第123話 少年期 カフェでの接客①
「いらっしゃいませ!」
お店が開店して1時間。店内は既に半数以上の席が埋まっていた。
カフェが一番忙しくなるのはお昼から15時ぐらいまで。それを考えるとかなりの盛況ぶりだろう。
でも何でこれで人気が出るんだ?
注文を厨房に伝えに行きながら考える。
メニュー自体は他の喫茶店と遜色ない。味も悪くない。ただ、他の店よりも全体的に割高だ。セシリー先輩曰く、制服とか店員の口調とかそういった部分で加算がされてるのと言っていたけどよくわからない。
それよりも気になるのが、さっきちらっとメニューに見えたものだ。
『店員さんと一緒の席で会話する(10分) 銀貨1枚』
『店員さん手作り料理 銀貨2枚』
他にもそういったメニューが載っているページがあった。
ネタとか洒落だと思っていたのだけど、実際に注文している人がいるから驚く。現にさっき僕も一度席で会話することになったけど……。
「すいません、注文お願いします」
「そこに置いといてくれ!」
「わかりました」
厨房の前のカウンターに注文内容を書いた紙を置いておく。
「これは大成功の予感……っとシオン君。少しは慣れた?」
店内を満足そうに見回しながらセシリーが近づいてくる。
「いえ……」
そんなすぐに慣れるものじゃないと思う……。
「まぁまぁ、すぐに慣れるよ。それにしてもやっぱり制服は当たりだった!」
私の目に狂いはなかったと言わんばかりにセシリーが目をギラギラとさせる。
元々ここはブレッチア商会が経営する普通のカフェだった。ただ、カフェは競合他社が多く、思うように売り上げが伸びていなかったらしい。
そこで夏休みが始まる少し前にロッソさんから「夏休みの間だけ経営してみて。いずれ商会を継ぐときの練習になるから」と言われセシリー先輩が運営するようになったらしい。
そこでセシリー先輩が考え付いたのが、カフェに『コンセプト』を付けるというものだった。
「シオン君、今日入ったばっかりなのに早速指名受けてるし、よかったら今後もうちでバイトしない? 給料弾むよ?」
「遠慮しておきます……」
目が$マークになりかけている彼女の提案にしっかりと断りを入れておく。
「夏休みとか大きな休みの時だけでもいいからさー」
「シオン君、指名入ったから5番テーブルに言ってくれるかな?」
店員さんの1人から声がかかる。助かった。
「わかりました。セシリー先輩すいません。失礼します」
これ幸いとばかりにシオンはフロアに小走りで向かった。
えっと5番テーブルは……あそこだ。
席には2人の女性がいる。杖や剣を持っているってことは冒険者だろうか。どちらも20代前半ぐらいでメニューを見ながら何やら言い合っている。
っといけない、恥ずかしいけど、手伝う以上ちゃんとやらないと……。
目を瞑り、深呼吸をしてからシオンは5番テーブルに近づいていく。
「その、お姉ちゃんたち指名してくれてありがとうございます!」
しっかり頭を下げてからにっこりと微笑む。
「「はぅ……」」
彼女たちの頬がみるみる朱色に染まっていく。
「その座ってもいいですか?」
これは確か上目遣いでやるようにかいてあったよな。こんな感じかな?
「「……っ!」」
まったく喋ってくれないけど、思い切りぶんぶんと首を縦に振ってくれてるから、これは座ってOKだよね?
「ありがとうございます!」
シオンは2人それぞれに笑顔を向けながら、間の席に座った。
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「流石シオン君」
その様子をこっそり確認していたセシリーが呟く。2人のハートをぎゅっと掴んだのが手に取るようにわかる。
「セシリーさん、あの子凄いですね。さっき指名されてた人も完璧に落ちてましたよ」
優等生風の店員がセシリーに声をかけてくる。
「そうでしょ、そうでしょ」
「役者の才能があるかもしれませんね」
実はここにいる店員たちはみな役者を目指している劇団の見習いなのだ。劇団に入ろうとしているだけあって容姿は人並み以上だし、コンセプトの為のキャラ作りも抵抗なく受け入れてくれるだろうと、コンセプトカフェを思いついた時にセシリーが雇ったのだ。
反対に店員さん側からすれば、演技の練習をしながらお金を稼ぐことができるし、オーディションの時などは融通して休ませてくれるので、どちらにとってもWin-Winの関係だったりしている。
「僕たちも負けていられませんね」
店員が気合を入れ直しながらフロアに戻っていく。
「……よしよし」
シオン君を使ってぼろ儲けするだけのつもりだったけど、なんだか他の店員たちにも期せずして喝が入ったみたい。
それにまだまだ始まったばかり、宣伝しといた子達もその内来るだろうし、今日はこれから忙しくなるなー、色々と♪
セシリーは鼻歌を歌いながらバックヤードに姿を消した。
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「ええ、シオン君今日しかいないの?」
「はい、今日はお手伝いできているだけなので……」
「残念過ぎる……」
あのあと、さらに30分も店員さんと会話するメニューを追加した2人が残念そうな声を上げる。
「すみません」
「あっ、ううん、気にしないで!」
「そう、今日話せただけでも凄い嬉しかったから」
申し訳なく思っていると2人が慌ててフォローに入ってくれる。
「今日はありがとうございました」
会計を終えてお店の前まで2人をお見送りする。
「その、シオン君。何処かで会ったら話しかけてもいい?」
「わ、私もいいかな?」
「?」
特に問題ないよね? 2人とも冒険者らしいしもしかしたらギルドで会うこともあるかもしれない。冒険者としての横の繋がりが全くないからむしろお願いしたいぐらいだ。
「はい、ぜひ!」
「「……っ」」
嬉しそうに返っていく2人を見送りながらシオンは店内に戻る。
「いやー、シオン君中々だねー」
「何がですか?」
「なんでもない、それよりほら新しいお客さんきたよ」
ニマニマとした笑みを浮かべながらセシリーが入り口へ促してくる。
「いらっしゃいま……」
お客さんの顔を見てシオンが固まる。
「面白そうなことしてるって聞いてね」
「シオン君の接客楽しみですね、お嬢様」
「ま、まぁ、そうね」
そこにいたのは、仲の良い同級生3人だった。
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