーム通販番組

漢字かけぬ

第1話 月が堕ちる日

 憧れは夜空の星と同じ。

 手が届いて自分のものにした瞬間”飽き”へのカウントダウンが始まる。


 人類が初めてつきへ着陸したあの日から、

 誰1人他に続かない。それは初体験を取られたから。

 宇宙開発はそこで終焉を迎え、飽きられてしまったのだ。


 私は許さない。人類が私を見捨てたことを。

 私は拒絶する。科学の停滞を。

 私は監視者だ。夜を照らし人類の動向を知る。


 つきは疲れました。

 」

 」

 」

 」

 」

 」

 そうですね、私から会いに行けばいいだけです。



 ー 遵法テレビ局 深夜 ー


 陽気なBGMと共に番組が始まる。

 これが最後の放送だ。深夜アニメの間に挟まれた15分ちょっとの通販番組。

 いわゆる穴埋め放送。

 まあ仕事とはいえ、人類最後の日に美人とテレビに出れたから未練はないか。


 「さあ始まりました!!僕が司会のプレジデント月夜つきやと!!」

 「新入りのスター・リング♪商品買ってくれないと

 君の家にワイン瓶投げるぞ☆」

 「ええとスターさんは3日前に逮捕されたアイボシ・アースさんの後釜です。

 因みに今日の服装は金髪ロングなバニー服ですね。とても似合ってますよ?」

 「ぴょんぴょん☆バニーだにゃん♪」

 「地球に月が迫ってる中で迫真のブラックジョークですね。

 まあこの番組も最終回なんですがね」hahahahaha


 ウサギなのにニャンてなんだよ!!!

 というかウサギってなんて鳴くんだ?おいおい人類最後の日に謎が増えたぞ!



 ー 断頭台君 ー



 「最初の商品はこちら♪ケーキ切断装置”断頭台君”です☆」

 「不謹慎な名前ですねー」


 ホールケーキを覆い隠すような巨大なプラスチックの円柱。

 色は透明スケルトンで内部構造が見える。

 多分開発したのゲームムーン・アドバイス世代だろ!!

 ゲーム機の電子基板ならともかく、断頭台の中身など見とうない!!!


 「この断頭台君には隙間が設けられていて、そこに金属の板を差し込みます♪

 3人用、5人用、7人用です♡これで権力争いはなくなります☆」

 「これは嘘ですが某独裁者もチョコケーキの分け方にキレて

 ボールペンを投げて抗議したほど。これは世界大戦の遠因を解決するアイテムです」


 というかなんで奇数人数用なんだよ!!・・・違う!!素数だ!!!

 どうせなら2人用か4人用もつけてくれませんかねぇ!!


 「ちなみに姉妹品、ロールケーキ切断機”アイアンメイデン君”もご紹介☆」

 「ネーミングセンスが異次元ですね」


 世界が終わるからって倫理観無視商品名出過ぎじゃないっすかねぇ!!

 絶対大人のおもちゃスタッフが監修してるだろ!


 「お値段は断頭台君が8000円☆メイデン君が7500円♪」

 「ちなみに送料は別途です、お間違えなく」


 いや高ぇよ!!!包丁買うわ!!!


 「今ご購入いただくとオマケでツキモンカードのボックスが付いてきます♪」

 「お得ですねー」


 むしろそっちが本体だろ!!!!!!!

 やってることが転売屋じゃねーかよ!!!!

 断頭台君つけて法律の網くぐろうとすんな!!



 ー 無 ー


 「続きましてはこちらの商品。”無”です♪」

 「何もありませんよ?」

 「にゃは☆この商品は使用済み消火器の中に補填されてるワン♪」

 「なるほど、中に何もありませんね」


 この女ウサギ設定忘れてるだろ!! 


 「ですので無とのセット商品になります♪これで消防署の査定をクリア☆」

 「護身用にもどうぞ」


 いざって時に使えなくね?


 「早期購入者特典としてツキモンカードと本物と同じシール会社の横な・・

 正規品の消火器のシールもプレゼントでカバ♪」

 「中に水を入れれば本物と同じですね」


 サラっと偽装してんじゃねーよ!!!

 あとツキモンカードで釣るな!!



 ー 最後の商品 ー



 「最後の商品はこれ!!婚姻届け♪当然ツキモンカード付きだゾウ$」

 「私は結婚してるので、弟用のを買いたいですね」

 「ここでスター・リングの粛清ポイント!!

 なんと日本銀行券を慰謝料として払うことでNT-Rねとられができます☆

 愛しの彼も彼女も金次第♪」

 「法律の穴をついたいい戦術です」


 確かにそうだけどさ!!!!!!!!!!!!!!!!!


 そう思っていたら何やらスタッフが慌ただしい。

 アニメ会社が万策尽きたらしい。

 まあ自分が死ぬって時に激務なアニメ制作なんてやってられないか。


 放送枠確保の為にCM含めて30分持たせろとのカンペからの指示。

 もーーーーーう!!!やってられるか!!!!!!

 なんで俺仕事してんだよ!!!!

 外なんて治安どころじゃない。

 宝石店は襲撃され、銀行にトラックが突っ込み、消防署は放火される世紀末。

 これが人のエゴってやつか。宝石も金もあと数時間後には無になるのにさ。

 いっそ俺もその仲間に加わればよかったか。


 「人類最後の通販番組いかがでしたか?

 私は今回の月接近は人類が月を忘れた報いだと考えます」

 「あの・・スター・リングさんキャラ設定忘れてますよ?」

 「強制収容所送りにされたくなければ黙っててください」銃突きつけー

 「ふぁい」お手上げー


 おいおいおい、俺死んだわ


 「コホン。このまま月が衝突すれば人類絶滅です。

 かといって核ミサイルを放って月を破壊したところで重力が歪み、

 被害の予測ができません。


 太陽系や銀河系からしてみれば1つの星が滅びただけの事。

 ただの数。統計で処理されます。


 願わくばこの放送を録画した映像媒体があなたの惑星に届くことを。

 いえ言語が分からないでしょうが我々の生きた歴史を。

 そして警告を。


 愛に飢えたるは人だけではありません。

 惑星とて例外ではなく重力によって人々を縛り、愛する人類の脱出を阻みます。

 そう考えるとロマンがあるでしょ?」ジャキ

 「い、いえす」おどおど


 銃を向けて脅すな。


 「さて、茶番はこれぐらいで。

 私は人類が好きなので月が落ちて全滅なんて嫌なんですよ」ニィ

 「それを何とかできないから僕たちは迷走中ですし」

 「言い方を変えましょう。

 ”月如きにやられるくらいなら、私の手でやります”」

 「ヤバい!!!」


 とっさに判断し売り物である消火器を手に取る。

 耐久面は分からないけれど。

 うさ耳バニーの通販番組の時点で正気じゃないがもう無理!!!

 だって俺雇われのサラリーマンだぜ?

 警備員とか警察が何とかする事案じゃん。


 「放送時間はまだありますよね?

 余命宣告されてヤケを起こした人々が大多数なのに、この国だけですよ?

 仕事を律儀にしてるの」

 「でしょうね!!!!!」


 銃口を向けるバニーと消火器を構える俺。

 何だこの画?


 「大変です!!!ニュース見てください!!!

 あとこの番組も途中から緊急速報に差し替えられてます!!!」

 「あー、スターさん一時休戦ってことでニュース見ません?」

 「いいでしょう」


 ナイスタイミングだ!!アシスタント!!!

 で、放送室に向かい衝撃の事実を知る!!!!

 あのテレビ月京がアニメ放送せずにニュースを放送していた!!!

 これは特大レベルの事件だ!!!!


 「ええと、宇宙開発の権威MOONSAによれば、

 月に送り込んだ部隊が核エネルギー噴射装置の取り付けに成功。

 現在元の周回軌道までもどりつつ・・・ある」ゑ?やばたにえん

 「つまり!!」わくわく

 「月は元通りってことですね・・・。

 キャハ♡じゃあ放送終わったんでおつかれっしたー☆」口笛♪

 「いや帰らせねえけど!!!!!!!!」まてまてまて


 「何なんですか?人類が助かったんでデートでもしたいんですか?」

 「いや銃向けられたんだよ!!!生放送で!!!警察呼ぶからな!!!」

 「・・・・覚えてたんだ」あーあ

 「罪を償ってくれ」

 「できませんよ?だって1か月で人類の7割が犯罪者。

 全員逮捕すれば刑務所の問題ではなく、経済活動が停止してしまいます。

 故にこの期間の犯罪はすべてうやむやになると予測。

 もし1件でも立証してしまえば、逮捕を恐れてさらに治安が悪くなります。

 捕まらないために罪を重ねるんです」

 「・・・・頭いいな。スターさん」

 「なんのことかニャ~。私はウサギ星人、月の使者コン☆」

 「せめて謝ってほしいな」

 「・・・・日本銀行券で」

 「いや!金の問題じゃなくて!!!」

 「おまけでツキモンカードも付けるんで♪」

 「そのネタまだ引っ張るの!!!」


 どうやら謝る気はないらしい。


 ー 月夜の自宅周辺 朝 ー


 明日もあの人と仕事するのかと思うと吐き気を催す。

 公共機関である電車が狙われなかったり運行に支障がないのを見るに、

 暴れていたのは社会に不満を持った人達か。

 この国何したら仕事から解放されるんだ?


 不良が壁に描いたよく分からないサインが至る所にある。

 これぐらいなら小さな反抗だと思いつつ家に戻る。

 月夜家も俺以外は荒れていた。

 金は俺が稼ぎ何不自由ない生活をさせてきたつもりだ。


 しかし月落下のパニックに流され、妻は浮気でもしてるんだろう。

 ストレス発散や、そういう年頃かと思っていたがもうどうでもよくなった。

 探偵を依頼して慰謝料でも貰おうか。


 スマホで探して連絡、やっぱ朝早くでは繋がりにくいか。


 ・・・・もうちょっとこう隠そうぜ。

 急に金払いよくなって、服の好み変わってりゃ分かるって。


 「はい?スター・リング探偵事務所ですが」

 「浮気調査をお願いしたい。予算と必要期間を教えてください」

 「・・・・あの、もしかして月夜さん?報復に電凸しに来たんですか?」

 「なんで俺の名を?」

 「・・・・我々の勘違いでしたね」あせあせ

 「なんか果てしなく不安なんだけど」げんなり


 電話に出た女性は俺を知っている?

 まあ勘違いかもな。俺の頭も仕事明けで回ってないし、

 探偵の名前すらネットの検索候補で上のヤツに連絡入れたわけだ。



 ー 真実 ー


 スターさんは妻が俺の浮気を確かめるため送り込んだ探偵だ。

 どうやら俺は全くの白、つまり潔白だ。

 対して妻は・・・・もはや語るまでもない。

 非常事態とはいえ仕方ないけどな。



 今回の月接近は非常事態に備えての惑星総出の極秘任務。

 エクストリーム社会実験だった。

 いうなれば避難訓練やドッキリの類い。


 これは企業の大幅リストラのための布石。

 今回の罪を理由にコストカットを狙う別会社の役員たちが結託して

 政治家に依頼したものという形で決着がついた。

 まあこれは大本営発表。真実とは限らない。




 今の妻とは別れて慰謝料及び親権も確保。

 スターさんが一枚噛んでいたようだが何者なんだ?銃まで持ってたし。


 

 ー 未来での出来事 ー


 「ママー、パパー。ケーキ!!!」

 「はーい♪この断頭台君で3等分☆」

 「まだ残ってたのか、ソレ」ドン引き

 「なんだかんだ思い出の品じゃん♡」

 「そうだけどさ。別に包丁使えばいいだろ!!!」

 

 あの時の婚姻届けでスターとは結婚した。

 バツイチで子持ちの俺にプロポーズする意味は分からなかったが、

 当人に聞いたら”私は月の使者♪キリッ”との談。

 ここは死後の世界じゃないのかと思うほどの意味不明っぷりだ。


 「じゃあ、仕事行ってくる、今日も朝帰りだ」

 「うわきしちゃだめだよー」

 「そんな言葉どこで覚えたぁー。パパは悪い人じゃァないぞー?」なでなで

 「うわぁ、親馬鹿」ドン引き

 「ちょ!!!スター!教育に悪い物見せてるんじゃないだろうな!!」

 「昼ドラとアニメしか見せてません♪」

 「あんまドロドロなの見せるなよ」引き気味


 今夜の月も奇麗だ。スターのようにな。



 ー 夜 遵法テレビ局 ー

 

 「さあ始まりました。司会の僕プレジデント月夜がお送りしますは・・・」




           ー エクストリーム通販番組 完 ー


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