第57話 少年期 姉の友人
「怪我はない? 体調は大丈夫なの?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。ミヒャエルから貰った手紙でティアナも『銀亭』の件を既に知っていたのだ。
「大丈夫です。ティアナ姉さん」
「ほんと無事でよかった」
ティアナは最後にぎゅっと抱きしめてから手を離す。
「心配かけてごめんなさい」
「いいよ。シオンも無事だったし、リアを助けてくれたから今回だけは大目に見てあげる」
しょうがないという様にティアナは笑顔を見せ、その視線を3人に移した。
「リアもフェリもいらっしゃい。それとあなたがニーナさんですよね?」
「はい、シオン様の専属担当をさせていただいてます。ニーナと申します」
ニーナはそう言って一礼する。
「いつも弟がお世話になってます、これからもシオンのサポート宜しくお願いしますね」
「はい」
ティアナは暫くニーナをじっと見つめたあと、満足そうに頷いた。
「ティアナ!」
「待ってくださーい」
シオンたちが顔を向けると、道の向こうからこちらに走ってきている2人の女学生が見えた。
「あっ!」
ティアナが思い出したように声を上げる。
「急に走り出したから何事かと思ったら、そういうことか」
先にシオンたちのところまで辿り着いた女生徒は切れ長の瞳でシオンを一瞥した。
「ごめん、うちの前で馬車が止まってるのが見えたから、つい」
「全く」
彼女がやれやれと首を振ると黒髪のポニーテールがゆらゆらと揺れた。
「はぁ、はぁ、やっと追いつきました」
遅れてもう一人の女生徒もやってきた。栗毛色の髪の少女は手を膝につけながら荒い息を繰り返す。かなり苦しそうだ。
「あの、大丈夫ですか? よかったらこれ」
「いいの? ありがとう」
女生徒はにこやかな表情を作ると、シオンから差し出された飲み物を受け取って口に含む。発汗して上気した頬。ただ水を飲んでいるだけなのになまめかしい。シオンがそっと視線を逸らすとジト目をしたティアナとかち合った。
「シオン、お姉ちゃんにはお水くれないのにローザにはあげるんだー」
「そんなタイミングなかった気が……」
「ふーん、口答えするんだ。手紙を貰ってずっと心配してたお姉ちゃんをないがしろにするんだ」
「そんなつもりは……」
「あーあ、お姉ちゃん悲しいなー、これはもう……」
「やめてやれ」
「いてっ」
ポニーテールの女生徒がティアナの頭に軽く手刀を入れる。
「ちょっとラウラ、叩かなくてもいいじゃない」
「どう考えてもお前が悪いから止めたまでだ。全く」
やれやれとポニーテールの女生徒は頭に手を当てた。
「その、ありがとうございます」
「気にするな。それよりティアナ、いい加減紹介してもらえるか?」
「うんうん、私も紹介して欲しいなー」
栗毛色の女生徒がそう言ってシオンに飲み物を返すと、そのまま流れるようにシオンの後ろに回り込んで後ろから優しく抱きしめる。
「えっ?」
あまりに自然な動きで反応が遅れてしまう。
「ふふふー」
「ちょっとローザ! なにうちのシオンに勝手に抱き着いてるのっ⁉」
「えー、だって可愛いなーって思って」
「か、かわっ⁉」
可愛いと言われてシオンの頬に朱が差す。
「あー、赤くなってるー。やっぱり可愛いー」
「確かに、可愛い……ってそうじゃなくて、紹介するから離れなさい!」
ティアナはシオンをローザから奪い取るとリアとフェリの間に移動させる。
「改めて、この子が私の弟のシオン。今年から学院の1年生になるわ。その隣が妹のリアで、シオンの専属使用人のフェリとギルドの専属担当のニーナさん」
「もうギルドの専属担当がついているのか」
「うちの弟は優秀だからね」
ティアナが自分のことのように胸を張る。
「いや、お前が威張るところじゃないだろう……」
ポニーテールの女生徒がつっこむもティアナは無視して続ける。
「それでこっちが私の同級生で友人のラウラとローザ」
「ラウラ・ファーナーだ。よろしく頼む」
ポニーテールの女生徒がそう言って軽く頭を下げる。モデルのようなスレンダーな体系に切れ長の瞳。可愛い系と言うよりは綺麗系だろう。肩には紫の布で覆われた細長い棒のようなものを背負っていて、さっき走ってきた時に全く息が切れていなかったところから、何か武術をやっていそうだ。
「ローザ・ライストです。シオン君よろしくねー」
栗毛色の髪をした女生徒はシオンに向かってフリフリと手を振る。女性らしい体つきにたれ目がちな目。口調からもふんわりとした雰囲気を感じるけど、さっき後ろを取られたように、どこか掴みどころがないような印象を受ける。
「宜しくお願いします。ラウラ先輩、ローザ先輩」
「ああ」
「ふふっ可愛い後輩君ができちゃった」
「そうだ、よかったら二人とも寄ってかない?」
「よるよるー」
ティアナの提案にローザは乗り気な返事。
「折角の招待だが私は……」
「鍛錬でしょ、だったらシオンと模擬試合してみたら?」
「えっ?」
「ほう?」
シオンとラウラの声が重なる。
「気になるんでしょ?」
「……それならご相伴に預からせてもらおうかな」
「じゃあ皆どうぞ入って」
ティアナを先頭に先輩たち二人が屋敷に入っていく。
「シオンお兄さま、私たちも入りましょう」
一拍遅れてリアがシオンの手を握り屋敷の方に歩き出す。
「ねぇ、リア、もしかして怒ってる?」
「そんなことありません」
そう答えながらもリアの頬はぷくっ膨らんでいる。機嫌が悪いときのサインだ。
一方、反対側にいるフェリもチラチラと視線をシオンの方に向けてきていた。
「フェリ?」
「な、何でもないです」
声をかけるとフェリはすっと視線を外してしまう。そう言えば、ローゼンベルクの屋敷でリアが言ってきた一件から前より目が合わなくなっているような……。もしかして嫌われた?
どうしたらいいかとおろおろしているシオンの様子を、ニーナは最後方から興味深そうに眺めていた。
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