第124話 少年期 カフェでの接客②

「ここの制服、学院のに似ているね」

「そうですね、お嬢様もそう思いませんか?」

「そうね……」

 シオンが慌てぶりを無視しながら3人は制服をまじまじと観察していく。


 なんでここに3人がいるんだっ!? 

 家族にすら伝えてなかったのに!!

「ほらシオン君、お客様を席に案内しないと」

 振り返ればそこにいたのはこの状況を楽しそうに眺めているセシリー先輩。これだけで何となく状況が読めてきた。


「……セシリー先輩、もしかしてみんなに伝えました?」

「嫌だなーシオン君」

 彼女はにまにました笑いをしたまま続ける。

「もちろん宣伝するに決まってるじゃん!」

 

 やっぱり!!!

 元凶はこの人だったんだ。

「それよりもほら後ろにお客さんも来ちゃってるんだから、しっかり頼むよ」

「……はい」

 恥ずかしいことこの上ないけど、頼まれた以上しっかりとやらないわけにはいかない。


「席に案内します」

 シオンは3人に向き直ってビジネススマイルを浮かべる。多少ひきつった感じになったのはご愛嬌だ。

「ありがとう」

「楽しみですね、色々と♪」

「そうね!」


 もしかしたら3人は違う人を指名してくれるかもしれない。そんな僅かな希望に縋りながらシオンは3人を席に案内する。


「メニューがお声がけください」

「すいません、もうメニュー決まってます」

 テキパキと案内を済ませ離れようとしたシオンをアヤメが掴む。

「……」

「……」

 いま彼女ににこっと微笑まれても嫌な予感しかしない。


「……承ります」

「私はこのパンケーキのセットを飲み物は紅茶で。お嬢様は?」

「はい」

「私も同じで」

「はい」


 メニューを指さしながら注文したアカネがフェリクスに視線を向ける。

「じゃあ僕は洋梨のタルトのセットで。飲み物はみんな同じく紅茶で」

「畏まりました」

 よかった。シオンが心の中でほっと息を吐く。


「それでは失礼いた……」

「そうそう、後これもお願いします」

 フェリクスがメニューを指さす。

『店員さんと一緒の席で会話する(10分) 銀貨1枚』

「……」

「とりあえず30分でいい?」

「はい」

「ええ」

 フェリクスの問いに留学生2人組が頷く。


「えっと、もしかしてメニューを間違えてたりとかは……」

「これで間違いないよ」

「……それで誰をご指名になりますか?」

「それは言わなくてもわかるんじゃないかな?」

 にこりとフェリクスが微笑む。


「……」

「シオン君、楽しみにしてますよ。あっ私はお姉様でお願いします」

 ノリノリのアヤメが注文を付けてくる。

「それじゃあ頼むね」

「はは……」

 フェリクスの一言にシオンは乾いた笑いを声を上げた。


「注文お願いします」

 ふらふらと厨房前まで戻ってきたシオンがキッチン担当の人たちへ注文票を渡す。

「どうしたのシオン君、凄い疲れた様子だけど」

 バッグヤードから顔を出したセシリーが口元に手を当てながらにししと笑う。

 ジト目で睨みつけるが全く効いていなさそうだ。


「こう言うのはやったもん勝ちだからね」

「……」

「疲れてるシオン君にアドバイスを一つ上げよう」

「なんですか?」

 あてになりそうに思えないけど。

「こういう時大事なのはなりきることだよ。自分じゃなくて他の人がやってるんだと自分自身に思い込ませるの」


 それと、とセシリーがシオンに近づいてくる。

「あえて積極的にやるのもありだよ」

「えっ?」

「向こうは恥ずかしがりながら接客するシオンを見たがってるんじゃない? だったら逆に堂々と、それこそ自分からぐいぐい行くぐらいでやれば上手く乗り切れるかもよ」


 ……一理あるかもしれない。3人は僕が恥ずかしだっているところを見たいはず。だったら堂々とやれば興味が失われるかも。


「……わかりました。そうしてみます」

「じゃあ頑張ってね」

「ありがとうございます」

 セシリーはひらひらと手を振ってバックヤードに再び消えていく。


 うん、もうこうなったら自分から行くしかないよね。

「シオン君、料理準備できたよ」

「ありがとうございます」

 注文されたメニューの載ったトレイを両手で持ちながらシオンは気合を入れる。

 どうせだったら3人とも恥ずかしがらせてやる!

 

-------

「どんな感じのところかと思いましたけど、案外中は普通のカフェなんですね」

 アヤメが店内を見回しながら口を開く。

「そうね」

 アカネも同じように思っていたようでお冷を口にしながら頷く。


「それよりもシオンがどんな風にくるのか楽しみだね」

「ほんと、今から楽しみです。ねっ、お嬢様」

「ええ、……そうね」

 実は3人の中で唯一止めようとしていたのがアカネだった。


 理由は簡単で自分が逆の立場だったら、生きていけないぐらい恥ずかしいと思ったからだ。結局、面白そうなことが好きなフェリクスとアヤメに押し切られてしまったが。 


「お待たせしました―」

 そんなタイミングでシオンの声が耳に届く。


 3人が顔を上げると、さっきまでと打って変わり堂々としたシオンが、満面の笑みを浮かべながら言い放つ。


「―お兄ちゃん、お姉ちゃん♪」




 

 

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