第134話 少年期 タラシ?

「そう言えばシオンたちはどれぐらいいるの?」

 エラが持ってきてくれた紅茶を嗜みながら談笑していたところで、ふとミヒャエルが口を開いた。


「3週間ぐらいはいるつもりです」

 既に7月の終わり。王都に向かうのに一週間と考えれば長く滞在できでもそれが限界だろう。


「そっか、それじゃあ結構時間があるんだね」

「はい」

「こっちで何かする予定とかはあるの?」

 ミヒャエルが続けて尋ねる。


「はい!」

 シオンが答えるよりも先に、膝の上で美味しそうにクッキーを食べていたリアが手を上げる。

「はい、リア」

「一日リアとデートします」

「えっ!?」

 そんな予定聞いてないけど!?


 シオン驚きをよそにリアはエッヘンと胸を張ってみせる。

「そうなんだ、楽しみだね」

「はい♪」

 ミヒャエルはリアに視線を合わせながら優しく微笑む。


「じゃあ私もシオンと一日デートしよっと」

 その話を聞いていたティアナが便乗するように予定を決める。

「フェリもするでしょ?」

 そして当然のように隣に控えているフェリに尋ねる。


「い、いえ、私は使用人ですから……」

 殊勝に答えるフェリだがその視線はちらちらとシオンに向かっている。

「本音は?」

 当然、その様子を見てティアナが引くわけがない。


「それは……」 

「んー?」

「その……」

「行きたいでしょ?」

「……」

 コクン。小さくしかしはっきりと彼女の首が縦に振られる。


「じゃあ、フェリも決まり。だから3日間は予定があるわね」

 あっ、もう決定事項なんだ。断るつもりはなかったから問題はないんだけど、なんだか釈然としないところもある。


「シオン、モテモテだね」

「そうよ、それに学院でも人気あるのよ」

「そうなんだ」

 ティアナの言葉にミヒャエルが興味を示す。


「前に手紙で書いてた新しく王都の屋敷で雇った子たちも?」

「それもあるわね……」

「なるほど、その時点で5人」

 ミヒャエルは右手の指を折っていく。


「学院の方は? ティアナから見て」

「そうね……」

 彼女はぽんぽんと指を折りながら考え込む。なんでそんなに指が折れていくのかな……。


「ひとまず私が知っている範囲で確実なのが4人、候補になりそうなのが4人ってところかしら」

「凄いね。まだ入学して半年も経ってないのにシオンは意外と手が早いんだね」

「ちょっとミヒャエル兄さんっ!?」

 不名誉な言い周りにシオンが抗議する。


「シオンお兄さま、手が早いってどういう意味ですか?」

「えっと、リアはまだ知らなくても大丈夫かな。それよりもクッキー美味しい?」

「美味しいです! シオンお兄さまも食べますか?」

「うん、ありがとう」

 リアが差し出してきたクッキーを口に運ぶ。オーソドックスなクッキーだけどほのかな甘さが口の中いっぱいに広がっていく。


「上手く話を逸らしたね?」

「そんなことないです、それより人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!」

「でも、事実なんでしょ?」

「そんなことないです」

「そうなのティアナ?」


 2人の視線を受けたティアナはティーカップをテーブルにゆっくりと戻す。

「そうね……手は早くないわね……」

「ほら!」

 シオンが意気揚々と声を上げる。

「たらしこむのは早いけど……」

「え゛」

 また不名誉な単語が聞こえてきたけど気のせいだよね?


「なるほど」

「ティアナ姉さん! ミヒャエル兄さんも当然のように納得しないでください!」

「ええー、でもそれこそ事実じゃない」

「そんなことないです!」

「あっ、でもレアーネには自分からキスしてたからやっぱり手が早いのかも」

「なっ!?」

 その時のことが思い起こされ、シオンの顔が赤みを帯びていく。


「あれは医療行為みたいなものです! それに時間もなくて……」

「どちらにしても唇を奪ったのは事実なんだー」

「それは……」

「うん、事実みたいだね」

 表情を見ていたミヒャエルが納得したように頷く。2体1じゃ分が悪い。1人味方を作らないと。


「フェリはそんな風に思ってないよね?」

 シオンは縋るような気持ちでフェリに視線を投げかける。タラシで手が早いなんてろくでもない奴のイメージしかない。

「えっ!?」

「フェリ、忖度しなくていいのよ」

 一同の視線がフェリに集まる。


「えっと、その……」

 彼女はおろおろと視線を彷徨わせる。大丈夫、フェリはきっとわかってくれているはず……。

「……手が早いとは思ってないです……」

「うんうん」

 いいぞフェリ。もっと言ってくれ。

「……」


 うん? あれ、それで終わりなの? タラシの方は……?

 救いを求めるように瞳を向けるもフェリは申し訳なさそうに外してしまう。

「……っ!」

「結果が出たわね」

「そんな……」


「そう言えばギルドマスターも笑いながら言ってましたよ。『あいつはそのうちこの国一のタラシになるかも』って」

 静かに成り行きを見守っていたニーナの一言にシオンはぐったりと肩を落とす。


「シオンお兄さま、どうかしました? クッキー食べます?」

 1人状況を理解できていないリアが心配そうにシオンを見上げる。


「シオンっ! ってあれ、どした?」

 ばんっと力強く扉を開けて入ってきたブルーノはうなだれているシオンを見て、頭に『?』を浮かべていた。 

 


 

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