第45話 少年期 救出作戦

 ミヒャエルが庭に出ると既に20名ほどの騎士たちが馬に跨り整列していた。

「指示さえあればいつでも出発できる状態になっております。その他30名ほどがあと10分程度で、1時間あればもう50名ほど集まるかと」

 ミヒャエルに気づいたアルベルトが近くにきて状況を簡潔に説明する。長年使えているだけあってアルベルトの様子に焦りやイラつきなどは見えない。


「……わかった。リアの様子は?」

「自室で休ませております。エマも傍におりますので問題ございません」

「そうか」

 リアが受けたショックは相当なはずだ。

「早くいつも通りに戻れるよう気を配ってやってくれ」

「承知いたしました」


 ミヒャエルは庭に揃った騎士たちに視線を向ける。最低限の情報は既にアルベルトから伝えられていることも合って、彼らの表情は義憤に満ちていた。

「これからシオン、ゲオルグの救出に向かう。賊は1人残らず討伐する」

 決して大きな声ではないが、ミヒャエルの声は庭中に響いた。

「4人1組でチームを作る。1隊は僕についてもらい、残りの4つの隊はこれから指示する街に向かい警備隊を使って検問を開いてくれ」

「「「はっ!」」」


 ミヒャエルにつく隊以外はすぐさま出発していく。

「アルベルト残りの騎士たちがきたら20名ほどは屋敷の警備に当てて、残りの騎士たちは複数人でオーデンヴァルトの森に行くように差配してくれ」

「かしこまりました」

「ミヒャエル様、我々はいかがいたしますか。 やはりオーデンヴァルトの森へ?」

「いや、その前に向かいたいところがある」

 ミヒャエルはアルベルトが用意した馬に跨る。


「ミヒャエル様!」

 馬の腹を蹴って進もうとしたところ、素早い動きで白狼族の少女が馬の前で膝をついた。シオンの専属使用人になったフェリだ。

「ミヒャエル様、私もシオン様の救出に連れて行ってください!」

 フェリは顔を上げてはっきりと口にした。

「申し訳ないけど足手まといになるような人は……」

「私は白狼族です。シオン様の近くに辿り着ければ匂いで居場所を追えます」

「……」

 2人の視線が交錯する。

「相手は盗賊だよ、襲われる可能性もあるし、場合によっては殺す必要があるかもしれない」

「覚悟の上です」

 フェリは一度も視線を外すことなく覚悟を持った瞳で頷く。


「ミヒャエル様、お願いします」

「……」

「……」

「……馬は乗れる?」

 フェリはばっと顔を上げるとぶんぶんと首を縦に振る。

「アルベルト、もう一頭馬を用意してくれる?」

「すぐに」

「ミヒャエル様、連れて行くのですか?」

 控えていた騎士が驚きの声を上げる。人より身体能力が高い白狼族とは言っても戦闘訓練を行っているわけではない少女だ。戦闘で役に立つとは思えない。

「シオンの匂いを追えるのは大きい。負担をかけて申し訳ないが、可能な限り彼女を守ってあげてほしい」

「はっ」

 騎士はそれ以上何も言わず頷いた。


「ミヒャエル様」

 馬に跨ったフェリがミヒャエルの横につく。

「……いこう、まずはギルドに向かう」

 ミヒャエルが進みだし、フェリ、騎士がそれに続く。

「皆様、ご武運を」

 アルベルトは屋敷の前で彼を見送ると、後からやってくる騎士たちの為の準備に動き出した。


「おや、珍しいお客人だね。それも2人」

 ギルドの一室。ミヒャエルを見るなりギルド長のグレナは白くとがった犬歯を見せた。

「後ろの子は白狼族かい?」

「っ! はいっ、フェリと申します」

 フェリはやや声を震わせながら答える。

「そんなビビらなくていい、別に取って食ったりしないよ。それで何の用だ?」

「……知恵を貸して欲しい」

 ミヒャエルはそう言って頭を下げた。よっぽど珍しいのかグレナが瞳を大きく見開く。同じく予想外のことで呆気に取られていたフェリも慌てて頭を下げた。

「どうやら急を要する事態のようだね」

 グレナはキセルを口に加えた。


「なるほどね」

 ミヒャエルから状況を聞いたグレナは煙を吐きながら灰皿に灰を落とす。

「『銀亭』についてはある程度調べがついてる。ニーナ、そこにいるんだろ? 悪いが資料を持ってきてくれ」

 グレナは扉の向こうに声をかける。すると、扉が開きお盆にお茶を載せたハーフエルフが入ってきた。

「申し訳ありません、盗み聞きするつもりは……」

「わかってる、2人ともこの子はシオンの専属担当のニーナだ。口は堅いし信用してくれ」

「……喋らないなら問題ない」

「はい」

「すぐに資料お持ちします」

 ニーナはお茶をテーブルに置くと、すぐさま資料を持って戻ってきた。グレナは資料の中から必要そうなものだけを抜き取りミヒャエルの前に置く。


「始めの頃の『銀亭』は主に商家や、位の低い貴族たちの家を襲って金目の物を盗む集団だった。と言ってもそれなりに失敗も多く逆に警備の兵に返り討ちにされるようなことも多かったみたいだな」


 ミヒャエルは渡された資料に目を通しながらグレナの言葉に耳を傾ける。

「それが4、5年前ある男がリーダーになったことで『銀亭』は急成長を遂げ始める。最近じゃ質の悪い貴族たちとの繋がりもあるなんて噂もあるみたいだ」


 グレナは1枚の写真をミヒャエルの方に投げる。写っているのは腰にダガーを差した10代後半ぐらいの目つきの悪い若い青年だった。

「こいつが……」

 グレナは「ああ」と相槌を打つ。

「7年前、17歳でBランクまで上り詰め、神童と言われた元冒険者であり、今の『銀亭』のリーダー、『ギース・ロッド』だ」

 


 

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