第139話 少年期 刀との出会い

「刀? ですか」

「はい、そうです。こちらの方ではあまり見たことがないのではないでしょうか?」

「そうですね」


 商人から渡された刀を受け取ってみる。それなりに重さはあるけど、同じ長さぐらいの剣よりも軽い。許可を取って鞘から抜いてみると、すらりと銀色の刀身があらわになる。


「剣と違って片方しか刃がついていないんですね」

「ええ、その通りです。 どちらも武器であることは変わりありませんが、使い方に違いがございます」


 商人は僕から刀を受け取ると刀身を指さす。


「私は商人なので実演などはできないのですが、例えば剣であれば武器自体の重量を生かして叩き切ったり、突き刺すといったことになるでしょう。ですが、刀は違います。刀は叩き切るよりも切ることに特化しております」

「切ること……」

「はい、それにこの薄さでありながらなかなかの強度を持っています。しかもただ硬いだけではありません。鋼を熟練の職人が何度も鍛錬を繰り返すことで金属特有のしなやかさを持っているんです」


 そこからも興奮気味に刀について色々と教えてくれる商人に相槌を返していく。確かに剣とは違う近接武器として優秀そうなのはよくわかった。


「あの、それでどうして僕に刀を勧めようと思ったんですか?」

「一つはお客様の体格です。大変失礼ながらお客様はまだお若いとお見受けします。その剣もお客様に合った大きさの良いものだと思いますが、やはりそれでも剣を振るい続けるには体力がいるのではないでしょうか? 例え、身体強化の魔法を使っていたとしても」

「それは、そうですね……」


 普段から鍛錬はしているけど、やはり振り続けていると剣の重さが腕にくるなんてことはよくある。実際の戦闘では商人さんの言った通り身体強化を使っているからそこまでではないけれど、それでも最初の一振りの速度などはまだまだだと自分で思っている。


「その点、刀は剣よりも軽く、腕への負担が減ることができます。また、武器の重さが軽くなるということは、つまり身軽になるということでもあります。今まで剣で受け止めなければならなかった敵の攻撃を身軽になって事で回避することが容易になる。そして回避してから攻撃に転じるまでの動きも早くなる」


 商人の話は具体的で頭の中でイメージしやすい。確かに剣で受け止めた場合、相手の攻撃を弾き返すなり、距離を取るなりしてから攻撃に転じなければならなかった。けど、聞いたところであれば、刀に変えることでステップを踏み攻撃を避け、そのまま攻撃に転じるってことも出来そうではある。


「それと二つ目ですが、これでも私は何百何千人ものお客様に武器をお売りさせていただいておりました。その中には駆け出しの冒険者の方もいらっしゃれば、騎士の方、貴族の方、有名な剣豪など様々です。私自身はそこまで武芸に秀でているわけではありませんが、様々な方々を見てきたことで目は肥えていると自負しております」


 商人はそう言ってシオンに視線を向ける。

「お客様は筋力、つまりは体格についてはまだ成長途中。ですが、剣技に関しては既にある程度の実力をお持ちのように感じております。刀に大事なのは力ではありません。技術です。だからこそ私はあなたにこの刀という武器をお勧めしたいのです」

「なるほど……」


 ただ商品を売りつけたいからであればもっと理由付けは適当な感じな気がする。だからこの商人の言っていることは本心じゃないかと思わされる。


「もちろん、こうして刀をお勧めしておりますが、もちろん剣から刀に変えることでデメリットもあります。刀はその鋭い切れ味と軽さを実現している分、強度においては剣に劣ります。相手の攻撃についても上手く受け流すようにしなければ刀身はすぐにはこぼれを起こしてしまいます。それに剣と刀では立ち振る舞い方も変わってきます、それを覚えていくのにはそれなりの努力が必要になります」


 確かに、武器を変えるということはまた一からその武器の特性だったり、それに合わせた動きを覚える必要がある。もちろん剣をやってきたことで生かせる部分もあるだろうが、それじゃないところも多くあるだろう。


 それに一番の問題は剣であればブルーノ兄さんと言う師事できる人がいたけれど、刀になれば生憎と手本となるような人には出会っていない。つまり、全て独学でやっていくしかなくなるのだ。大変なことが多いのは間違いない。でも心の何処かでこの刀という武器に惹かれている自分がいる。


「いかがでしょう。もちろんすぐに決めていただく必要はございませんし、どうするかもお客様の自由です。よろしければこちらを」


 商人はそう言うと、棚の下の方から一本の刀を取り出して渡してくる。


「えっと……?」

「護身用として私が持っているものです。ここに並んでいるものよりも質は悪いですが、それでもちゃんと刀として使えます。こちらを差し上げますのでどうぞ試してみて下さい」

「いや、それは……」


 シオンが遠慮しようとしたのをすぐに商人が口を挟む。


「元々そろそろ買い替えようと思っていたのです。その代わり使ってみて、もし刀を今後も使っていきたいと思いましたら是非うちのお店で」

「わかりました、ありがとうございます!」


 シオンは商人に頭を下げ刀を受け取るとお店を後にした。

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