第71話 少年期 3人でデート
ギルドを後にした3人は大通りを歩いていく。両サイドに並んでいる店舗にはローゼンベルクにはなかったような店も多く、眺めているだけでも意外と面白い。
「シオンお兄さま、見てくださいこれ!」
雑貨店のようなお店に入り、リアが手のひらサイズのおしゃれな見た目の箱を持ってきた。中を開くと幾つかの歯車が噛み合っている。
「なんだろう?」
「小物でしょうか?」
「凄いんですよ、これに魔力を加えると……」
首をかしげている2人をしり目にリアはそう言って箱に魔力を込める。するとなかの歯車が回りだしてメロディーを奏で始めた。
「凄い!」
「えへへ」
リアはまるで自分が作ったかのように胸を張る。
「こんな小さい魔道具があるんですね」
フェリは目を丸くしながらまじまじと箱を眺める。
「オルゴールって言うらしいです」
リアが商品が置いてあった棚のポップを指さした。
「へぇ、オーダーメイドで好きな曲を入れることもできるんだ」
「凄いですね……って、シオン様」
「えっ? ……っ!」
ポップの下に書かれていた値札を思わず二度見する。思わず声が漏れてしまうところだった。
「金貨1枚もするんだ……」
「オーダーメイドだとさらに金貨1枚追加になるみたいです」
フェリが絶対に落とさないようにゆっくりとオルゴールを棚に戻す。ついでに周りの商品を確認するとどれも結構値段が張っている。
「リア、他のところも見てみよっか」
「? わかりました」
リアは小首を傾げながらシオンの手を握った。
次に向かったのは女性ものの洋服店だ。様々な色や種類の服が理路整然と並んできらびやかな印象を受ける。人気のブランドなのか店内は王都の女性たちで賑わっていた。
「外で待ってちゃ駄目かな?」
客も店員も女性だらけでシオンとしてはかなり居心地が悪い。さっきからちらちらと見られている気がするし……
『ねぇ、見て、あの子たち手繋いでるわ』
『兄弟かしら』
『微笑ましいわね』
「ねぇ、リア」
「ダメです♪」
洋服に目を輝かせながらリアがきっぱりと答える。
「じゃあ、シオン様、リア様。私は外で待ってますね」
フェリはそう言ってすっと店の出口に向かおうとするも、それよりも早くリアがフェリの手を掴んでいた。
「リア様?」
「ダメです。ここにはフェリの服を選ぶつもりできたんです」
「……えっ!? でも、私にはこんな可愛らしい服似合いませんから」
耳を垂らしながらフェリが答える。フェリの服装は使用人の時に着ているメイド服を除けばズボンにシャツなどボーイッシュなものが多い。今の服装も可愛い系ではなくかっこいい系だ。
「そんなことないですよ! シオンお兄さまもそう思いますよね?」
「えっ!? フェリはスタイルいいからボーイッシュなのも似合うと思うけど、こういう服装も似合うと思うな」
「……っ!」
「こういう服装のフェリ見てみたいですよね?」
続けざまにリアが膝丈の黒いスカートを持ってきてフェリの前にあてがう。
「うん、フェリは足が長いし白い髪とマッチして良いと思う」
「……ぅぅ」
「そうですよね! リアもそう思ってました! じゃあ、試着してみましょう。すいません」
リアは近くにいた店員さんに声をかけるとフェリを引っ張って試着室に向かっていく。その最中にもよさげな服を2、3着見繕っているあたり8歳とはいえちゃんと女の子なんだなと思わせられる。
「その、着替え終わりました」
試着室に入って数分。自信なさげな声と共に試着室のカーテンが開れた。
「フェリ、すっごく可愛いです!」
「ええ、良くお似合いです!」
「……そうでしょうか?」
「はい、ねっ、シオンお兄さま!」
リアがシオンの顔を見上げながら尋ねてくる。
フェリの服装は黒のフレアスカートに薄緑色のフリルの付いたブラウス。スカートから伸びる綺麗な足についつい目が行ってしまう。上のブラウスもフリルが女の子らしさを醸し出していて、かっこかわいい服装に思える。
「凄く似合ってると思う」
「可愛いですよね!」
「うん、可愛い」
「……っ! ありがとう、ございます」
消え入りそうな声でフェリが呟く。
『あらあら』
『小さいのにやるわねあの子』
『大きくなったら罪作りな男になりそう』
「シオンお兄さま、次はリアの服見てくださいね!」
リアは言うや否やぱっと店内を物色しに行ってしまう。
そこからはリアの独壇場で、次々と着替えてはシオンに意見を求めてくる。時間にして1時間続いたプチファッションショーが終わるころにはシオンはヘロヘロになっていた。
洋服店を出た一行は休憩でカフェのテラス席に腰を下ろしていた。
「シオンお兄さま、お洋服買ってくれてありがとうございます!」
リアはシオンの席に椅子を近づけ満面の笑みを見せる。4人掛けの席の1つにはさっき買った洋服の袋が置かれている。試着した服の中からシオンの反応が良かったスカート2点とブラウスとシャツだ。
「どういたしまして」
「シオン様、私にの分までありがとうございます」
「ううん、フェリにはいつも助けてもらってるから」
「ありがとうございます、大事にします」
フェリは恥ずかしがりながら笑みを見せる。
「あれ、シオン君にリアちゃんとフェリさん?」
「ローザ先輩?」
隣の人はローザ先輩の友達かな。目が合うと優しく微笑んでくれたのでシオンも軽く会釈する。
「こんにちはー。デートですか?」
「はい!」
シオンが答えるよりも早くリアが答える。
「そうなんだ、いいなー」
リアに視線を合わせるようにローザが屈むと大きな胸が揺れシオンは慌てて視線を逸らした。
「ローザさんも一緒にどうですか?」
機嫌を良くしたリアが尋ねる。
「まぁ、いいんですかー?」
「いいですよね2人とも」
リアの言葉にシオンとフェリが頷く。
「ありがとうー、ナタリー先輩も一緒でいいですか?」
「あら、私もよろしいんですか?」
「大丈夫です」
「ありがとうー」
「じゃあ、折角なので少しお邪魔させてもらいますね」
2人は店員さんに伝えて椅子を追加で用意してもらい腰かけた。
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