第60話 少年期 勝負の行方とスカウト
「二人とも大丈夫!?」
「はい、ティアナ姉さん。ラウラさんが受け止めてくれたので」
「そっか、ラウラありがとね」
「気にしなくていい」
ラウラは薙刀を拾い上げながら答える。
「ティアナお姉さま、これって勝負はどうなるんですか?」
トトトっと近づいてきたリアが尋ねる。
「そうね、これは引き分けじゃない」
審判を務めていたフェリも同意するように首を縦に振る。
「私も引き分けかと」
「いや」
ラウラが割るように言葉を紡ぐ。
「私の負けだ」
ラウラはそう言うとシオンの前でしゃがみ込み視線を合わせる。
「年下の子に負けたのは初めてだ。私もまだまだだと思い知らされたよ。戦ってくれてありがとう、シオン」
「こちらこそ、ありがとうございました。ラウラ先輩」
「う、うむ」
嬉しそうな笑みを浮かべたシオンの顔を見てラウラは僅かに言葉を詰まらせる。その様子に仲のいい2人が気づかないわけがない。
「な、なんだ、2人とも」
「ふふふー」
「……やっぱり2人を招待したのは失敗だったかも」
ローザは楽しそうな笑い声をあげ、ティアナは小さく呟いていた。
「シオン」
勝負も終わり、シオンたちは全員で庭のテーブルを囲ってお茶を嗜んでいたところ、お花を摘みにティアナが席を外したのを見計らってラウラが声を上げた。時間が経ったおかげか赤くなっていた顔はいつも通りに戻っている。
「風紀委員会に興味はないか?」
「ちょっとラウラいいの?」
「問題ないだろう、大事なのは本人の気持ちのはずだ」
ローザの言葉にラウラが反論する。
「風紀委員会、ですか?」
学院には幾つかの委員会が存在しており、それぞれが異なった権限を持っていると聞いている。
「そうだ、学院内の見回りや、学院祭時の警護など大変なこともあるが、その分先生たちからの評価も上がるし、生徒たちからも一目置かれる。何より場合によっては実力行使で相手を止めないといけないこともあるから、実力を持っている者が入ってきてくれるとありがたいんだ」
「でも委員会に入るには試験とかがあるんですよね?」
「ティアナから聞いているのか?」
「はい」
「確かに委員会に入りたい場合、各委員会毎、決められた試験に合格した者のみが入ることが許されている」
ラウラが続ける。
「試験資格は1年~3年までの生徒のみで、4年生以上は受けることができない。試験内容はその代の委員長が決めることができるから、委員会によっては毎年内容が変わるなんてこともありうる」
「合格できる人数はどうなんですか?」
「それも委員会によってまちまちだ、基準を超えていれば全員合格させるところもあるし、既定の人数を決めているところもある。風紀委員会は基準を超えれば全員取るようにしているがな」
「そうなんですね」
「で、どうだ? 興味はないか?」
「気にはなりますが……」
シオンの返答にラウラが瞳をきらりと光らせる。
「そうか! 実は私は副委員長でね、1人だけなら推薦で入れられる権限を持っているんだ。どうだ、一緒にこれから風紀委員として頑張っていかないか? い、今なら私が手取り足取り教えて……」
「ちょっとラウラ! どういうつもり!?」
ラウラの言葉を遮るようにティアナが声を上げた。
「どういうつもりもそのままの意味だ。私よりも強い1年生が目の前にいるんだ。スカウトしないわけがないだろう」
「駄目です」
「なぜお前が断る?」
「シオンには先約があるので」
「そうなのか? シオン」
「えっと……」
シオンは瞳をラウラとティアナの間で彷徨わせる。
「そうですよー、シオン君は私たち美化委員会に入るのでー」
「そうそう、美化委員会に……って違う! ローザ!」
「だって、うちにも入って欲しいなーって思って。シオン君、どうかな? 花壇の手入れとかで手伝ってくれる男の子がいると助かるんだけどなー」
それに、とローザがすすっとシオンの横まで移動してくる。
「今うちの委員会は女の子だけだからシオン君が入ったらハーレムだよー」
「……っ!?」
耳元で囁かれ、シオンは耳を抑えながらばっと距離を取った。
「耳が赤くなってるー、やっぱりシオン君は可愛いねー」
「ローザ何言ったの!?」
ティアナがシオンを背中に隠しながら声を荒げる。
「変なことは言ってないよ、ただシオン君が入ってくれたらハーレムだよーって」
「どんな勧誘よっ!」
「だって男の人はそう言うの好きなんでしょ?」
「くっ、うちは半数以上男子だからな……」
あっけらかんと答えるローザに、悔しそうに唇を噛みしめるラウラ。
「どっちにしても駄目だから、シオンは私と同じ生徒会に入るんだから! ねー、シオン。お姉ちゃんと一緒がいいよね?」
ティアナはそう言うとシオンを後ろから抱きしめ、2人を視線で威嚇する。
「いや……」
「姉だからって本人の意見を聞かないのは横暴じゃないか?」
「うちは委員会に入らなくてもたまに遊びにきてくれるならそれでもいいよー」
「その……」
シオン本人をそっちのけで議論はどんどん進んでいく。
「シオン様、紅茶のお代わりです」
そっとフェリがシオンの前に紅茶を注ぐ。
「ありがとう」
「いえ」
「シオンお兄さま」
「どうしたのリア?」
「リアはあんまり遅くならない委員会なら許します」
「あっ、はい」
結局3人の話し合いは平行線を辿り、実際にシオンに1日ずつ体験してもらって何処が良いか選ぶことに決まっていた。
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