第93話 少年期 ブレッチア商会

「シオン、着いたぞ」

 ようやくぎくしゃくした感じが抜けたラウラが口を開いた。

「大手の商会よりも規模は小さいが品物の質も良いし、値段も良心的だ」

「そうなんですね」

「ああ、それに武具だけでなく、ポーションや日用品、アクセサリーなんかも売っている」

「なるほど」

 

 ラウラの言葉を裏付けするかのように、店は多くの客で賑わっていた。冒険者や騎士、学院生たち以外にも一般の人たちが大勢いるのは日用品なども取り添えているからなのかと納得する。


「武具関連のものは3階に置いてあるからそこまで行こう」

「わかりました」

 シオンはラウラの後に続いて店に入っていく。

 ふと顔を上げると入り口の所に横看板が張ってある。そこには『ブレッチア商会』と書かれていた。


 この名前って……。

「シオン、どうした?」

 看板を見て立ち止まっていたシオンに気づいたラウラが戻ってくる。

「いえ、ブレッチア商会って名前に見覚えがありまして」

 確かお金と一緒にカードもしまっておいたはず……あった。

 シオンはブレッチア商会と書かれた銀色のカードを取り出す。


「シオンはセシリーから取材を受けてたんだったな」

「はい、あの……」

「シオンが思っている通り、ここが彼女の実家だよ」

「やっぱりそうなんですね」

「ああ、ここ最近でかなり業績を伸ばしているらしいが、まぁ、この客の数を見ればそれも頷ける」

 ラウラの言葉にシオンもこくりと頷いた。


 ラウラ先導のもと3階までフロアを上がる。3階は武具や冒険に使う道具、ポーションなどが置いてあった。

「このあたりがベルトのコーナーだ」

「ありがとうございます」

 壁一面をベルトがずらりと並んでおり、種類の多さに圧倒される。値段もお高めのものから学生でも手が届くぐらいリーズナブルなものまで幅広い。


「安いものはどうしても劣化が早くなるから、多少値が張ってでもいい物を買った方が良い」

「わかりました」

 ラウラのアドバイスを受けながら、10分ほど吟味してシオンは納得のいくものを選ぶことが出来た。


「ラウラ先輩は何を買うんですか?」

「ポーションだよ。風紀委員会に置いてあるストックが減ってきたから補充しないとといけなくてな」

 2人はベルト売り場からポーションなどが置いてあるエリアに移動する。


 ポーションの置いてあるエリアには他にも解毒薬や、一時的に身体強化ができる強化剤などが瓶に入って並んでいた。

「少し店員と話してくるから待っててくれるか?」

「わかりました」

 シオンは暇つぶしがてら棚に並んだ商品を眺めていく。

 ポーションも良い奴になると高いんだな。


 一番安いポーションだと銅貨2枚で買えるが、高品質と書かれたポーションには金貨1枚の値札が張られている。それだけ効果が違うんだろうけどそんなに差がでるのだろうか。そんなことを思いながら端の方に進んでいくと、さっきまでの棚と明らかに造りが違う棚がポツンと置いてあった。


 かなり分厚いガラス製の棚の中には赤い布の上に八角形の形をした瓶が一つだけ置かれていた。

 何だろうこれ? 

 正面に向かって品名を確認したシオンは目を疑った。

 そこには『万能薬』と書かれていた。


 万能薬。それは文字通り、どんな傷、病気にも効き瞬く間に治してしまうというものだ。その有用性からかなり名が知れ渡っているものだが、強力な魔物から得られる素材をいくつも用いて調合しないと作れない為、幻の薬とも呼ばれている。


 いくらするんだろう。

「えっ!?」

 興味本位で値札を見たシオンは思わず声を漏らした。


「お客さん、どないしました?」

 大声を聞きつけて一人の店員がシオンのもとにやってきた。ひょろりとした糸目の男性だ。

「あっ、いえ、すいません。値段を見て驚いてしまって」

 シオンが申し訳なさそうに頭を下げると、店員はシオンの視線の先にある万能薬を見て「ああ~」と呟いた。


「気にせんでええで。他のお客さんでも時々声をあげられる人もおるから」

「は、はい。ありがとうございます」

「うんうん、素直なのはいいことや。ところでその制服学院の生徒やんな?」

 糸目の男がずいっと顔を近づける。

「そうです」

「何を買いに来たんか聞いてもええか?」

「ベルトを」

 シオンは買ったベルトが入った袋を店員に見せる。

「ふむふむ、やっぱこの辺りの価格帯が売れるんやなぁ。もうちょい品ぞろえを増やした方がええかもしれん……」

 店員はシオンが買ったベルトを確認してぶつぶつと呟きだした。

 

「……あの」

「えっ、ああ、すまん、ありがとうな。参考になったわ」

「いえ」

「ついでにもう一つ聞いてもええか?」

「はい」

「王都には他にも店が沢山あるやろ。そんな中どうしてうちに来てくれたんや? 大通りには大手の商会もあるし、学院の近くにも有名な店があったと思うんやけど」


 やっぱりお店の人は他のお店の情報をなどを収集しているんだ。感心しながらシオンが口を開いた。

「学院の先輩と一緒に来てまして、その先輩がオススメしてくれたんです」

「そうか、やはり口コミは偉大やな」

 口元を三日月に曲げながら店員が頷いた。


「いや、色々質問してしまってすまんかった。けどお陰でいいことを聞けたわ」

「いえ、お役にたてたなら良かったです」

「ところで、やっぱり気になるんか?」

 店員が万能薬の方を指さす。さっきからシオンがちらちらと視線を送っていることに気づいていたようだった。


「はい、話には聞いたことがあったんですけど本物を見たのが初めてだったので」

 正直に話すと店員は「うんうん」と首を振る。

「そうやろうな、うちもあの商品を手に入れるのにかなり苦労したんよ」

 糸目が少しだけ開かれる。

「あの……あの値段で売れるんですか?」

「ほぼほぼ売れんやろうな」

 シオンは純粋に気になっていたことを尋ねると、店員は間髪入れずにそう答えた。



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興味がありましたら読んでいただけますと幸いです。


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