第80話 少年期 フェリの実力

「ここら辺にキングホーンが現れるんだよね?」

 王都を出て約2時間。シオンとフェリは平原に辿り着いていた。

「そのはずだと思います。……その、シオン様」

「どうかした?」


 恐る恐ると言った感じでフェリが声を上げる。

「その……魔物が襲ってくるかもしれないので手を離していただけると……」

「えっ?」

 フェリの視線の先にはシオンに握られたままの右手。ギルドを出るときからずっと握っていたのだ。

「ご、ごめんなさい」

「い、いえっ」

「……」

「……」

 何とも言えない空気が流れる。


「さ、さぁ、キングホーンを探しましょう」

 フェリが肩にかけていた長い袋から武器を取り出す。中から出てきたのは2メートル前後ぐらいの長い槍だ。フェリは槍を回したり、振ったりして感覚を確認していく。かなり様になっていて扱い慣れている感じだ。

「フェリは昔から槍を使ってたの?」

「はい、村にいた時は槍で魔物とかを狩ってましたから」

「そっか、……っと、フェリあそこ」

 シオンが指さした先には2頭のキングホーンがいた。


「すぐに見つかりましたね」

 フェリが槍を構える。向こうとシオンたちに気づいたようで敵意の籠った視線を向けてきた。

「1頭ずつ相手する感じでいい?」

 シオンも腰から剣を抜く。

「わかりました」

 戦いやすくするため、2人は距離を取ってそれぞれキングホーンに近づいていく。


「ブオオォォォォォォ!!!」

 地面を揺らすほどの鳴き声を上げながら痺れを切らしたキングホーンの内1頭がシオンに向かって突撃を開始する。それにつられてもう1頭もフェリに向かって突っ込み始めた。


 やっぱり勢いがついていると速いな。

 シオンはギリギリまでキングホーンを見極めぶつかる直前で右にステップする。

「ふっ!」

 後ろ脚めがけて剣を振るうと、キングホーンはバランスを崩して地面に転がる。立ち上がろうとするも足に力が入らず、その場で唸り声を上げながらもがいていた。


 せめて長く苦しませないように。シオンはキングホーンに接敵して首めがけて剣を突き刺す。何度やっても手に残る感触には慣れない。動かなくなったキングホーンに一礼して振り返る。

 フェリは……。シオンの視線の先ではフェリがキングホーンとの戦闘を開始していた。


「はぁ!」

 フェリはキングホーンの突進をひらりと躱してすれ違いざまに足に向かって槍を薙ぐ。キングホーンは足から血を流しているが倒れていない。態勢を整えたキングホーンが再び突進してくるが、フェリは当然のように躱してまた槍を突き刺す。


 何度か繰り返していくうちにキングホーンの動きは明らかに鈍くなっていた。攻めるなら今だ。シオンがそう考えたのと同時にフェリはキングホーンに向かって走り出した。


 キングホーンが頭を振る。突進を諦めて襲ってくる敵を牙で倒そうという魂胆だろう。フェリは鋭い牙を軽やかな足取りで避けると後ろに回り込み、足に向かって突きをかました。


 悲鳴のような鳴き声と共にキングホーンが倒れこむ。今の一撃で体重を支えきれなくなったのだろう。

「これで終わりです」

 フェリはとどめを刺すように槍を首に突き刺した。


「お待たせしました」

 討伐したキングホーンから牙を剥ぎ取り終えたフェリがシオンの元に駆け足でやってくる。

「どうでした?」

「凄かったよ」

 身のこなしは軽やかだし、動きのスピードも僕より間違いなく速い。槍の扱いも慣れているし、とても少し前に冒険者になったばっかりとは思えない。村にいた時に狩りをしていたと言っていたからその経験が生きているんだろう。


「ありがとうございます!」

 シオンが褒めると正直な尻尾がフリフリと揺れる。

「これならシオン様が依頼を受けるときもついて行けますよね?」

 これからもついて行っていいですか? と瞳が訴えかけてくる。

「うん、フェリがついてきてくれるなら心強いかな」

 その答えにフェリはぱっと顔を輝かせる。

「お任せください!」

「でも、忙しいときとかは無理しなくていいからね」

「わかりました。大丈夫なように体力をつけます」

「いや、そういう時は遠慮なく休んで……」


「お2人ともお疲れ様でした。無事に依頼を達成できたようで良かったです」

 ニーナの視線はシオンたちが持ってきた牙に向けられていた。

「ありがとうございます、ニーナさん」

「牙についてですが1本は依頼の納品としていただきますが、残り3本はどうしますか? ギルドで買い取りすることも可能ですが」

「えっと……」

 フェリに視線を向ける。

「シオン様にお任せします」

「それじゃあ、買い取りでお願いします」

「わかりました。査定してきますので少し待って下さい」

 

 シオンたちは1階にあるソファーに座って時間を潰す。

「どれぐらいになるんですかね?」

「ローゼンベルクで売った時は確か、牙1本で銀貨1枚だったかな」

 その時は賊から救出される際にグレナさんの知恵も貸して貰っていたのを知っていたからお金は貰わずアイテムだけ渡したけど。


 窓の外に顔を向けると空が少しずつ茜色に染まってきている。

「シオン君、フェリさんお待たせしました」

 ニーナが麻の小さな袋をもってやってくる。

「こちらキングホーンの牙3本分で銀貨3枚と銅貨6枚になります」

「ありがとうございます」

 シオンは受け取るとそのまま「はい」とフェリに渡す。1本あたり銀貨1枚と銅貨2枚。王都の方が物価が高いから若干買い取り額も高いのかもしれない。


「いつもお世話になってるし、少ないけどこれはフェリが好きに使って」

「いえ、そう言う訳には!」

 フェリは胸の前で手をぶんぶんと振る。

「じゃあ半分」

「シオン様が好きに使ってください」

 押し問答を続けたがフェリは一向に受け取ってくれない。ならばとシオンは考えを変える。


「そう言えば、ニーナさんお仕事ってそろそろ終わりですか?」

「そうですね、今日はもうすぐ終わります」

「じゃあこの後一緒に帰りませんか?」

「わかりました」

「ありがとうございます! フェリもいい?」

「問題ありません」


 シオンたちはそのままニーナが終わりまで待ち、3人揃ってギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る