第78話 少年期 取材
「じゃあ、早速はじめますね。時間もありませんし」
「はい」
シオンは姿勢を正した。
「まず、武術試験でかなり優秀な成績を修めたと思いますが、何か特別な練習法でもあるんですか?」
「……いえ、毎日鍛錬はしていますけど、これと言って特別なことはしていません」
「鍛錬は何歳から?」
「8歳の頃からです」
「だいたい4年間も続けてきたと……ふむふむ、強さの秘訣は日々の積み重ねと」
セシリーはノートに文字を書き込んでいく。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞー」
「その、武術試験の成績とか生徒たちに知らされないはずなんじゃ……」
ある程度順位を知っているかのような口ぶりが気になる。
「ああ、正式な順位は知らないですけど、毎年、試験官を務めていただいた先生たちにアンケートを取っているんですよ」
セシリーはノートに挟まれていた資料の一部をシオンに見せた。どうやら各質問ごとに名前が挙げられた生徒をピックアップしているようだ。
「後は、噂や前評判などの情報を集めて新聞委員会で順位を予想しているんですよー。ちなみに武術試験においてシオン君は新聞委員会の予想で堂々の第1位ですよ!」
「そうですか」
「あんまり嬉しそうじゃないですね」
「そんなことないですけど、まだまだ自分より強い人はいっぱいいるので」
シオンの脳裏にギースが浮かんで思わず顔をしかめる。
「強い向上心を持っていると」
セシリーはその様子を興味深そうに文字に起こしていた。
「ナタリー先輩、もう少し落ち着いても大丈夫だと思いますよー」
シオンが取材を受けているところから少し離れた庭園内。ローザはずっとシオンの方を注視しているナタリーに声をかけた。
「いえ、何かあったときにすぐに助けられるようにしておきませんと」
そう返す際もナタリーの心配そうな瞳はシオンに向かったままだ。
「本当のお姉ちゃんみたいですねー」
「……っ!」
さっきのことを思い出したのか、ナタリーの頬がほんのり赤く染まる。
「ローザでしょ? シオン君に余計なことを教えたのは」
「そんなことないですよー。ただ私はアドバイスを送っただけですからー」
当たり前のように白を切る。
ナタリー先輩もシオン君をこれまで以上に好意的に見てくれるようになったはずです。これで多少強引に勧誘しようとしても目を瞑ってくれるでしょう。とは言ってもティアナがいる生徒会を差し置いて引き抜くのはまだ厳しい。他の手を考える必要もありそうですねー。
「ふふっ」
「ローザどうしたの? 急に笑って」
「なんでもありませんー」
ローザはそっとシオンを見つめていた。
「それじゃ、次の質問ですね。同級生で気になっている生徒はいましたか?」
「そうですね……」
シオンは少し考え込む。
「武術試験の時に気になったのはフェリクス、マルクで、魔法試験でもフェリクスと、ポーラさんが気になりました」
「なるほどなるほど。じゃあ次に入学早々、美化委員会の手伝いをしているみたいですけど、美化委員会に入る予定なんですか?」
「えっと、今日はローザ先輩から頼まれてお手伝いをしにきただけなので、正式に入るとかはまだ決めてないです」
「では、美化委員会のお手伝いをしてみてどうでした?」
「単純に凄いなと思いました」
シオンは庭園内に咲いている花々に視線を向けた。
「と、言うと?」
「前に教えて貰ったんですけど、お花ってただ水をあげれば綺麗に咲くってわけじゃないんです。しっかり根を張ってもらうために土に肥料や腐葉土を混ぜたり、雑草を抜いたり、お水をあげたり、愛情を持って接してあげないと綺麗な花は咲いてくれないらしいんです」
「なるほど」
「学院中の花たちすべてにそれをやるのって凄い大変なことだと思うんです。土や肥料は結構重さもありますし。でも、学院内の花は何処でも綺麗に咲いてますよね? それって表に出ていない努力を美化委員会の人たちがしてくれているからだと思うんです。だから凄い尊敬しますし、素敵な優しい先輩たちだと思います」
「……なるほどねー」
セシリーは聞き終えるとにんまりと口を緩ませた。
「それじゃあ、最後の質問」
「はい」
取材の終わりが見えシオンの気持ちが緩む。
「好きな女性のタイプは?」
「はい?」
思わず聞き返した。
「だから、好きな女性のタイプですよー。男の子だし色々あるでしょー」
「いやっ、そのっ……」
「例えば、年上とか、おっぱいが大きいとか、こんな髪型がいいとか、ねっ」
セシリーが席を立ちシオンと距離を詰めていく。
「後は、積極的な子がいいとか」
セシリーがそう言って膝の上に置いてあったシオンの手に自身の手を重ねる。
「さぁさぁ、答えてくださいー」
「ちょっと、何やってるんですか!?」
美化委員会のメンバーがいる方からそんな声が足音と共に投げられる。
「残念、時間切れのようですね」
セシリーはペロッと舌を出してすぐさまシオンと距離を取る。
「シオン君、大丈夫でしたか?」
すぐさまやってきたナタリーがしゃがみ込んでシオンと目線を合わす。
「大丈夫です」
「それなら良かったです」
それから彼女はシオンを背中で隠しながらセシリーと対峙する。
「私は何もやってませんよー、ただシオン君に好きな女性のタイプを聞いただけです」
「それならあんな近づく必要ないですよね?」
「それは……まぁ、てへっ?」
「……」
「冗談ですよ、もう記事作成に必要な情報は手に入ったんで終わりにします!」
冷たい視線に恐れをなしたセシリーが慌てて荷物をまとめていく。
「あっ、そうだ、シオン君、取材受けてくれたお礼」
彼女はそう言って一枚の銀色のカードを渡す。カードには前面に『ブレッチア商会』と記載されている。
「私の家、商会なんだ。そのカードがあるとどんな商品も1割引きで買えるから良かったら使ってね。それじゃ」
「あっ、ありがとう、ございました……」
お礼を聞くより早く彼女は脱兎のように庭園を去っていく。
「全く……」
ナタリーは遠くなっていく彼女の背中を見ながらため息をつく。
「シオン君、お疲れ様。彼女の家の商会、最近成長してる所なんでよかったですねー」
「はい、あの、ローザ先輩、どうして僕の頭を撫でてるんですか?」
「嫌だった?」
「そんなことはないですけど……」
可愛がってくれるのは嬉しいが、恥ずかしいのに変わりはない。
「じゃあいいよね。さぁ、シオン君戻ってお茶会の続きをしましょうか。みんなシオン君にあーんするために残ってるんですよー」
とても断れるような雰囲気じゃない……。
「は、はい……」
シオンはなされるがまま委員会メンバーのところへ連れて行かれるのであった。
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