第121話 少年期 Cランクへの道
屋敷でふわ氷を振舞った翌日の夏休み初日。
シオンはフェリと共にギルドの一室にいた。
「シオン様、ふわ氷評判良くて良かったですね」
ニーナが資料を持ってきている間、横に座っていたフェリが口を開く。
「フェリが準備してくれたお陰だよ。ほんとありがとう」
ふわ氷の評判はかなり良く、また機会があったら食べさせて欲しいとみんなからお願いされるほどだ。
後から食べて貰ったルルとレアーネの2人の口にも合ったみたいで、随分喜んでもらえたし屋敷への招待は大成功と言える。
「いえ、私はシオン様のお手伝いをしただけですから。でも皆さん喜んでいただけて良かったです」
「シオン君、フェリさん。お待たせしました」
資料を持ってきたニーナが部屋に入ってくる。
「これがCランク昇格に必要な討伐依頼です」
「ワイバーン……」
テーブルに置かれた資料を見てシオンが言葉を漏らした。
ワイバーン。資料に描かれた絵を見ると、蝙蝠のような羽に鋭くとがった牙を持っている。似たような魔物にドラゴンがいるが、大きな違いはワイバーンが2本足であるのに対して、ドラゴンは4本足である点だろう。
また、戦闘能力や大きさなどもドラゴンの方がワイバーンより強い為、一般的にワイバーンはドラゴンの下位種といった風に捉えられている。
そうは言っても、空を飛び回り、鋭い牙で襲い掛かってきたり、火を噴いてきたりとかなり手ごわい相手になるのは間違いない。
「戦い方のポイントとかありますか?」
資料を読み進めながらニーナに尋ねる。
「一番よく言われるのはどうやって飛んでいるワイバーンは地面に落とすかですね」
「そうですよね……」
ワイバーンの一番の強みは空を自由に飛び回れることだ。空を飛ぶ相手に攻撃できる方法は限られている以上、出来る限り素早く地上に落とす必要がある。
「後は巣で眠っているところを仕掛ける方法もよく聞きます」
「なるほど」
そもそも空を飛ぶ前に先手を打つ。悪くない方法だ。最初の一撃で翼にダメージを与えられれば飛べなくできるかもしれないし、そうなればワイバーンの強みを抑えることができる。
ただ初撃が上手くいかない場合も想定して空中戦のことも考えておかないといけない。
「やっぱり問題は空を飛んでいる時にどうやって対処するかですね」
ギルドからの帰り道、フェリが横から声をかけてきた。
「うん、魔法以外にも攻撃手段を用意しておいた方がいいよね」
魔法が手っ取り早いけど乱発するわけにもいかない。そう考えるとやはり必要なのは空を飛ぶ相手に攻撃できる武器だ。
「そうなるとクロスボウか弓ですね、シオン様は使ったことありますか?」
フェリの問いにシオンがフルフルと首を横に振る。
「フェリは?」
「弓は少しだけ触ったことがある程度です」
フェリたち獣人は身体能力が高い。だから使用する武器は遠距離武器よりも近距離武器を使う傾向にある。その方が自身の特徴を活かせるからだ。
「じゃあ、討伐依頼を受ける前に少し練習した方が良さそうだね」
「その方が良いと思います」
フェリが同意するように頷く。
そうと決まればまずは武器を買わないと。
夏休み後半にはローゼンベルクに戻るからそれまでには依頼を受けておきたい。となると練習できる時間は1週間ぐらい。
「フェリこの後時間ある?」
「大丈夫です」
「じゃあ、このまま武器を買いに行ってもいい?」
「はい、お供します」
「ありがとう」
買いに行くならあそこだよね。
「シオン様、これなんかどうですか?」
フェリが商品の中から一つの弓を指さす。かなり大きな弓で下手したらシオンの身長と同じぐらいの大きさだ。上手く扱うことができれば、かなりの威力が期待できそうだけど……。
「ちょっと使いづらそうかな」
「そうですか……」
フェリの耳がぱたりと倒れる。
「すいません、槍なら多少目利きができるんですが、弓はわからなくて……」
「気にしないで、僕も全然わからないし。店員さんに聞いた方がいいかもしれないね」
シオンが周囲を見回すと丁度奥の方にいた店員さんと目が合った。ぺこりと頭を下げると、店員さんが小走りでこちらに近づいてくる。
「何かお探しですか?」
真面目そうな声が耳に届く。ってこの人、前にロッソさんと商談した時にいた店員さんだ。向こうと気づいたようでおやと表情を僅かに動かす。
「シオン様ですね」
「シオンで大丈夫です、えっと……」
「グレッグと申します」
「グレッグさんですね。宜しくお願いします」
「はい、それで本日は何をお探しで?」
グレッグはシオンの後ろに控えるフェリにも目礼しながら尋ねる。
「その長距離攻撃ができる武器を探してまして」
「2人ともということですか?」
グレッグは2人をまじまじと見ながら質問してくる。
「はい」
「そうですね……こちらなんていかがでしょうか?」
グレッグが数ある商品の中からシオンに持ってきたのは小型のクロスボウだった。
「小型ですがそれなりの威力がありますし反動も少ないです」
手に持ってみると結構軽いし狙いやすそうだ。値段も銀貨2枚とお手頃価格。どうやら武器を作成しているところが、最新のクロスボウを出したことで安くなっているみたいだ。
「いかがでしょうか?」
自分の中で良し悪しがわからないし、まずはオススメしたもので試してみるのが良いかもしれない。
「ありがとうございます。これ買います」
「ありがとうございます」
グレッグはピシッと頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます