第70話 少年期 王都のギルドへ

 ここが王都のギルド。

「大きいですね」

 隣にいたフェリがシオンが心の中で思っていた事と同じような感想を漏らす。

「……うん」

 単純な大きさだけでもローゼンベルクのギルドより2倍近くはありそうだ。

「シオンお兄さま、フェリ、早く用事を済ませましょう!」

 2人の手を掴んでリアが急かす。

「わかったから落ち着いてリア、他の冒険者の人に当たったりしたら困るし、ね?」

「そうですよリア様。まだ朝早いですし、時間もいっぱいありますので」

「わかりました……」

 2人にたしなめられ、リアはしぶしぶ引き下がる。

「なるべく早く終わらせましょう」

「そうだね」

 フェリの耳打ちに頷く。3人は木製の大きな扉を開いた。


 ギルド内の造りはローゼンベルクと同じようで、1階には依頼書を貼ってあるボードにカウンターがあり、2階には会議室など幾つかの部屋が用意されているようだ。まだ朝早いこともあって人の数はまばらだが、誰を見ても屈強そうで冒険者全体の質の高さを伺わせる。


「視線が集まってますね……」

 フェリは小声で話しかけてくる。

「多分、珍しいからだと思う……」

 少年にまだ幼い少女、それに白狼族の少女が一遍にギルドにきたのだから目につくのだろう。ただ、絡んでくるような人たちはおらず、物珍しさから見ているといった感じなのは助かった。


 ローゼンベルクのギルドの時は家の名前があったし、ブルーノ兄さんがそれなりにギルドに顔を出していることもあって絡まれるようなことはなかったけど、ここではそんな後ろ盾はない。ミヒャエル兄さんからも、冒険者の中には粗暴な人も多いから気を付けるようにと言われているし気を引き締めないと。


「何か御用でしょうか? ギルドへの依頼でしたらこちらの用紙に必要事項を記入の上、提出していただくことになります」

「すいません、依頼じゃないです……」

 シオンは懐からギルドカードを取り出すと受付の女性は一瞬呆けた。

「失礼しました! 冒険者だったんですね」

「気にしないでください」

 貴族の子供らしき2人とメイド1人がくれば、冒険者としての用よりも依頼をしに来たと考える方が自然だろう。

「その、専属担当のニーナさんをお願いできますか?」

 伝えると女性は口をぽかんと開けた。


「お待たせしました」

 ギルドの2階にある一室に通され3人で待っていると、程なくしてニーナが幾つかの資料を持ちながら部屋に入ってきた。

「今日はフェリさんの冒険者登録と、Cランク昇格の為に必要な魔物討伐についてで良かったですよね?」

「はい」

 同じ屋敷に住んでいるので、事前に調べて欲しいことを伝えることができるのはかなり便利だ。


「フェリさん、こちらに必要事項を記入してもらえますか?」

「わかりました」

 フェリは用紙を受け取り目を通していく。

「フェリ、ほんとにいいの?」

 無駄と思いつつもシオンが声をかける。


 フェリが冒険者登録をすると言い出したのは、シオンが銀亭から救出されてすぐのこと。

『専属使用人になるので武術方面でもシオン様を助けられるようになりたいんです』

 嬉しかったが、元々フェリは料理人になるために屋敷にきているのだ。それが、専属使用人になってもらい、更には冒険者までとなると大変過ぎじゃないかと心配になる。

『問題ありません、元々動くことは好きなので気分転換になりますから。それに折角持っている槍術のスキルを使わないもの勿体ないですし』

 そのことを正直に伝えたところ返ってきたのはそんな言葉だった。


「はい、大丈夫ですので」

 フェリは笑顔を見せながら答える。

「フェリはいつでもシオンお兄さまの傍にいれるようにしたいのよ、ってティアナお姉さまが言ってました」

「リア様!?」

「そうじゃないんですか? リアは聞いてなるほどと思いました」

 小首を傾げるリア。

「……ぁぅぁぅ」

 フェリの顔は茹でだこのようにどんどん赤くなっていく。辺りを彷徨わせていた瞳がシオンとかち合う。

「……そうです」

 か細い声で答えながらフェリはこくんと首を縦に振った。

 

 そんな反応を見せられてシオンの頬も赤く染まっていく。

「あ、ありがとうフェリ。その、これからもよろしくね」

「……はい」

 なんだか甘酸っぱいような雰囲気が室内を包んでいるような気がする。心なしかその一部始終を見ていたニーナさんの視線にも微笑ましさみたいなものがある。

「良かったですね、シオンお兄さま」

 そんな中、爆弾を投下したリアは、いつもと変わらない満面の笑みをシオンに向ける。

「うん、ありがとう」


 それから暫くして、フェリのギルド登録と、Cランク昇格の為に必要な魔物についての情報を得たシオンたちは部屋を後にする。

「ニーナさん、ありがとうございました」

「いえ、すぐに依頼を受ける必要はないと思いますので、魔物の特性を覚えて、落ち着いたら向かうのが良いと思います」

「わかりました」

「じゃあね、ニーナさん」

「はい、リア様もフェリさんも楽しんできてくださいね」

 ニーナさんに見送られながらシオンたちは出口に向かう。昼近くなっていたこともあり、1階にはかなりの冒険者たちで賑わっていた。


「なぁ、レアーネのやつまだ病気が治らないんだろ?」

「ああ、噂じゃどっかの貴族の依頼を断ってから急に体調が悪くなったらしいぜ……」


 そんな声が何処からかシオンの耳に入ってきて思わず足を止めた。

「シオンお兄さま?」

「ごめん、何でもない」

「デートですよデート!」

 リアはシオンとフェリの手を掴むと嬉しそうな笑みを浮かべた。

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