第83話 少年期 生徒会
「ここでいいんだよね?」
扉の前でシオンは呟いた。生徒会室と書かれたプレートがあるから間違いないはず。
なんで呼ばれたんだろう? 移動中もずっとその疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡っていたが、たどり着くまでに答えは出なかった。
呼び出されるようなことはしていないはずだし、そもそも生徒会で僕に用があったとしたなら朝の時点でティアナ姉さんが教えてくれたはず。だとすると一体……。
つい扉の前で考え込んでしまっていたら、ばっと目の前の扉が開いた。
「……およっ?」
開けたであろう女子生徒とばっちり目が合う。黒髪に青いインナーカラーのボブカット。大きな瞳は大きく見開かれており、口元にくわえられている棒のついた小さなキャンディーが落ちそうになっている。
「あっ、その……」
「シオンちゃんでしょ!」
彼女は嬉しそうにシオンの事をビシッと指さした。
「驚かせてしまったみたいですいません」
「いえ……」
「シオンちゃんごめんねー。そろそろかなーって思って扉開けたらいたからテンション上がっちゃって♪」
シオンを生徒会室に引っ張り込んだ女子生徒がウインクしながら顔の前で手を合わす。
「シャル先輩、謝るならちゃんとしてください」
もう一人の女子生徒がため息をつきながら紅茶をシオンの前に差し出す。
「よかったら、どうぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら出された紅茶を一口飲む。
「……おいしい」
「それならよかったです」
紅茶を出してくれた先輩が微笑む。肩にかかるぐらいの外はねの髪がふわっと揺れる。
「もう少ししたら副会長がくるので少しだけお待ちください」
「はい」
「んじゃその間に一緒にお弁当食べよー」
シャルと呼ばれていた先輩がシオンの横に腰かける。ふわりと髪からいい香りがして思わず顔をむけてしまう。
「どしたん?」
「いえ、いい香りがして……」
「だしょー!? ソフィー、いい匂いだって!」
大声で目の前の先輩に声をかけるから恥ずかしくなる。
「わかりましたから落ち着いてください」
ソフィーは軽くあしらいながらシャルと自分の分の紅茶をテーブルに置いた。
「シオンちゃんのお弁当美味しそうじゃん!」
簡単な自己紹介を終え、シオンが弁当の蓋を取るとシャルが顔を覗き込むように近づけてきた。
「シャル先輩、お行儀悪いですよ」
「だって、これ凄くない!?」
「確かにおいしそうではありますけど」
ソフィーはそう言いながら膝に置いた小さなお弁当箱を開く。彩も見栄えもいい料理が敷き詰められているが、何分量が少なく見える。あれだけで足りるのだろうか?
「どうかしましたか?」
シオンの視線に気づいたソフィーが尋ねる。
「いえ、ソフィー先輩のお弁当もおいしそうだなって思いまして……」
「……先、輩」
「あの……」
シオンが顔を向けるとソフィーは惚けてしまっていた。
「ソフィー生徒会で一番年下だから先輩って呼ばれるの憧れてたんだよ」
こそっとシャルが耳打ちしてくる。
ソフィー先輩は生徒会唯一の2年生でこれまで先輩と呼ばれる機会がなかったらしい。 ただ、さっきまでのやり取りを見てると3年生のシャル先輩よりもソフィー先輩の方がしっかりしてそうだけど……
「なんか失礼なこと考えてない~?」
「……っ!? そんなことないです」
シャルがジト目で見つめてくる。
「悪い後輩ちゃんにはお仕置きが必要だね~」
「えっ」
シャルはシオンのお弁当に顔を近づけじっくり吟味し始め、「これ」と卵焼きを指さした。
「ちょーだい」
「どうぞ」
それだけで許されるのならばと、卵焼きが取りやすいようにお弁当をシャルの方に近づける。だが、彼女は取ろうとせず代わりに肩をちょんちょんと指で突っついてくる。
「あー」
振り向くと、シャルは小さな口を開けていた。
「えっ?」
「顎が疲れるから早くー」
「わ、わかりました」
急かされるまま卵焼きを掴んでシャルの口元に持っていく。
「あ、あーん」
「あーん、……やばっ! めっちゃうまいじゃん!」
卵焼きを味わったシャルがぱっと笑顔になる。
「ねー、ねー、これも食べたい」
結局、先輩呼びの嬉しさから戻ってきたソフィーが止めるまでの間で、お弁当の1/3を食べられてしまっていた。
「シャル先輩、何やってるんですか全く」
ソフィーが呆れた声を上げる。
「だってめっちゃおいしかったんだもん。しょーがないじゃん!」
「はぁ。シオン君、代わりになるかわからないけど私のお弁当少し分けますね」
「大丈夫です」
ただでさえ小さいお弁当なのにそこから分けて貰ったらソフィー先輩の分がなくなってしまう。
「遠慮しなくていいですよ。私小食なので」
ソフィーは幾つかの料理をシオンのお弁当に分けてくれる。
「ありがとうございます」
分けて貰った料理を口に入れる。優しい味が口いっぱいに広がって思わず顔を綻ばせる。
「凄く美味しいです!」
「お口にあったようで何よりです」
「ソフィーもっと食べないと大きくなれないよ~」
シャルがにやにやとした笑みを浮かべながらソフィーを見つめる。
「なっ!? これから成長しますから」
ソフィーは自分の胸を腕で隠しながら睨みつける。ソフィーの胸は僅かに膨らんでいるだけでシャルと比べるとかなり小さい。
「あれ~、私は身長のことを言ったんだけどな~?」
悪い笑みを浮かべたシャルにソフィーは顔を赤らめる。
「シャル先輩!!」
まずい、予定よりも時間がかかってしまったな。
ブリスは急ぎ足で生徒会室に向かっていた。至急で呼び出しておいて、呼び出した側が遅れること事態あってはならないことだ。
それにソフィー君はともかくシャル君が迷惑をかけてなければいいが……。
「すまない、急な用事で遅くなって……」
ブリスが生徒会室の扉を開けると、顔を赤く染めシャルを追いかけているソフィーに、笑いながら逃げているシャルが見えた。そしてその2人を何とか止めようとしている黒髪の少年。
遅かったか……。
ブリスは深いため息をつきながら力なく首を横に振った。
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