第137話 少年期 散策
「それじゃあ荷物も置いたことだし、散策に行きましょっか」
「はい!」
ティアナの掛け声にリアが勢いよく反応する。
「一緒に行きたいところだけど、僕は仕事しなくちゃいけないからパスで」
「そうなんですか?」
「うん、少し離れてるだけでも色々と処理しなきゃいけないものが増えててね」
「わかりました」
残念だけど、こればかりは仕方ない。
「散策するなら港の方に行くといいよ。王国外の商品とかを売ってるお店が多いから」
「そうします」
ここにいるミヒャエル兄さんのおすすめだ。間違いはないだろう。
「それじゃあミヒャエル兄さん私たちは行ってくるわね」
「行ってきます!」
「ます!」
「気を付けてね」
邸宅の前でミヒャエルに見送られながら、シオンたちは街中へ繰り出した。
「どんなものがありますかね!」
「そうだね」
るんるんで歩くリアの手を握りながら大通りを進んでいく。
街の外観はあまりローゼンベルクの街と変わりないけど、歩いている人たちは大分違う。
「シオンお兄さま、あそこの人が着ている服可愛いですね」
「えっ、ああ、そうだね」
リアの指さした先にはスレンダーな女性がチャイナドレスのような服を着ていた。横に入っているスリットから太ももがちらりと見えており、それが色っぽく見える。
「……ふふっ」
視線に気づいた女性がこちらに手を振ってくる。見られてたことがバレて少し恥ずかしさを感じつつもリアと一緒に小さく手を振り返す。ちなみにリアはぶんぶんと大きく手を振っていたので周りの人たちから微笑ましそうに見られていた。
「シオンはああいう服装が好きなのね」
「えっ、いや……」
「いいこと知れたわ」
ティアナが満足げに頷く。
「ティアナお姉さま、リアもあのお洋服欲しいです!」
「リアにはまだ早いんじゃない? フェリとかニーナさんは似合いそうだけど」
「へっ!?」
「私はあんまり……」
驚くフェリに、どちらかと言えば遠慮したそうなニーナさん。ティアナ姉さんの見立て通り、すらっとしているニーナさんならああいったタイトな服似合いそうなんだけど。
「そんなことないです! リアも似合います!」
「ごめんごめん。そうね、サイズが合ったら一緒に着てみましょう」
「はい♪」
ぷりぷりしていた様子から一転して、リアが顔を綻ばせた。
「それにしてもやっぱりこの国の人じゃない人たちも大勢いるみたいね」
「そうですね」
ティアナの言葉にシオンは頷いた。
港の方に近づくにつれ様々な服装の人々の姿が目に入ってくる。さっきのチャイナドレスみたいな服装の人もいれば、着物のような服を着ている人に、つばのない赤い円筒状の帽子をかぶった人と多種多様だ。
着ている人たちも肌の色や髪型、彫の深さなど、違う国の人と思われる人が大勢いる。もちろん獣人の人たちの姿も見える。国が違えばルールも違う。そんな様々な人種がいる街をミヒャエル兄さんは任されているんだ。
「そろそろ港に着きそうね」
「おっきい船がいっぱいです!」
港には大きな船が何隻も並んで停泊していた。船の形もまた国ごとに違いがあり、見ているだけでも結構面白い。
甲板の上では積み荷作業をしているのか、日焼けした屈強な船員たちが次々に木箱を置いていく。
「シオン、リア、こっちも凄いわよ」
ティアナの視線の先には港と並行している通り一面にお店が立ち並んでいた。ここから見ているだけでも見たことがないようなものが数多くある。
「あそこさっきのお姉さんが着てたみたいな服があります!」
「リア、ちょっと待って!」
一角を指し示しながらリアがシオンの手を引っ張る。
「人が多いから走らないようにしようね。はぐれると大変だし」
大通りよりもこちらの通りの方が人の数が圧倒的に多い。みんなこの街にくる目的が他国の商品なんだ。
「ごめんなさい」
「うん、次から気を付ければいいからね」
しゅんとしているリアの頭を撫でながら語り掛ける。
「それじゃあ最初はリアが見つけたところに行きましょうか」
「はい♪」
ティアナの掛け声を合図に一行はまずリアが見つけた民族衣装を売っている露店に向かった。
「シオンお兄さま、この服似合いますか?」
「うん、似合ってるよ」
「ほんとですか! ティナアお姉さま!」
「わかったわ、それじゃあ私はこれを、フェリはこっちの方が良さそうね」
「そうでしょうか?」
ティアナが露店の服をフェリの体にあてがってみる。
やっぱり女の人って服を選ぶのが好きなんだな。話にこそあんまり入っていないけどニーナさんも一つ一つ服を手に取って吟味しているし。
「その……シオン様」
「ん?」
いつの間にか傍まできていたフェリが赤いチャイナドレス風の服を自らにあてがいながら尋ねてくる。
「そ、その、この服似合ってますか?」
「うん、いいと思う」
白い尻尾と耳に赤い服は良く映える。それにフェリは足が長いからこういったタイトな服が合っている。
「店員さん、この子獣人なんだけど……」
「ああ、尻尾の穴ね。仕立て直すのに少し時間がかかるけど構わないかい?」
ティアナが尋ねると恰幅の良いおばちゃんが答える。
「構いません」
「はいよ、じゃあ1時間後ぐらいにまた来てくれるかい? それまでには終わらせておくよ」
「ありがとうございます」
「いいえ、さっ、他の店でも見てきな!」
威勢のいいおばちゃんに見送られながらシオンたちは他の露店に足を向けた。
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