第56話 少年期 再会
「ラルフ侯爵様、王都では今も獣人やハーフエルフへの差別はあるんですか?」
シオンは気になっていたことを尋ねる。
「ラルフで構いませんよ。そう言えば、ローゼンベルクではそう言った差別はほとんどないんでしたね」
「はい」
「実に美しい光景ですね。そうですね、あるかないかと問われれば答えはあるになりますね。未だに人間至上主義をうたっている愚かな貴族も大勢いますから」
「そうですか……」
「ですが、一昔前に比べれば圧倒的に良くなっていると言えるでしょう。君ならわかると思いますが、差別のような根の深い問題はすぐに全て解決という様には行きません。表面上は綺麗に見えることもあるでしょうが、地中深くに根付いた源を取りつくすには相応の時間が必要になるのですよ。たとえ、この国のトップであるグロファイガー王家が差別禁止のお触れを出したとしてもね」
「はい」
神妙な面持ちでシオンは頷く。
「しかし、やはり君は面白いね」
ラルフは興味深そうにシオンを隅々まで観察する。
「綺麗な黒髪だ」
「ありがとう、ございます」
「君自身はあまり気に入っていないようですが」
「それは……」
「口にしなくて大丈夫ですよ。少し踏み込んだことを聞きましたね。失礼」
「いえ、そんな」
「さて、そろそろお開きにしましょう。君は明日も早いでしょうし」
シオンが柱時計に目を向けると、時刻はまもなく夜の11時を回ろうとしていた。ラルフが手を叩くと、すぐさま使用人が駆けつける。
「彼を寝室に案内してくれるかい?」
「承知いたしました」
「シオンの連れの子達は?」
「皆様既に寝室に入られております」
「安眠できているようで何よりだ」
「はい」
使用人は恭しく主人に一礼する。
「ありがとう、シオン。楽しい時間だったよ」
ラルフが席を立つのに合わせてシオンも立ち上がる。
「とんでもないです! ありがとうございます」
「気にすることはありません。学院での活躍を期待していますよ。ではまた」
広間を悠然と出て行くラルフをシオンは頭を下げながら見送った。
一夜明けた朝、シオンたちはラルフ侯爵の屋敷を後に一路、王都に向けて出発していた。
どうしようこれ……
シオンは屋敷を出るときに使用人から渡された革製の袋を見つめていた。自分の見間違いであることを祈って再度中を確認するも、残念ながらそこにはびっしりと大金貨が入っている。少なくとも100枚はくだらないだろう。
この世界の貨幣制度は、大金貨、金貨、銀貨、銅貨があり、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚となっている。その上に白金貨というものも存在しているが、それは大貴族や大商人、王族などの一部でのみ使用されているものであまり関わりがない。
大金貨1枚あればひと月は余裕で生活できると言われている大金貨が100枚以上。もちろん渡されそうになったタイミングでシオンはかなり丁重に固辞したが、使用人の「受け取って頂けなければ私はクビにされてしまいます」と言う泣き落とし作戦に負けて受け取ることになってしまっていた。なお、その際に「返す必要はない」、「君が必要だと思ったことに使うように」とラルフ侯爵の伝言で念を押されてしまっているため、余計シオンの頭を悩ませることになっていた。
ひとまずは屋敷で保管して置くことにしよう。うんそれがいい。
「シオン様、まもなく王都に到着します」
「わかった」
フェリの言葉を受け窓を開け首をのぞかせると、城壁に囲まれた都市が見えてきていた。
「すごいです! 壁が街を囲んでます!」
シオンの下の方からひょっこり顔を出したリアが驚きの声を上げる。
正門で身元の確認を受け、確認が取れたところで鉄製の大きな門ゆっくりと開いていく。
「ようこそ王都ハンベルクへ」
門番に礼を伝えて通り抜けると、活気ある街が広がっていた。
ローゼンベルクの街も大きいと思っていたが、王都はそれ以上だった。レンガ調の石畳で舗装された道がまっすぐに伸び、左右にはいくつもの店が並んでいる。店の前には大勢の人々が立ち並び、制服を着た若い人たちの姿も見える。
「お兄さま! 人がいっぱいですね」
「うん、凄い人の数だね」
「シオン様たちは王都にきたことがなかったんでしたっけ?」
フェリの質問に二人は頷く。
「じゃあ、建国祭とか驚きますよ。地面が見えないぐらい人が集まりますから。ねっ、ニーナさん」
「そうですね、……凄いですよ」
「お兄さま、楽しみですね!」
「はぐれないようにしないとね」
そんな話をしていると、馬車は賑やかだった大通りを抜けて閑静な通りを進み始める。お店などはなく、何処かの貴族の屋敷か別邸がずらりと並んでいた。周りに見られることを意識した造りになっているせいか、個性的な庭だったり、一風変わった建築様式だったりと窓から眺めているだけでも案外楽しめた。
「シオン様、到着しました」
御者が声をかけ扉を開く。ここが王都の別邸。ローゼンベルクよりも小さいが、それでもかなり大きいし、庭も手入れが行き届いているように見える。これから6年間ここでお世話になるのか。
「シオンっ!」
そんなことを想って別邸を眺めていたところ、聞き慣れた声と共に近づいてくる足音。前にもそんなことがあったと思いつつ、声のした方を向けた次の瞬間。
「わぷっ!」
シオンは顔を胸に押し当てられるように抱きしめられていた。
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