第73話 少年期 クラス分け
「シオン、準備できてる?」
「大丈夫です」
ティアナの言葉にシオンは首を縦に振った。いよいよ今日から学院生になるんだ。不安と緊張、それに期待が混ざり合って感情が良くわからない。
「正門を抜けてまっすぐ進むと中庭があってクラス分けのボードが置かれているからそこで自分のクラスを確認するんだよ?」
「はい」
「じゃあ、お姉ちゃんは準備があるから先に行くね」
「はい、ティアナ姉さんいってらっしゃい」
「……っ!」
「姉さん?」
ティアナは何故が体中を震わせながらしゃがみ込んでしまった。心配で緊張やなんかが全て吹き飛んだ。
「体調悪いんですかっ!? 誰か呼ばないと……」
使用人を呼ぼうとしたシオンの手がくいっと引っ張られる。
「……もう一回言って」
「えっ?」
「……さっきの」
相変わらず顔をうずめたまま言葉だから聞こえてくる。
さっきのって……
「いってらっしゃい?」
「やっぱり私もシオンと一緒に行くー!」
「ちょっ!?」
正面から抱き着かれて、まったく身動きが取れない。
「そんなことしたら他の人が困っちゃいますよ」
「大丈夫、うちの生徒会は優秀だから。私一人いなくても問題ないから」
「失礼します、シオン様、こちらにティアナ様がいらっしゃっ……」
ノックして入ってきたフェリは熱烈に抱きしめられているシオンを見て「やはり、ここでしたか」と呟く。
「ティアナ様、ローザ様とラウラ様がお迎えにきてますよ」
「先に行ってって伝えてくれる? 私はシオンと一緒に行くから」
「ですが……」
ティアナはより一層シオンを強く抱きしめる。困り顔のフェリが助けを求めるようにシオンに視線を向けた。お願いします、なんとかしてください。明らかに瞳が訴えていた。
「あ、えっと、ティアナ姉さんが学院で迎えてくれるの楽しみだったのになー」
恥ずかしさから棒読みになりつつもその言葉にティアナがぴくりと反応する。もっとと視線の先でフェリが促してくる。
「クラスメイトにも自慢したかったなー、あの、き、綺麗な先輩は僕の姉なんだって」
「フェリ、2人はどこで待ってるの?」
「エントランスでお待ちいただいてます」
「わかった。シオン待ってるからね」
最後にもう一度ぎゅっと抱きしめ直してからティアナは颯爽と部屋を出て行く。
「シオン様、ありがとうございました」
「ううん」
顔を隠しながら答える。
「……えへへ、シオンお兄さま~」
ベッドの上では頬を緩ませたリアがぐっすりと眠っていた。
「ねぇ、フェリ。お父様たちは?」
ティアナが出発してから1時間後、シオンたちも馬車に乗って学院に向かっていた。
「後から向かうそうです」
「そうなんですね」
なんでも仕事が大詰めを迎えているらしい。そのせいで両親ともども王城に籠りきりになっていてまだ直接会えていない。
「式の開始までまだ1時間以上ありますし、大丈夫だと思いますよ」
少し寂しそうな表情を見せたシオンにフェリが優しく投げかける。
「大丈夫。ありがとう」
「ニーナさんも来れたら良かったのにね」
リアが残念そうに呟いてシオンとフェリは顔を見合わせた。
入学式は新入生の家が招待した人であれば入ることができる。ニーナも誘ってみたが、「ハーフエルフと付き合いがあると思われては良くありませんから」と固辞されてしまっていた。
「お仕事が大変だから仕方ありませんよ」
「そっか」
フェリのフォローに納得したようでリアは外の景色に興味を移していた。
「ではシオン様、私たちは先に講堂の方に行っていますので」
正門前で馬車から降りる。式が始まるまでまだ時間があるが、それでも正門前にはそれなりの人が既にいた。
「リア一人でどっかいかないようにね」
「はい」
リアの頭を撫でる。
「フェリもリアのことお願い」
「お任せください」
「ありがとう、じゃあ行ってきます」
まずは中庭に向かわないと。2人に見送られながらシオンは正門を潜り抜けた。
結構いるな……
シオンが中庭に到着すると、そこには新入生たちがボードの前に集まっていて、自分の名前を見つけては一喜一憂していた。
『よかった、Bクラスだ』
『Dクラスだ……これから頑張らないと』
『お嬢様、私たちはSクラスです』
『当然よ』
この声って……。シオンが声のした方角に顔を向けると、試験の時お茶会に誘ってもらったアヤメとアカネの2人がいた。
「あれ、昨日の夜から『Sランクじゃなかったらどうしよう~』ってずっとそわそわしてた気がしますけど?」
「なっ、何の事かしら?」
アカネが顔を逸らしたところでシオンと目が合い、一瞬だけ顔が綻んだがすぐに凛とした表情に戻っていた。
「シオン君、試験の時ぶりですね」
「アヤメさんおはようございます。アカネさんも」
「お、おはよう」
「シオン君、これからクラスメイトとしてお嬢様共々、宜しくお願いしますね」
「僕のクラス知ってるんですか?」
「いえ、ですがお嬢様曰く絶対にSクラスだろうと」
「聞いたのよ、武術試験で一瞬で相手を倒したとか。そう考えたら普通にSクラスでしょ」
ぶっきらぼうにアカネが答える。
「シオン君、お嬢様はあんまり同い年の男の子と話したことがなくてツンケンしちゃってるだけなので大目に見て貰えるとありがたいです」
手で口を隠しながらアヤメが耳打ちする。
「ちょっと、何話してるのよ!」
「秘密です、ねっシオン君?」
口に人差し指を当てながらアヤメがウインクする。意外とお茶目なところがあるんだ。
「楽しそうだね、よかったら僕も混ぜて貰えるかい?」
振り返るとそこに立っていたのは青みがかった黒髪の美少年。
「おはよう、シオン」
「おはようございます」
「アヤメさんもアカネさんもおはよう。もうクラス分けは見たの?」
「お、おはよう」
「おはようございます。私たちはSクラスでした」
言い方に迷っていそうなアカネに変わってアヤメが答える。
「ならシオン一緒に見に行こう」
フェリクスはシオンの肩を掴む。
「すまない、僕らもボードを確認したいんだ。少しだけ道を開けてくれないか?」
「えっ? フェリクス様!? どうぞ」
声をかけられた女子生徒が大声を上げ視線が一気に集まるのと同時に、すっとボードまでの道が開かれる。
「王族ってこういう時便利だよね」
まるで他人事のように笑いながらフェリクスはシオンと共にボード前に向かった。
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