第94話 少年期 お礼を

「うちの店に来る客層は学生や騎士、冒険者に一般市民が大半や。だからほとんどの商品はそれに合わせた価格になってる。そんな中で大金貨200枚の商品を置いといても売れることはほぼないやろうな」


 だったらなんで売っているのだろう? シオンに新たな疑問が沸きあがってくる。売れない商品を置いておくぐらいなら、売れるものを置いた方がいいに決まっているのでは?


「でもな、これには理由があるんや」

 シオンの疑問に先回りするように店員が指を立てる。

「一つは、この万能薬がかなり入手困難な代物、希少性が高いっちゅうこっちゃ。今現在、王都で万能薬を売っている店はうちしかいない。と言うことは、うちは大手の商会でも入手困難な商品を仕入れるルートを持っているってことになる。そうなると……」


 まるで続きを考えてみろと言わんばかりにそこで店員がこちらに視線を向けてきた。大手と同じレベルの仕入れができる。

「わかる人から見ればお店の信用度が上がる?」

「おおっ! あんた頭ええな!」

 答えられると思われてなかったようで、店員は驚きの声を上げた。


「そういうこっちゃ。要は貴族様からの要望にも応えられるだけの力はありますよってアピールしているわけやな」

「なるほど」

「他にもこれだけバカ高い商品が置いてあったらみんな驚くやろ? そしたらそれを周りに言いたくなるのが人間や。そうすると……」

「お店の名前が売れる」

「せや、商会なんて客がきてなんぼ。来てくれる人を増やすための宣伝になるってわけや」


 売れないとわかっていてもそれ以上のプラス効果がある。だからお店においているのだ。疑問が解消できてすっきりする。

「教えてくださってありがとうございました」

「いやいや、こっちこそ有益な情報を貰ってたからおあいこや。それに、君、うちの娘より商人の才能ありそうやな」

「そんなことは……」

「謙遜せんでええ、っと連れの先輩はあの子か?」

 店員の視線の先に顔を向けると、ラウラの姿が見えた。


「買い物と洒落込んでデートか、若いのにやり手やねぇ」

 店員がにまにまと笑みを浮かべる。

「いや、そんなんじゃ……」

「2階の奥にいいお店があるから帰りに寄ってお礼を渡すとええ。店員にはうちからまけるよう言っておくから」

「だから……」

 シオンの話を聞かずに店員は話を進めていく。


「ロッソさん、少し宜しいですか?」

 他の店員が糸目の店員に声をかけてくる。

「どうしたん?」

「ちょっと商品の仕入れについて確認したいことがありまして」

「わかった、すぐ行くわ。それじゃあ君、今後とも贔屓にしてな」

「あっ……」

 糸目の店員、ロッソはそのまま他の店員と共に店の奥に消えていった。


「シオン待たせた」

「いえ」

「こちらの用も済んだし帰るとするか」

「あっ……」

「んっ? どうした、他に見たいものでもあるのか?」

「その……」


 さっき2階の奥のお店って言ってたよな。誤解を解けずに去ってしまったからこのまま帰るのは店員の善意を無下にしてしまう。それにラウラ先輩にお礼をしたい気持ちはある。

「遠慮しなくていいぞ」

「ありがとうございます。なら、一緒に来て貰えますか?」

 シオンはラウラを引き連れて2階の奥の店へ向かった。


「ここか?」

「えっと、はい」

 2階の奥はアクセサリーのコーナーだった。ガラスケースに入れられたお高めのものから、手ごろなものまでこちらも幅広く取り扱っている。


 特に手ごろな値段のアクセサリーが置いてあるところは若い子たちに人気があるようで女の子同士や、カップルの姿が多く見える。シオンたちと同じく学院の生徒たちもちらほらうかがえた。


「私はこういうのに疎いからあまり力になれそうにないな」

 ラウラが申し訳なさそうに口を開く。

「そうなんですか?」

「ああ、武術の邪魔になりそうなものはつけてきたことがなくてな」

 ラウラは商品を眺めながら呟く。だが、その瞳にはどこかキラキラとした輝きのようなものを感じさせる。


 あんまり武芸の邪魔にならなそうなものがいいみたいだから指輪やブレスレット系は避けた方がいいかも知れない。

 ひとまず、武芸の邪魔にならなそうなものと言う一点でコーナーを見ていくと、ネックレスの区画に辿り着いた。

 

「あっ、いや、すまない」

 不意にラウラが声を上げる。視線の先にあったのは青色の石が埋め込まれたシンプルな作りのネックレスだ。価格も銀貨1枚とそこまで高くない。凛とした雰囲気のラウラに合ってそうに思えるし。


「素敵なネックレスですね」

「そうだな」

 そう返すもののラウラは商品と取ろうとしない。

「気に入ったなら耳にあてがってみてもいいんじゃないですか?」

「私には似合わないよ」

「そんなことないと思いますけど……」

「ありがとう」

 ラウラ先輩、僕が気を遣って言ってると思ってるみたいだ。

 その後も一通りコーナーを見て回ったが、ラウラが一番興味を示したのはあのネックレスだった。


「何か買いたいものは見つかったか?」

「はい、買ってくるんで少しだけ待ってて貰えますか?」

「ああ、構わない」

 シオンは急いでコーナーへ向かっていった。


「ラウラ先輩、今日はありがとうございました」

 商会を出て大通りまでついた辺りでシオンが口を開いた。

「いや、気にしなくていい」

「あの、それで、これ」

「これは?」


 シオンが差し出したのは綺麗なラッピングがされた包みだ。商品を買う時、ロッソさんから伺っていますと、店員さんがラッピングをしてくれたのだ。値段も2割引きで買わせてもらったので今度会ったらお礼を言わないと。


「今日一日お世話になったので。良かったら受け取ってください」

「そうか、ありがとう」

 ラウラが柔和な笑みを浮かべながら包みを受け取る。

「開けても良いか?」

「はい」

 ラウラは包みを丁寧に開いていく。中から出てきたのはさっきから青い石のついたネックレスだ。


「これって」

 ラウラがシオンの顔を見る。

「ラウラ先輩が気に入ってるみたいだったので。それにネックレスだったら武術の時にそんなに邪魔にならないと思いますし、何よりラウラ先輩に似合うと思ったので」

「……」

 やっぱり要らなかったのかな。反応がないことにシオンが不安を覚える。

「あの……」

「つけてくれないか?」

 そんな言葉が飛んできた。


「じゃあ、つけますね」

「あ、ああ」

 シオンはラウラの後ろに回り込み緊張で手を震わせつつネックレスをつける。

「で、出来ました」

 そう言うと、ラウラがくるりとシオンに向き直る。彼女の制服の胸元で青い石のネックレスがきらりと輝く。

「その、どうだろうか?」

 視線を外しながらラウラが尋ねてくる。

「すごい似合ってます!」

「そ、そうか」

 ラウラは頬を赤くしながら視線をゆっくりとシオンに合わせて微笑む。

「シオン、ありがとう。大切にするよ」


「おいっ、獣人ごときがここで何してるっ!!」

 いい雰囲気だった2人のもとへ怒号が届いた。 



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新作を始めました。

興味がありましたら読んでいただけますと幸いです。


・占いを信じて行動したら、人生が上向いた。

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