第92話 少年期 ラウラとデート?
「シオンお疲れ様、初めてにしては良かったと思うが、乱戦では何処から敵がくるかわからないから気を抜かないように」
「はい、すいません」
「ラウラ先輩。シオン君3人も倒してるんですよ! もっと褒めてあげても良くないですか!」
ラナが興奮気味に反論する。
「それよりも、ラナ。お前また1人で突っ込んだな。前にも言ったが独断専行はやめるように」
「でも私怪我してないですよー」
ラナがその場でくるりと回る。確かに傷一つ負っていない。
「そういう問題じゃない」
「ええー、何でですかー。だったらいいじゃないですかー」
何とかラウラが話を聞かせようとするが、ラナは真剣に聞く様子なく、右から左に流してしまう。
ラウラが言っていることは正論だ。今回はラナの実力が上だったから何とかなったが毎回そうなるとは限らない。特に集団戦などの場合、1人の身勝手な行動によって他のメンバーが危害を被ることだってありえる。
わかってくれるといいんだけど。そう思っていると、両手を合わせたカミラと目が合った。ラウラのフォローをしてあげて。言葉にしなくてもそう言っているのがわかった。
『無理ですよ!』
『大丈夫よ、シオン君なら。さっきも上手くいったでしょ?』
『あれは上手くいったってわけじゃ……』
それに何か違う問題が生まれた気が……。
『お願い、試すだけでいいから、ねっ?』
『……わかりました』
そんな視線だけのやり取りを終えてシオンが2人に近づいた。
「……あの、ラナ先輩」
「んん? シオンどうしたの?」
先ほどまでのふくれっ面から一転して笑顔を見せてくる。
「その、僕もラウラ先輩と同じであんまり独断専行しない方がいいと……」
「なんで?」
遮るように強い口調が飛んできた。ラナの瞳から光が消える。
「強い女の子が好きっていうから頑張ったのに、さっきの言葉は嘘だったの?」
ラナが一歩前に距離を詰める。
そもそも、好きとは言ってないです。そう思いながらシオンは顔をブンブンと横に振る。
「だったら、なんでそんなこと言うの? ねぇ、教えて?」
ラナはシオンの肩を掴んで至近距離で目を合わせてくる。
カミラに助けを求めようにも顔を動かせない。ラナがシオンの顔に両手を添えて回せないようにしていたからだ。
「いま、視線を外そうとしたよね?」
「そ、そんなこと……」
「ふーん」
全然信じて貰えてない。何か言わないと……。何か……。
そう言えば、ちょっと前にアヤメから学院の女子生徒たちに人気がある小説を少し読ませた貰ったことがあった。内容は学院に通う男爵家の長女である主人公が、伯爵家の気障なイケメン学生にぐいぐい攻められる、そんな話だった。
読んでいるこっちも恥ずかしくなるぐらい歯の浮くようなセリフが連発されて、序盤でシオンは断念してしまったが、アヤメ曰く「そこが良いんですよ」と言っていた。隣にいたアカネも小さく頷いていたから女子からしたらそう言うものなのだろう。
なら、そんな感じで行けば何とかなる……?
だが、同時にシオンの頭に警鐘が鳴った。わからないけど、それをやったら他の問題が大きくなる。そんな確信に近い予感があった。
「ねぇ、シオン君。答えて」
考え込んでる時間はない。……もうやるしかない!
シオンは意を決して口を開いた。
「……そ、その、ラナ先輩が傷ついたりするのが嫌、だったり……」
「へっ?」
ラナが素っ頓狂な声を上げる。
これは上手くいってる……のかな?
どちらにせよ、もうこの流れで行くしかない。
「それに、で、出来れば、傍で一緒に戦いたい……」
「なんだ、そうだったんだ!」
シオンが言い切るより前にラナが被せて嬉しそうに表情を緩ませた。瞳にもハイライトが戻ってくる。
少なくともこの瞬間は何とかなった。
「ごめんね、疑っちゃって」
「い、いえ」
「これからはシオン君の言う通り、1人で前に行かないようにするね」
「ありがとう、ございます」
わかってくれたんだ。
「ううん。あっ、そうそう。シオン君」
「なんですか?」
シオンが胸を撫で下ろしていると、ラナがにっこりと微笑む。
「私、嘘つきが一番嫌いなんだ。覚えておいてくれると嬉しいな♪」
「……はい」
肝に銘じて。シオンは深く頷いた。
「シオン君、お疲れ様」
「……お疲れ様でした」
巡回が終わり、上機嫌なラナが一足早く帰った後。カミラは疲れた様子のシオンに近づいた。
「さっきのラナへの説得、ありがとう。あの子私やラウラが言っても全く聞いてくれないから」
「いえ、お役にたてたみたいで良かったです……」
後が怖い気がするけど……。
「あら、シオン君、腰のベルト壊れてない?」
「えっ?」
見れば、剣を差す部分の一部が千切れかけている。攻撃を避けるために地面に転がったときだろう。
「ほんとですね」
「その感じだと新しいのを買った方が良さそうね」
「そうですね……でも、王都のお店あまり知らなくて……」
ローゼンベルクなら行きつけのお店があったが王都は全くわからない。噂じゃ悪い店なんかもあるらしいから気を付けないといけないし。
「シオン君王都にきてまだ1ヶ月ぐらいだったかしら?」
「そうなんです」
「なら、私が案内しよう」
報告書を書き終えたラウラが口を開く。
「いいんですか?」
「ああ、ちょうど私も買いたいものがあるから気にしないでいい」
「ありがとうございます!」
「この後でも大丈夫か?」
「大丈夫です」
「なら準備ができたら向かうとしようか」
ラウラは報告書をファイルに閉じて棚に戻した。
「ごめんなさい、私もついて行きたかったんだけど今日はこの後予定があって」
「気にしないでください」
カミラが優しく微笑む。
「ありがとう。じゃあまたね、シオン君。ラウラもデート楽しんできて」
「なっ!」
「……っ!」
カミラはこちらにひらひらと手を振りながら去ってしまい、シオンとラウラだけが部屋に残された。
「……」
「……」
最後の発言のせいで変な空気感が生まれてしまう。
「し、シオン、準備はできたか?」
「は、はい、大丈夫です」
「なら行くとしようか」
「お願いします」
「ああ」
「……」
「……」
微妙な空気感は店に着くまで続いていた。
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