第77話 少年期 新聞委員会
委員会の先輩たちがスッとシオンを隠すように立ち位置を変える。
「シオン君は私たちの後ろに来てもらえますか?」
「わ、わかりました」
有無を言わせない雰囲気にシオンは言われるがまま移動する。
「セシリーさん、美化委員会に何か御用ですか?」
ナタリーが一歩前に出た。
「どうも、ナタリー先輩。今日は美化委員会じゃなくて、そっちのシオン君に取材させて貰えたらなーと思いまして。もちろん、ナタリー先輩が取材を受けてくれるならいつでも大歓迎ですけど」
セシリーは覗き込むように体を動かす。サイドテールの髪がしっぽのようにゆらゆら揺れている。
「申し訳ありませんが取材を受けるつもりはありませんし、シオン君は今日美化委員会のお手伝いをして貰ってますのでお引き取りいただけますか?」
「そんなつれないこと言わないでくださいよー」
セシリーはすすっとナタリーとの距離を詰める。
「ちょっとだけでいいんです。ほんとちょっとだけ。お願いします! 期待の新入生の特集なのにまだ1人もインタビューできてないんですよー」
「お引き取り下さい」
泣き落としに動じることなくナタリーはバッサリと言いのけた。
「そんなー」
ガクッと肩を落とした様子を見ると不憫に思えてくる。
「あの、僕で良かったら……」
「ほん……」
「シオン君、ちょっといい?」
話し終えるよりも早く、ナタリーがシオンの言葉を遮った。
「シオン君は入ったばかりだから知らないと思いますが、あの子をはじめ新聞委員会の人たちには関わらない方がいいですよ」
「そうなんですか?」
見たところやばそうな感じはしないけど……。
「ええ、あの人たちは発行した新聞が売れさえすればいいと思っているのか、あることないこと平気で書きますから」
ナタリーがキッと睨みつけるとセシリーは身を震わせる。周りの美化委員会メンバーも同じ考えのようで表情こそ柔らかいもののその後ろには凄い圧が見える。
「あの件について私は加担してません。記事を書いた人たちも全員委員会から除名になってます。それに私はちゃんとした記事を書きたいんです。お願いします、信じてください」
セシリーの瞳に涙がにじんでくる。
「……他の新入生に声をかけたらいかがですか? 有望な子は大勢いらっしゃると思いますし」
ナタリーも流石に泣かれるとは思っていなかったのか僅かに動揺を見せていたが、それでも毅然とした態度を貫く。これまでの話から予想するに前にこの新聞委員会のせいで美化委員会が迷惑を被ったのは間違いないだろう。でも彼女が言っていることが本当なら彼女は悪くないことになる。
「さぁ、皆さん、お茶会を続けましょうか」
「ナタリー先輩、あの子いいの?」
ローザがナタリーに小さく声をかける。その間も視線は下を向きながら立ち尽くしている彼女に向けられているから心配しているのだろう。
「可哀想ですがこれまでのことがありますので。美化委員会として新聞委員会の人の取材を受けることはできません」
「……あのセシリー先輩でしたよね?」
下を向いたままぐっと涙をこらえている彼女に近づく。
「シオン君?」
「まぁまぁ、ナタリー先輩」
シオンを連れ戻そうとするナタリーをローザが止める。
「僕で良かったら取材受けますよ」
「……ほんと?」
上目遣いでセシリーが尋ねる。
「はい、でも今後美化委員会の先輩たちに迷惑をかけるようなことは絶対にしないって約束してもらえますか?」
セシリーは返事の代わりにこくんを首を縦に振る。
「わかりました、信じます」
「……やったー、ありがとう!」
「えっ?」
さっきまでの表情は何処へやら、彼女は嬉しそうに笑っている。
「もう言質もらったから今更なしとかないからねー」
「だから忠告したんですけど……」
額に手を当てるナタリー。
「すみません……」
「でも約束した通り、美化委員会に迷惑をかけるようなことはしませんし嘘も書きません」
「……シオン君一人で受けさせるのは心配なので、席を用意するからここで取材をしてもらえますか?」
「私は何処でもいいですよー」
セシリーはノートを広げながら取材の準備を進めている。
「いいんですか?」
「シオン君1人だと少し心配なので」
「ありがとうございます」
「どなたかすいませんが椅子を二つ用意してもらえますか?」
「シオン君、シオン君」
椅子の準備をして貰っている間に近づいてきたローザが耳打ちしてくる。
「えっ!?」
「ナタリー先輩喜ぶから、ねっ?」
「シオン君、準備できましたよ」
ナタリーが呼んでくる。
「わ、わかりました。ローザ先輩ほんとなんですよね?」
「幼馴染ですからナタリー先輩のことはよくわかってます。だから安心してくださいー」
ローザはそう言ってシオンの頭を撫でた。
取材のための席はお茶会のテーブルから少し離れたところに設置してもらっていた。
「変な質問をされたりしたら私の方を見てください。助けに入りますから」
「はい」
「答えたくない質問とかは無理に答えなくても大丈夫ですからね」
セシリーを席に待たせながらナタリーが注意事項を告げてくれるが、シオンの頭の中はさっきローザから言われたことで一杯であまり入っていない。
「それと、さっきのでわかっていると思いますが、彼女は嘘泣きもできるので泣き落としとかされないように注意してくださいね」
「はい、ありがとうございます。その……」
「……?」
言いよどんだシオンにナタリーは小首を傾げる。
流石に恥ずかしい。けどローザ先輩がそれがナタリー先輩へのお礼になるからと言っている以上、信じるしかない。ナタリーの瞳を見つめ、はにかみながら呟く。
「ナ、ナタリーお姉ちゃん」
「……っ!」
「取材受けてきますね」
恥ずかしさの限界がきて逃げるようにセシリーの待つ席の方に向かっていく。
「ナタリー先輩、どうしました? 顔赤いですよ?」
「大丈夫です。気にしないでください」
心配している委員会メンバーたち。そんな中、ローザだけが満足げに頷いていた。
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