第120話 少年期 招待

「ここがシオンの屋敷なんだ」

「お嬢様大きいですね」

「そうね」

 フェリクス、アヤメ、アカネの順に感想を口にしていく。


「しかし、私たちも一緒に来てしまって良かったのか?」

「そうですね、結構大人数になってしまいましたし……」

 その後ろでは、ラウラ、ナタリーが申し訳なさそうに口を開く。

「全然大丈夫ですよー」

「ローザ、それは私のセリフだから……」

 ティアナが小さくため息を吐く。


「シオン様、皆様お待ちしておりました」

 一行が屋敷に入ると、メイド姿のフェリが出迎えてくれる。

「ただいまフェリ」

「シオン様、頼まれていたものは全部買い揃えて厨房に置いてあります」

「ありがとう」

 シオンのお礼にフェリのふさふさの白い尻尾がフリフリと揺れる。


「シオンお兄さまおかえりなさい!」

 その後ろからリアがとととっと近づいてきてぎゅっと抱き着く。

「ただいま、リア」

 その光景に先輩たちの表情が一気に緩む。


「シオン君、よかったら紹介してくれない?」

 アヤメがキラキラした目を向けながら近づいてくる。

「えっと、妹のリアです。リア、同級生のアヤメとアカネ、フェリクスだよ」

「始めまして、リア・ローゼンベルクです」

 リアはスカートのすそを掴んで広げながら一礼してみせる。


「可愛い……お嬢様の小さい時と違い過ぎる」

「ちょっとっ!」

 アヤメの発言にアカネがぷりぷりと怒りを露わにする。


「始めまして、フェリクスです。リアちゃん宜しくね」

 そんな2人をしり目にフェリクスはリアと視線を合わせるようにしゃがんだ。家名を言わなかったのは気を遣わせない為だろう。

「よろしくお願いします」

「うん」

「皆様、食堂に案内します。どうぞこちらへ」

 フェリが声をかけて一同を食堂に案内していく。


「じゃあ、僕は準備をしてくるので一旦ここで」

 皆に一言告げてシオンは1人厨房に入っていく。

 

 冷蔵庫を確認すると、葡萄に、苺にメロン。他にも柑橘系と頼んでいたよりも多く準備されていた。

 よしっ、やろう! まずは果物の準備から。


 シオンがフルーツを洗っていると、厨房の中にフェリとナタリーが入ってくる。フェリはみんなの案内が終わったら手伝いに来てくれると思っていたけど。ナタリーさんは?


「ナタリー先輩、どうかしましたか?」

「この人数をお2人で準備するのは大変だと思いまして。良ければお手伝いをさせていただけたらと」

「お客様にそんなことさせられませんよ」


 まして相手は辺境伯の娘で学校でもお世話になっている先輩。手伝わせるなんて恐れ多い。

「いえ、急に押しかけてしまった形ですし気にしないでください。それに料理も一通りできますから」

 まるで引く様子のない彼女。余り断るのもかえって失礼になるかもしれない。


「じゃ、じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「はい、それでは何をすればいいですか?」

「えっと、じゃあ苺のソースを作って貰えますか。えっとレシピは……」

「シオン様、こちらに」

 フェリがさっとレシピを出して渡してくる。


「ありがとう、フェリ。ナタリー先輩、簡単ですけどこれがレシピです」

「わかりました、早速取り掛かりますね」

 ナタリーはレシピを見ながら、苺を鍋に入れてソースを作っていく。


「シオン様、私は盛り付け用の果物のカットをしていきます」

「お願い!」

 なら僕はもう2種類ぐらいソースを作って、少ししたら氷の準備をしないと。


 三人で準備していくこと20分とちょっと。ソースや果物のカットは全て準備完了。後は氷の上に見栄えよく載せていくだけ。


「この下のが本当に氷なんですね」

 フルーツを盛り付けていきながらナタリーが興味深そうにまじまじと見つめる。

「シオン様、盛り付け完了しました」

「ありがとう、フェリ。じゃあ持っていこう。ナタリー先輩手伝ってくれてありがとうございました! 後は運ぶだけなので席に戻ってください」


「いえ、持っていくの大変でしょうし私も手伝いますよ」

「流石に給仕までさせるのは……」

「でも、氷なんですよね? 速く持っていくに越したことはないと思いますよ?」

「それは……」

「気にしないでください、それにみんなで運んだ方が早く食べられますから」

 ふふっと口元を緩ませながら言われてしまっては何も言い返せない。


「ありがとうございます、ナタリー先輩」

「いえ、……その、お姉ちゃんって呼んでもらってもいいんですよ?」

「えっ?」

「い、いえっ、何でもありません……さぁ、運びましょうか」

 ナタリーが器をもって厨房を出て行く。さっきなんて言ってたんだろう?


「シオン様」

「レアーネさん」

 首を傾げていたシオンの横にレアーネがすっと現れる。

「給仕しに参りました」

「ありがとうございます、助かります」

「いえ」

 レアーネはすっと器を持つと音を立てることなく移動していく。


「レアーネさん、ルルは?」

「ルルは今リア様の傍で待機してます。その、お客様から可愛がっていただいているようで……」

「ああ……」

 その光景が目に浮かぶ。ローザ先輩とかが膝の上に抱えてそう。

 っと、早く僕も運ばないと。


「後でルルとレアーネの分も作るから少しだけ待っててくれる?」

「よろしいのですか?」

 彼女の耳がぴくりと動く。

「もちろん」

「……ありがとうございます」

 澄ました表情をしているが、レアーネの口角は僅かに上がっていた。

 

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