第89話 少年期 風紀委員会の手伝いへ
「シオン君は相変わらず多忙ですね」
アヤメは苦笑しながら口を開く。
「常に動いてないと死んじゃうんじゃない?」
「確かにそれはありそうだね」
アカネの毒舌にフェリクスが笑みをこぼす。
ティアナとデートした翌日、シオンはフェリクス、アヤメ、アカネ、そして昼食を準備してくれたフェリと5人で庭園内の芝生にシートを敷いて弁当を囲むように輪になって座っていた。
「あの、本当に私もご一緒してよろしいのでしょうか?」
恐る恐るフェリが尋ねる。留学生2人にこの国の王子、そして仕える主、その中に使用人が混じるのは普通ならあり得ない。不安からか、無意識のうちにシオンと肩がぶつかるぐらい接近していた。
「もちろんですよ」
「はい、私もフェリさんと一度お話してみたかったので」
「昼食を用意したのはあんたなんだし、当然でしょ」
三者三様ながら反対のものは1人もいない。
「それに2人の関係も聞いてみたいしね」
「フェリクスさんもう教えちゃうんですか?」
「いや」
「へっ? 関係って?」
フェリクスとアヤメは気づいているようだが、アカネは全くピンと来ていないようで頭に?が浮かんでいる。
「関係って、専属使用人をしてくれてるんですよ」
「そんな上辺だけのところじゃなくてですよ。ほら、もっと何かありませんか?」
アヤメが追撃してくる。フェリのことをどう思っているかってことだろうか?
「えっと、家族と同じぐらい大切ですけど」
「はぅ……」
シオンが言葉を発した途端フェリの顔がぼんと沸騰する。
「きゃー、お嬢様聞きました!?」
「ちょっと、アヤメ痛い! 叩かないで!」
「すいません、つい興奮してしまいまして」
今の話の何処に興奮する要素があったんだろうか。シオンが首をひねる。
「家族と同じぐらい大切なんてよくあることでしょ? 私だって、その、アヤメのこと家族同然だと思ってるし……」
尻すぼみになりながらアカネが言葉を紡ぐ。
「お嬢様、凄く嬉しいんですが、そういうことじゃないんですよ」
そう言いつつも嬉しかったのかアヤメはアカネにぎゅっと抱き着いた。
「私たちは同性ですけど、シオン君とフェリさんは異性ですから。ねっ?」
そこまで言われてようやくシオンも意図を理解した。
「あっ、いや、そういうんじゃ……」
「でも2人とも凄く距離が近いよね?」
フェリクスの視線の先には肩がぶつかるぐらい隣り合っている2人の姿。シートは小さくないので距離を詰めなくても余裕で座れるほどのゆとりがある。
「「……っ!」」
指摘されて2人はようやく距離が近いことに気づいてばっと距離を取った。
「僕らは気にしないから2人の好きなようにしていいんだよ」
「そうですよ、あっ、でもキス以上はお嬢様にはまだ早いので遠慮していただけると」
「ちょっと、子ども扱いしないでよ。平気だから、キ、キ、キキ、キス、なんて」
「お嬢様、壊れたロボットみたいになってますよ。それに顔が赤いです」
アヤメが冷静にツッコむ。
「主人とメイドの恋、小説や演劇で人気のジャンルだね」
「そうですね、素敵ですよね」
騒がしいながらも、楽しい昼食のひと時はあっという間に過ぎていった。
「失礼する」
凛とした声と共にポニーテールの女子生徒がシオンたちの教室に入ってきた。
『うそ、ラウラ先輩じゃない?』
『かっこいい、それに綺麗』
『4年の先輩が何で1年の教室に?』
既に今日の授業は終わっているので教室に残っていたのは半数ほどだったが、学内でも有名な先輩の登場とあってクラスメイト達が騒ぎ出す。
「どうやらお迎えがきたみたいだね」
暇だったからと話しながら待ってくれていたフェリクスが立ち上がる。
「それじゃあ僕は帰るよ、また明日」
「ありがとう、また明日」
シオンもまた荷物をまとめてラウラの方へ向かう。
「ラウラ先輩、お疲れ様です」
「ああ、一度風紀委員会室に来て貰いたいんだが大丈夫か?」
「はい、よろしくお願いします。」
「わかった」
ラウラは頷いてシオンと共に教室を後にした。
「ここが風紀委員会室だ、好きなところに腰かけてくれ」
「失礼します」
ラウラに続いて部屋に入る。
10畳ぐらいの部屋の中心には長机が二つ、周りを囲うようにパイプ椅子があり、正面奥にはホワイトボード。入って左側の壁側には整理されたファイルが棚にびっしりと並んでいた。右手には隣の部屋に繋がっているであろうドアが見える。
「あれ? シオン君!? なんで!?」
ゆっくりとこちらを振り返った女子生徒が首をかしげる。前に一度会ったことのある赤い目元の先輩だ。
「今日はシオンも参加すると事前に説明していただろう……」
ラウラが頭に手をやって小さく振る。
「最悪ー、もっとちゃんと化粧してくればよかった」
「失礼します。ラナどうしたの? 廊下まで声が聞こえてたけど……あら?」
部屋に入ってきた女子生徒と目が合う。この人も前に会った大人びた雰囲気の先輩だ。
「お疲れ様です」
「お疲れ様、そう言えばシオン君がくるの今日だったわね」
頬に手を当てながら考え込む姿はどこか蠱惑的に見える。
「そう言えばちゃんと自己紹介してなかったわね。4年のカミラよ。今日はよろしくね」
「シオンです、宜しくお願いします。カミラ先輩」
「ええ、それと、あそこで打ちひしがれてる子が3年生のラナ。シオン君、よかったら慰めてあげてくれる?」
「僕がですか?」
シオンは自分を指さす。
「あの子、君のこと凄く気に入ってるから何でもいいから誉めてあげてくれる? そうすれば復活すると思うから」
「わ、わかりました」
「いい子、宜しくね」
カミラはシオンの髪をそっと撫でた後、ラナの方へ向かわせる。
「あの、ラナ先輩?」
「シオン君、こっち見ないで」
ラナは腕を枕に机の上に突っ伏していた。だが、シオンの様子は気になるようで腕の隙間か赤い目元の瞳がらちらちらと伺ってきている。
さっき化粧がどうとか言っていたけど、入ってすぐに顔を見た時に変だとは思わなかったけど。強いていうならこの前よりも若干幼く見えるぐらいだ。
「ラナ先輩、今日の化粧も素敵だと思いますよ」
「……ほんと?」
彼女はがばっと起き上がりシオンに顔を向け、じっと凝視してくる。余りに素早い動きで少しだけ恐怖を感じてしまう。
「ほんと、です」
「そうなんだ、じゃあこれからはずっと今日みたいなメイクにする♪」
数秒じっとシオンの瞳を見つめていたのち、彼女はにこりと表情を緩めた。
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