第81話 少年期 違えてはいけないこと
「少しだけ寄り道して良いかな?」
「はい」
「構いません」
シオンのお願いをフェリとニーナ快く受け入れる。
ギルドを出たシオンが向かったのは前にクレープを買いにきたお店だ。夕方ぐらいの時間も合ってか人通りは多いがお店の前の行列はこの前より短い。
「いい匂いですね」
フェリが鼻を鳴らしながら顔を綻ばせる。
「もしかして、この前シオン君が買ってきてくれたクレープのお店ですか?」
「ニーナさん、正解です。その時におまけして貰ったのでまた買いに行こうと思ってたんです」
「あのおいしいクレープこのお店なんですね!」
その言葉の直後、ぐぅ~と可愛らしい音が隣から聞こえてくる。
「あう……」
フェリが顔を赤く染めて俯く。恥ずかしそうに尻尾も丸まっている様子が可愛らしかった。
「いらっしゃいませ、また来てくださったんですね」
シオンたちの番になり顔を見るなり店員が声を上げた。
「凄くおいしかったので!」
「そう言ってもらえるのが一番うれしいね。それで、今日は何にします?」
「2人はどれがいい?」
メニュー表を受け取り2人に見せる。
「みんなの分買って帰るので好きなのを選んでください」
2人ともシオンがお金を払おうとしていることに気づいて遠慮しようとしてきたので、「後ろの人も待ってますから」とにっこり微笑む。
「じゃあ、これをお願いします」
「私はこちらを……」
遠慮がちに指さしたメニューを店員さんに伝え、その他に自分とティアナ、リアの分を注文する。
「少々お待ちください」
店員が手際よく作っている間、シオンはきょろきょろとあたりを見回す。
あの花売りの子はもう帰ってるのかな?
前にいたところに視線を向けるがいない。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「あの子なら少し前に帰ったみたいだよ」
「えっ?」
「花売りの子探してたんじゃないのかい?」
「そうです」
代金を受け取りながら店員が「やっぱり」と頷く。
「あの子お姉さんと2人暮らしらしくてね。お姉さん結構優秀な冒険者だったらしいんだけど病気になっちゃって。それからはあの子が毎日お花を売ってなんとか生活してるみたいだよ」
「そうだったんですか……」
「ああ、礼儀作法のしっかりしている子だから何とかなって欲しいけどね……。はい、お釣り。良かったらまた来てね。後ろの2人も」
「ありがとうございます」
「シオン様、前にきたとき何かあったんですか?」
フェリの言葉にニーナもちらりとシオンに視線を向けた。
「実は……」
シオンは前にきたときの出来事を話し始めた。
「そんなことがあったんですね……」
話を聞き終えると2人とも神妙な顔を浮かべた。
「うん、なんとかしてあげられたらいいんだけど……」
「そうですね……」
シオンの言葉にニーナが同意する。
「その子、獣人なんですよね」
「多分、猫族の子だと思う」
フェリは白狼族、ニーナはハーフエルフでこれまで弱い立場にいたことがある2人だから思うところがあるのだろう、2人とも神妙な顔で考え込んでしまっていた。
「花売りだけで生活するのは厳しいですよね……」
「正直、色々切り詰めたとしても厳しいと思います」
「やっぱりそうですよね……」
ましてさっきの店員さんの話だと病気のお姉さんがいるみたいだし。どうにかしてあげられたらいいんだけど。
「そうだ、ラルフ侯爵から貰ったお金を渡せば……」
「シオン君、その案はやめた方が良いと思います」
ニーナがそっと横から声を上げた。
「えっ」
ニーナの瞳が鋭くシオンを貫く。
「短期的に見ればそれでいいかもしれません。ですが、それが尽きてしまったら? それに、彼女たちは恐らく王都の外れにあるスラム街に住んでいると思います。そんなところに大金を持っていることがバレたら襲われてしまうことだってあり得ます」
「……っ!」
確かに少し考えればわかることだ。この世界の全員が善人なわけじゃないことはリアの件でもわかっていたはずだ。
「シオン様、私もニーナさんと同じ意見です」
フェリがそっと口を開く。
「シオン様が私財を投じてまで救ってあげようと思う考えは立派だと思います。ですが、それでは本当の意味で彼女たちを救うことにはならないんです」
「……すいません、僕が間違ってました」
「いえ、私もきつい言い方になってしまって申し訳ありません」
ニーナが頭を下げる。
「そんな、頭を上げてください! ニーナさんのお陰で自分の間違いに気づけたんです。ニーナさんが謝る必要はありませんよ」
シオンはニーナの手を掴んで顔を上げさせる。
「むしろ、言いづらいことを言ってくれてありがとうございます。ニーナさんが僕の専属担当でよかったです」
シオンが笑顔を見せるとニーナは少し目を見開いてそっと視線を逸らす。
「フェリも言ってくれてありがとう。これからも僕が間違ってることがあったら遠慮なく言ってくれる?」
「わかり、ました」
「ありがとう」
「はい」
フェリはそう言って優しい笑みをシオンに向ける。
「僕にできることがないかもっとちゃんと考えてみる」
「私も微力ながら手伝わせてください」
「私も手伝います」
「2人ともありがとう」
今日言われたことは絶対に忘れないようにしよう。
シオンは密かに決意する。
ぐぅぅぅ~
重くなった雰囲気を打ち消すようにフェリのお腹が再びなる。慌てるフェリを見ていたら思わず顔が綻ぶ。
シオンは自分の分のクレープを取り出して3等分して1つをフェリに渡す。
「フェリ、一緒に食べよう?」
「……いただきます」
フェリは赤い顔のままもきゅもきゅとクレープを頬張る。
「ニーナさんもよかったら」
「ありがとうございます、せっかくなのでいただきますね」
3人は仲良くクレープを分け合いながら屋敷に帰っていった。
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