第84話 少年期 副会長

「呼び出しておいて待たせてしまって本当に申し訳ない……」

 ブリスが頭を下げた。

「そんな、気にしないでください。ゆっくりさせて貰ってましたし」

 シオンが慌てて止める。何より学年が4つも上の副会長に頭を下げさせるなんて申し訳なさがすごい。

「しかし……」


「ブリス先輩まじめすぎっしょ!」

 シャルがブリスを見ながら笑顔を見せる。

「シャル先輩はちょっとぐらいブリス先輩を見習うべきですけど」


 ソフィーはじろりとシャルを睨む。ブリスが仲裁したがどうやらまだ怒りが収まっていないようだ。

「えー、そんな堅物になんかなりたくな~い」

 シャルは明らかに嫌そうな顔を作る。ぐっさりと言葉のとげがブリスに刺さった気がする。


「てか、やっぱりソフィーは怒った顔も可愛いね~。ほれほれ」

「頬を突っつかないで貰えますか?」

「柔らかーい、あははっ、ぷにぷにだー」

「……」

「もっと化粧とかすればいいのに、元がいいんだから勿体ないよ!」

「必要ありません」

「スカートももっと短くしてさ。こんな風に!」


 シャルは言いながらソフィーのスカートのすそを素早く持ち上げる。白い太ももが見えてシオンは思わず目を逸らした。

「シャル先輩!!」

 スカートのすそを抑えて顔を赤くしたソフィーがプルプルと怒りに震えている。


「そんな怒らないでよー、ちゃんと大事なところは見えないように気を遣ったじゃん。それにシオン君もスカート短い方が嬉しいよね?」

「えっ!?」

 予想外の飛び火を受けてシオンが固まる。

「さっきスカートあげた時、ソフィーの太もも見てたもんね~」

 にやにや顔で詰めてくるとソフィーがジト目を向けてくる。

「そのっ……。嬉しいとかじゃなくて……」

「んー? なになに、言ってみ」


 シオンは恥ずかしそうに口を開く。

「スカート短くしても、ソフィー先輩は可愛いと思いました」

 ソフィーの目が大きく見開かれる。次いでぼふっと顔が再び真っ赤に染まりあがる。

「ソフィーまた顔が真っ赤になってるじゃん」

「……うるさいです」

 ソフィーはプイっと顔をそむけてしまう。


「そだ、シオンちゃん。じゃあじゃあ私は?」

 シャルはシオン前に立ってスカートを持ち上げる。ただでさえ短めのスカートを持ち上げるから、かなききわどいところまで見えてシオンはすぐに目を瞑る。

「シャル君、やめなさい!」

 ブリスも顔を背けながら声を上げる。

「あっ、ブリス先輩、見たら訴えますから」

「はぁ!?」

「ほれほれシオンちゃん。目を瞑ってたら判断できないぞー」


 気配だけが近づいてきている気がする。これ以上近づかれたらまずい。

 シオンは咄嗟に手を前に出した。

「……ひゃん!?」

 当たった柔らかい感触と共に聞いたことのない声。恐る恐る目を開けると、頬を朱色に染めたシャルが両胸を手で隠すようにしてしゃがみ込んでいた。


 えっ、さっきの感触って……。

「す、すいませんっ!」

 シオンはがばっと頭を下げる。

「あ~、も、もうシオンちゃんてばエッチだな~」

 シャルは取り繕うように明るい声音で話し出すとそのまますっとソファーに大人しく座った。

「シャル先輩、そんな声出すんですね?」

 さっきまでなすがままだったソフィーがお返しとばかりにいじる。

「う、うっさいし」

 へそを曲げたようにシャルはつんとそっぽを向いた。

 

「本当に色々と申し訳ない……」

「いえ……」

 諦めの混じった表情でブリスが呟く。

 シャルが大人しくなったお陰でようやく話が進むようになった。


「それで、呼び出された件なんですけど……」

「ああ、それなんだけど、実はもうある意味達成してるんだよ」

「?」

「生徒会、委員会に入るためには2つの方法があることは知ってるかな?」

「えっと、試験を受けて合格するか、推薦して貰えるかですか?」

 シオンの答えにブリスが頷く。


「その通り、ただ、生徒会では推薦されたとしても現職のメンバーの半数以上が賛同しないと入会を認めないことになっているんだ」

 昔、その件で色々あったみたいでね。とブリスは続けた。

「だから顔合わせも兼ねて話しできたらなと思ってさ。と言っても今日顔を会わせられるのは僕ら3人だけなんだけど……」

「会長はシオンちゃんのこと気に入ると思うな~。あたしも賛成だし」

「私も賛成です」

「僕も賛成だからもし生徒会に入りたいと思ってくれるなら確実に入れるね」

「ありがとうございます! ただ、どうするか決めてなくて……」

 申し訳なさそうにシオンが返す。

「いや、大事なことだからゆっくり考えるといい」

 

「シオンちゃん他の委員会にも誘われてるんだよね。ティアナ先輩から聞いてるよ。確か、風紀委員会と美化委員会だっけ?」

 シャルがモテモテだね~と茶化してくる。

「はい、それで一度どちらも体験させて貰うことになってます。美化委員会の方はもう行かせてもらいましたけど」

 何処かでラウラ先輩に話して体験させて貰う日取りを決めないと……。


「なら、生徒会にもどこかで見学に来るといい。その方がどんなことをするのかイメージしやすくなるだろうし」

「はいはい! シオンちゃんが見学に来たときはあたしと一緒の業務ね! 決定♪」

「……まあ、それはそれでありか……。来週に文化部の監査があるし……」

 ブリスが顎に手を当てぶつぶつ呟きながら考え込む。


「シオン君、来週の放課後、どこか予定は空いてるかい? よかったらシャル君と一緒に業務を手伝ってくれると助かる」

「来週ですね、わかりました、大丈夫だと思います」

 今の時点で何も決まっていなかったし、問題ないだろう。

「ありがとう、シャル君頼んだよ」

「まっかせてください!」

「……本当に大丈夫だよな」

 軽い調子で答えるシャルを見てブリスは自分に言い聞かせるように呟いた。 


「先輩方、シオン君。そろそろお昼休みが終わります」

「えっ、うそ!?」

「もうそんな時間か……」

 壁にかけられている時計を見るとあと5分で昼休みは終わりだ。予鈴のチャイムもなり始める。

「シオン君、今日は会えて良かったよ」

 意図を理解して差し出してきた手を握り返す。


「とんでもないです。こちらこそありがとうございました。シャル先輩、ソフィー先輩もありがとうございました」

「また来週ねー、シオンちゃん」

「お疲れ様でした」

「ありがとうございます。すみません、失礼します」

 最後にもう一度お礼を言ってシオンは生徒会室を出た。


「いや~、ティアナ先輩がブラコンな理由がちょっとだけ分かったかも」

 シャルの言葉にソフィーはこくんと首を縦に振る。

「随分と努力家のようだし、ティアナ君が言っていたこともあながち大げさではないかもしれないね」


 シオンと握手した時、ブリスは手のひらに剣だこが幾つもできていることに気づいていた。あの手はさぼらず努力できる人の手だ。そうでなければあれだけの剣だこができるはずがないのだから。



 

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