第138話 少年期 東方からの商人

 民族衣装の露店を後にしてしばらく。露店街もそろそろ終わりのところでシオンは足を止めた。


「ここは武器のお店みたいですね」

「そうみたい……」

 フェリの言葉に頷く。


 店には剣や槍、弓といった様々な武器が所狭しと陳列されていた。ただ、良く見える位置に置いてある武器はどれも使い勝手よりも、見た目に重視しているように見える。もしかしたらお金持ち相手のお店なのかもしれない。


「いらっしゃいませ、よかったら見ていってください」

 奥の方で暇そうにしていた店員がにっこりと笑みを浮かべながら近づいてくる。かなり恰幅の良い男性だ。こちらでは見たことがない着流しのような服に腰の少し上のあたりを帯で止めてある。これもどこかの民族衣装なんだろうか。


「ありがとうございます、でもちょっと持ち合わせが……」

 シオンの視線の先を辿った商人が「ああ」と声を上げる。

「ご安心ください、あれは裕福層の方々に向けた見た目重視のものですので。他のものについてはそこまで値段が張るものはありませんので。中の方には実用的な武器も置いてありますので」


 店員が指さした先の武器は確かに見た目よりも性能を重視しているように見える。個人的には少し見ていきたいけど、リアやニーナさんは興味ないだろうし……。 


「シオン、私たちは少し休憩してるからフェリと一緒に少し見てきていいのよ」

 シオンの心を先読みしたようにティアナが口を開く。

「いいの?」

「ええ」

「ありがとうございます」

「シオンお兄さま、いい武器が見つかるといいですね」

「うんありがとう、リア」

 リアの頭を撫でてから微笑ましそうに眺めていた店員に向き直る。


「それなら少しだけ見させてください」

「いえいえ、ゆっくりとご覧になってください」

「ありがとうございます。フェリいこっか」

「はい」

 シオンとフェリは店内に入っていった。


「本当に色々な武器が置いてありますね……」

「そうだね」

 表から見えていた武器と一目で違うとわかる。無駄な装飾などはなく少し無骨に思えなくもないけど悪くない。


「シオン様、見てください」

 フェリが手に取ったものは小さな鎌だった。鎌の柄の方から鎖が繋がっており、その先端には分銅がくっついている。なんだか不思議な武器だ。


「鎖鎌っていうみたいですね」

「そうなんだ、初めて見たね」

「私もです。でもどうやって使うんでしょう?」

「値札の下に小さく説明が書いてある、えっと」


 <鎖鎌> 

 敵の頭部・顔面・脛・小手の部分を狙って分銅を打ち付けたり、敵の武器を鎖で叩き落したり、敵の手首や足に鎖を絡めさせたりしながら、敵の動きを封じたあと左手に持った鎌刃で斬りつけとどめを刺す。

 

「この分銅の付いている鎖を相手に投げたりして戦うみたいだね」

「なるほど、かなり技術が必要そうですね」

 フェリは元あった位置に鎖鎌を戻す。

「うん」


 使いこなせるようになるまでに結構な時間がかかりそうだし、僕が使うことはなさそう。

「こっちにもいろいろありますね……」

 フェリの向かった先は槍やそれに近しいコーナーのようで普通の槍の他に、ラウラ先輩が使っているような薙刀などが壁に立てかけられている。


「なんだろう、これ」

 そんな中一つの武器に目が向かう。三つの木の棒を鎖でつないである。

「三節混って書いてありますね」

 フェリが値札下を読んでいく。


「振り回して敵を殴打したり、関節部分を接合して一本の棒にしたりできるみたいです」

「そうなんだ」

「ただこれも使えるようになるにはかなり時間が必要そうですね……」

「そうだね……」

 それに棒にできたとしても強度的にそこまで強くないだろう。面白いけど、これもあんまり実用的じゃないかも……。


「いかがです、なにか気になるものはございましたか?」

 いつの間にかシオンたちの後ろにきていた店員が声をかけてくる。

「すいません、今のところは……。色々見たことない武器はあるんですけど……」

「気にしないでください、どれも癖がありますからね」

 店員は気にした様子なく快活そうに笑って見せる。


「ちなみにお客様は普段どういった武器をお使いになってるんですか?」

「私は槍です」

「なるほど、失礼ながら白狼族の方でしょうか?」

「はい、そうですが……」

「ああ、すいません、確かに身体能力が高い白狼族の方なら槍は向いてそうだなと思いまして」

 店員が落ち着いた感じで答える。


「私の国では獣人の方々に差別などは行っていませんので、そこはご安心ください」

「あ、ありがとうございます」

 フェリがお礼を伝えると店員はにっこりと微笑む。


「それで、お客様は何の武器をお使いになられているんですか?」

「剣です」

「そうだったんですね」

 店員はそう言ってシオンの体をつま先から頭まで凝視してくる。


「それでしたら一つ私の方からご提案させていただけないでしょうか? お客様にぴったりの武器がございまして」

 店員はそういうと、店内の最奥の方に案内していく。


「こちらですね」

 店員が1つの武器を手に持ってシオンに差し出してくる。

「これは?」

「はい、こちらは私の祖国の武器である刀になります」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る