第135話 少年期 埋まっていく予定
「俺がいない間にそんな話してたのかよ」
「ブルーノ兄さん、笑いごとじゃないですからね……」
これまでのあらましを聞いて白い歯を見せながら笑っているブルーノを睨む。
「別にいいじゃねぇか。誰にも迷惑かけてないんならよ」
「そういう問題じゃ……」
「まぁまぁ、それよりシオン剣術の腕は上がったか?」
「どうですかね……鍛錬は続けてきてますけど……」
「Cランク冒険者になったんだから大丈夫よ」
「Cランク!?」
ブルーノが叫ぶ。その傍でミヒャエルも大きく目を見開いていた。
「シオンお前Cランクになったのか!?」
「えと、はい、ローゼンベルクに帰ってくる直前にですけど」
「まじかよっ!」
「うわっ!?」
ブルーノが乱暴にシオンの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「凄いぞシオン! もうCランクかよっ!」
「ちょっとブルーノ兄さん!」
「わりぃ、わりぃ。ついな」
嫌がっていることを察してブルーノがようやく手を引っ込める。
「おめでとうシオン」
ミヒャエルが嬉しそうに口を開く。
「ありがとうございます。そう言えば2人ともお仕事の方はどうなんですか?」
「うっ!」
「順調だよ」
兄たちの反応は対照的だった。顔色一つ変えないミヒャエルに対してブルーノは明らかに動揺していた。
「まぁ、ブルーノの方は……ね」
「その反応止めろ。俺の方も基本問題ねぇよ! ……書類仕事を除けば」
ぼそりと最後に呟いた言葉を除けばかっこよかったのに。
「めんどくさいからって後回しにしてたら量が増えて余計面倒になるよ」
「わ、わかってるっての、そんなことぐらい」
「本当にわかってるならさっきまで仕事してないでしょ?」
「ぐっ……」
完璧な正論にブルーノはぐうの音も出ない。
「ま、まぁ、でも今日の分は終わってるみたいですし」
「……」
……ブルーノ兄さん、どうして無言のまま視線を逸らすんですか? 仕事が終わったから談話室にきたんじゃ……。
「ブルーノもしかして仕事ほっぽり出してここにきたの?」
ミヒャエルが非難の視線を向ける。
「ほっぽりだしてねぇわ! ちょっと休憩にきただけだっての!」
「ということはやっぱりまだ終わってないのね」
ティアナとミヒャエルが揃ってこれ見よがしにため息を吐いた。
「話が変わるんだけど……」
それから暫くして、ミヒャエルがそう言葉を紡いだ。ちなみにブルーノは少し前にアルベルトと使用人たちによって執務室に連れて行かれている。
『もう書類仕事したくない!』
そう駄々をこね始めた時の空気と言ったら……。
特にティアナとリアの視線が冷たかったのを覚えている。
「なんですか、ミヒャエル兄さん?」
「シオン良かったら港町に来てみない?」
「港町ってミヒャエル兄さんが内政を任されているところですよね」
「そう、港町ノッテルダム。良いところだよ。もちろんみんな一緒に」
「そうですね……」
僕個人としては行ってみたいけど、ティアナやリアはどうだろうか?
シオンは視線をみんなに向けてみる。
「ミヒャエルお兄さま、港町ってことは海が近くにあるんですよね?」
「そうだよ、綺麗な砂浜もあるから泳げるよ」
「海、砂浜♪」
うん、リアは大丈夫そうだ。さっきから目をキラキラと輝かせているし。
「ティアナはどう?」
「私も構わないわ」
なんだか裏のありそうな笑みを浮かべているのが気になるけど、ティアナ姉さんも賛成みたいだ。
「それでどうかな? シオン」
「はい、行ってみたいです!」
「わかった。じゃあ1週間後ぐらいに向かおうか」
「わかりました!」
港町。これまで行ったことのあるのは陸地の街ばかりだからかなり楽しみだ。
「珍しいものがいっぱいあるわよ」
ティアナが口を開く。
「そうなんですか?」
「ええ、港から珍しいものが入ってくるからここら辺じゃ見ないものも沢山あると思うわ」
「美味しい食べ物とかもあるんですか?」
リアがわくわくした様子で尋ねる。
「そうだね、こっちにはないようなお菓子や食べ物もあるよ」
「わぁ♪ シオンお兄さま、向こうに行ったら色々食べ歩きしたいです!」
「そうしよっか」
「はい♪」
リアが嬉しそうにえへへと口元を緩める。
「リアったら食いしん坊ね」
彼女の嬉しそうな様子を眺めていたティアナが噴き出す。
「そ、そんなことないですっ!」
ぷくっと頬を膨らませながらリアが声を上げる。本人は怒っているのだろうが全く怖くない。むしろ可愛い。
「フェリはシオンの専属だから当然来るとして、ニーナさんも来ませんか?」
ティアナが口を開く。
「私もよろしいんですか?」
「ええ、ミヒャエル兄さんいいわよね?」
「構わないよー、泊る部屋も余裕あるし」
「ありがとうございます。私もお供させてください」
こうして一行は一週間後にミヒャエルが内政を務めている港町、ノッテルダムに伺うことが決まった。
なお、ブルーノについては仕事が終わればついていくことがアルベルトさんから許可された。
ちなみに、その日から港町に出発する当日まで、屋敷では夜中に男性のうめき声が聞こえるという怪現象が発生していたのだが、それはまた別の話。
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