第67話 少年期 試験終了
「終わったねー、長かった」
フェリクスは両手を組み頭上に向けてグッと伸ばす。
「そうですね」
「結果は入学式の3日後までお預けだね。まあ、その様子を見る限り君のSクラス入りは確実そうだけど」
「そうだと良いんですけど……」
「それよりこの後時間ある? 良かったらうちまで遊びに来ないかい?」
「それはっ……」
純粋に誘ってもらえたことは嬉しいが場所を考えると即答できない。かと言って断ってしまうのも申し訳ない。そんな葛藤を察したフェリクスが口を開いた。
「ごめん、ごめん。もっと余裕を持って誘うようにするよ」
「……そうしてもらえると助かります」
「ああ、それじゃあまた3日後に。君と同じクラスになれることを期待しているよ」
「僕もです」
校舎を出たところでフェリクスと別れ、シオンは正門に向かっていく。
『ねぇ、あの子って』
『黒髪だしそうじゃないか?』
『魔法の試験でも凄かったって聞いたけど』
あちこちから飛んでくる好奇の視線にひそひそ話。
慣れそうにない……。居心地の悪さを感じながら進んでいくと、正門近くで見知った顔を見かけた。ラウラ先輩だ。彼女は周りに集まった風紀委員の腕章を付けた生徒たちに指示を出していた。
今日の試験、風紀委員会の人たちが警備をしてくれてたんだよね。シオンはお礼を伝えに彼女たちの方に向かった。
「ラウラ先輩」
「んっ、何だ? 他に聞きたいことがあった……ってシオンじゃないか」
シオンに気づいたラウラは少しだけ口元を緩める。
「お疲れ様です」
「ラウラ、知り合いの子なの?」
大人びた雰囲気の女子生徒が声を上げる。
「ええー可愛い」
その隣では赤い目元が特徴的な女子生徒がシオンと目線を合わせるように屈んでいる。
「結構鍛えられてるな」
一歩後ろに立っているがっしりした体系の男子生徒は、シオンの筋肉を凝視していた。
「ああ、ティアナの弟だ」
「へぇ、君、ティアナの弟なんだ」
「はい」
「髪の毛さらさらー」
「えっ、その……」
「道理でしっかりと鍛えられているわけだ、毎日どんなトレーニングをしている?」
「えっと……」
いっぺんに距離を詰められあたふたしているとラウラがシオンを背中に匿った。
「にじり寄ってくるな、シオンが困ってるだろう。それとお前、何ちゃっかりシオンの髪を触っている!」
「えーいいじゃないですかー、女の子に髪の毛触られて嫌がる男の子なんていませんよー」
「そういう問題じゃない。もしお前が良く知らない男子生徒から髪を触られたらどうする」
「えっ、そんなの二度とふざけた真似ができないぐらいぼこぼこにしますけど?」
即答にラウラが頭を抱える。
「その、ラウラ先輩、僕は気にしていないので……」
「そうか、ありがとう……」
「いえ……」
なんでこの先輩が風紀委員に入れているのかは気になるけど……。
「ところで何か用があったのか?」
「はい、風紀委員の人たちが試験の為の警備をしてくれてたって聞いていたのでお礼を言いに」
シオンはラウラの後ろから出てここにいる風紀委員たちに向かって笑顔を見せながら頭を下げる。
「ありがとうございました。皆さんのおかげで無事に試験を受けられました」
「「「……」」」
風紀委員たちは一斉にラウラを引っ張ってシオンと距離を取っていく。
「ラウラ……、あの子風紀委員会に入れられない?」
「私も賛成です。むしろ私にあの子下さい」
「生徒たちから文句や罵声ばかりかけられ続けて、久々にお礼を言われた」
「いっぺんに喋りかけてくるな、うっとうしい! 私もそうしたいが他にも狙っている委員会がある」
「まあ、そうよね」
「それどこですか? 風紀委員権限で違法行為捏造して潰しましょう」
「ちょっと待て、お前本当に風紀委員か? さっきから発想が犯罪者のそれだぞ!」
小声で会議を進める風紀委員たちをシオンは不思議そうに見つめていた。
「すまない、シオン」
何かしらの解決がなされたのか、ラウラたちがシオンの元に戻ってくる。
「いえ、忙しそうなんで僕はもう行きますね」
お礼をする目標は達成できたし、そろそろティアナ姉さんが迎えにきてくれているかもしれない。
「ねぇ、シオン君。折角だし風紀委員のお仕事見学していかない?」
「えっ!?」
大人びた風紀委員がシオンの右手を掴む。
「そうそう、帰り遅くなっても私が家まで送ってあげるからさー」
「その、迎えが……」
左手側は赤い目元の風紀委員が腕を抱きしめる。
「迎えにきてくれる人には俺から伝えておこう」
がっしりした男子生徒が頷く。シオンは助けを求めるようにラウラに視線を向けた。
「……うぅ」
ラウラは一瞬たじろいだが、フルフルと首を振り正気を保たせる。
「その、折角だし少しだけ見ていかないか? ティアナには私からも言っておくし」
「その必要はないわ」
コツコツと石畳の道を歩く足音が近づいてくる。
「シオン迎えにきたわ、帰りましょう」
「は、はいっ」
ティアナは表情こそ笑顔だが、威圧感が漏れ出ていた。
「ラウラ、シオンを見ててくれてありがとう」
「……気にする必要はない」
ラウラは悔しそうに、ティアナは勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
「そっちの2人もありがとうございました」
「……っ!」
「シオン、いきましょう」
ティアナは当然のようにシオンの手を握るとそのまま正門を抜けていった。
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