第42話 少年期 足止め
ミヒャエル兄さんが言っていたようにイメージを大事に。集中するシオンの周りには無数の氷の矢が出来上がっていく。
「はぁぁぁぁぁ!」
掛け声と共に追手に向ってそれらを一気に放つ。
「魔法だ! 避けろ!」
「おい邪魔だ! どけ!」
「うるせぇ、馬鹿野郎!」
賊たちは左右の森の中へ退避していくが、道の中央にいた3、4人の賊は逃げ切れず肩や足に被弾して地べたに倒れこむ。
「いてぇ!」
「ぐぁぁぁ!」
「あのガキ、あんな魔法が使えるとか聞いてないぞ!」
「おい、ビビってんな。魔法が使えるって言っても相手はガキ1人だぞ!」
「そうだ! 距離さえ詰めちまえば……」
指揮を取ろうとしていた賊の声が止まる。
「……霧?」
「どうなってんだよ! さっきまでそんな気配なかっただろ!」
「まさかあのガキが出してんのか?」
「あんなガキがこんな広範囲に魔法使えるわけないだろっ!」
「じゃあなんで急に霧が出てんだよっ!」
突如発生した霧によって追手たちは混乱し完全に足が止まる。その間にも霧は濃度を上げ、瞬く間に1m先すら見えないほどの濃霧になっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息を繰り返しながらシオンは額から溢れ出る汗を拭う。これで少し時間を稼げた。でもまだ足りない。シオンは尚も魔法を使い道をふさぐように地面を隆起させる。これで奴らは追いかけるのに濃霧の森の中を進まなくちゃいけなくなるはずだ。
体から血の気が引いていくような感覚がするが、それでも止まるわけにはいかない。目を瞑り耳を澄まし賊たちの声のする方向を探る。
「一体どうなってんだよ!」
そこだ! 声のする方に向けて氷の球を複数放つ。当てらなくてもいい。大事なのは奴らに声を出したら攻撃がくると思わせること。連携が取れなくなれば前に出にくくなるはず。シオンはふらつく足で踏ん張りながら声の聞こえた方向に向かって氷の球を放ち続けた。
「……あぁ? 霧か?」
先を行く部下たちを追いかけていたギースの前に突如として濃霧が現れた。さっきまでの天候を考える限り自然発生したとは考えにくい。まさかもう1人の騎士がやったのか? だとするとかなり面倒になってきた。速度を落としながらも進んでいくギースの前に人影が見えてくる。先に追っていたはずの部下たちだった。
「ギース!」
先を追わせた奴らのまとめ役としてつけていた銀亭のナンバー2が声を上げた。その途端氷の球が飛んできて、ギースは軽やかにかわして木の後ろに隠れる。避けられなかった部下の一人が悲鳴を上げてのたうち回る。
「お前ら何でここにいる?」
「追ってる途中でガキが1人足止めしてきたんだ。そしたら急に霧が出てきて全然先が見えないんだよ! 周りと連携しようにも声を上げた途端氷の球が飛んできちまってどうにもできねぇんだよ」
「ガキだと?」
ギースの眉がぴくりと動いた。じゃあこの濃霧もさっきの氷の球もあいつがやってるのか? 湖でみた10代前半ぐらいの黒髪が? 護衛の騎士でなく?
「ああ、どうするこのままじゃ対象に逃げられちまう」
「おい、何分足止め食らった?」
「えっ?」
「いいからとっとと答えろ」
「……多分10分ぐらいだ」
もしこいつらが言っていた通りガキ1人で足止めしてるんだったら、森の中で追いつくことはもう不可能だ。後は街に着くまでの間に追いついて掻っ攫うしかなくなったか。
その刹那、上空で強力な破裂音が鳴り響いた。
バァァン!!!
ギースは耳を塞ぎ瞬時に地べたに伏せた。今のもあのガキか? 濃霧のせいでわかりにくいが上空でなにかがキラキラと光っている。攻撃的なものではないようであくまでも上空でキラキラと光って消えていく。
「なんだよ、あれはよっ!」
「でかい声を出すな」
上手くいかないフラストレーションから声を荒げた男に案の定氷の球が飛んできてその一発が肩に被弾する。
「いってぇ! あのクソガキが」
男は肩を抑えながら奥歯をぎりぎりと噛みしめる。
「……ああ」
終わったな。ギースは心の中で呟く。あの光と音は間違いなく街の衛兵たちにも届いている。あれだけの異変だ。すぐに何人かが確認しに来る。無理やり攫う方法もできなくはないだろうがリスクが高すぎる。これは依頼を達成できそうにねぇな。
貴族からの依頼の失敗が判明したというのにギースに悲壮感はない。
「おい、逃げる準備をしろ」
「はぁ! ギース何言ってんだよ!」
「この依頼は失敗だ。衛兵たちがくる前にとっととずらかるぞ」
「ガキ1人に足止めされて逃げろっていうのかよ!」
「そのガキ1人に足止めされてた無能はどいつだ?」
淡々とギースが告げる。
「だとしても貴族からの依頼を失敗したとなりゃ……」
ナンバー2の男は顔を青くさせていく。そんな様子にギースは明らかに侮蔑の視線を向けた。
「そんなものこの国から出ちまえば問題ない」
「この国をでる? だとしても金がねぇだろ」
「ああ、だが金になりそうなのが丁度近くにいるじゃねぇか」
ギースは濃霧の先を見つめニヤリと笑みを浮かべた。
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