第79話 少年期 王都での初依頼へ
学院での生活が始まり初めての週末休み。シオンとフェリはギルドを訪れていた。
「では、今日はフェリさんのDランク昇格の為の討伐ということですね」
「そうです」
ニーナの言葉にシオンは頷いた。
「つい2日前にEランクの討伐依頼を終えたばかりですけど体調とか問題ないですか?」
ニーナがフェリに視線を向ける。
「大丈夫です。体力には自信ありますから!」
フェリは入学式の翌日から3日間シオンの従者として学院に行かない代わりにギルドで討伐依頼を受けていた。従者の場合、主が講義を受けている間、希望者は作法や武術などを学ぶことができるようになっている。希望しない場合は何をしていても問題ないのだ。そこでフェリはシオンから許可を貰い、学院までの送り迎えだけ行い、間の時間を使ってギルドで依頼を受けていた。
大変だろうから送り迎えもしなくていいと言ったのだが、そこは「問題ありません」と頑なに譲らなかった。なんでもティアナとリアと約束があるとのこと。詳しいことは教えて貰えなかったので具体的な内容は不明だ。
にしても、やっぱりフェリは凄いんだな。隣で耳をぴこぴことさせているフェリをちらりと伺う。元々白狼族は身体能力が優れているから実力はあるだろうと思っていたが、週末までの3日間でEランクに昇格したのには驚きしかない。
「今日は僕も一緒に行くのでもし何かあっても2人で何とか出来ると思います」
横からシオンが追随すると、ニーナは「わかりました」と資料をフェリとシオンの前に置いた。
「シオン様には前に説明したと思いますが、フェリさんの為にもう一度説明します」
フェリとシオンが資料に目を向けているのを確認してニーナが口を開いた。
「Dランク昇格の為には2種類の魔物討伐が必要になってきます。1つ目がキングホーンです」
資料のキングホーンと書かれた部分に視線を移す。かなり大きなイノシシのような見た目をしている。
「体長約2メートル前後、体重は600キロ~800キロの魔物で鋭い牙を持っています。王都近辺だと平原によく現れていると報告が上がっています」
「わかりました」
フェリは熱心に資料を読み込んでいく。シオンとしては一度討伐したことのある相手だ。
「突進に気を付けないといけないんですよね?」
「はい、キングホーンは勢いをつけた突進が主な攻撃方法になります。距離が詰まっている時は牙の攻撃もあります」
最速60キロほどで茶色く厚い毛皮に覆われた生物が突進してくるのだから、初めて戦った時は驚いたのを思い出す。威圧感も凄かったし……
「でも、小回りが利かないんですよね」
「そうなんですか?」
シオンの呟きにフェリが反応する。
「うん、体が大きい分、急に動きを変えられないんだよ」
シオンがそうですよねとニーナに視線を向ける。
「シオン君の言った通りキングホーンは体が大きい分小回りが利きません。なのである程度の実力がある冒険者なら突進を避けること事態は難しくありません。一般的には突進を避けて比較的毛皮の薄い足を狙って攻撃して動きを鈍くさせたり、火属性の魔法を使って遠距離から倒す方法が推奨されてます」
「なるほど、シオン様はどうやって倒したんですか?」
「僕は突進してきたところを足を切って動けなくして、後は火属性の魔法かな」
「なるほど……わかりました。2種類目はどんなのですか?」
フェリは少し考えたのち口を開いた。
「2種類目はポイズンスネークです」
「蛇ですか?」
資料2ページ目に書いてあるイラストを見てフェリが顔をしかめる。
「フェリって蛇苦手だったっけ?」
「いえ、特別苦手というわけではないですが、あまり見ていたいとは思わないです」
「それは、そうかも」
「それにかなり大きいみたいですし」
資料には全長3メートル~5メートルと書かれていた。
「ポイズンスネークの特徴は名前の通り強い毒を持っていることです。攻撃方法は主に噛みつき、巻き付き、毒を吐くといったところになります。また、単純なスピードはキングホーンより劣りますが地面を這いながら素早く動くので、攻撃を当てるのに苦労する冒険者もいらっしゃいます」
「わかりました、ニーナさんありがとうございます」
フェリがにっこりと微笑むとニーナも僅かに顔を綻ばせる。屋敷でも2人が話しているところを見かけるし意外と仲が良いのかもしれない。
「いえ、それで今日はどちらを目標にしますか?」
「えっ、2つともは駄目なんですか?」
フェリがさらっと口にする。
「生息地が異なりますし、王都から行って帰ってを考えると一種類ずつ倒した方が良いと思います」
「わかりました。シオン様、今日はキングホーンの討伐依頼を受けようと思いますがいいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
「では手続してきますので、少しだけ待っててください」
暫くしてニーナが戻ってくる。
「受注完了しました。シオン君もフェリさんも気を付けてくださいね」
「ありがとうございますニーナさん」
「はい」
ニーナに見送られながら2人は部屋を後にした。
やっぱり目立っているのかな。1階に降りると数名の冒険者がこちらを見てきていた。中にはフェリに向けていやらしい視線を向けている奴もいる。
なんかむかむかする。
「シオン様!?」
急に手を握られフェリが声を上げる。ゆらゆら揺れていた尻尾が一瞬ピンと逆立つ。
「行こう、フェリ」
シオンは手を握る力を強めてギルドを後にした。
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