第34話 少年期 ゴブリン討伐

「これでホーンラビットの討伐は達成だな」

 ブルーノはシオンが最後の1匹の角を剥ぎ取り終えたのを確認して口を開いた。

「はい、10本集めました」

「ああ、よくやった! 依頼報告時にギルドに提出するから無くすなよ」

 

 まだ昼を少し過ぎたあたりで10匹のホーンラビットの討伐完了か。ブルーノはシオンを見つめた。一番最初に見つけたのと1匹剥ぎ取りの仕方を教えるために手伝った以外は全て1人で対応させた。新人が初めてホーンラビットの討伐をした場合、ベテランのフォローが合っても半数以上は1日かかる。

 それを半日でフォローもほとんどなしで達成か。

 既にずっと鍛錬をしてきていたから戦闘事態に不安はなかったが、それでもここまで早く終えるのは予想外だった。それでいてシオンはまだ12歳になったばかり。背丈も150㎝ぐらいで体格も華奢。顔もあどけなさが残っているぐらいだ。それでこの実力、我が自慢の弟ながら末恐ろしいな。


「ブルーノ兄さん?」

「んっ? ああ、悪いちょっと考え事しててな。じゃあゴブリン討伐に進もうと思うがその前に休憩とっとくか?」

「いえ、大丈夫です!」

「わかった、もし疲れたとかあったら必ず言うように」

「わかりました」

「うし」

 見る限り疲れているのに無理言ってる訳じゃなさそうだな。二人はゴブリンの討伐に向けて街道を歩き出した。


 ここまでは順調だ。シオンはほっと胸を撫で下ろしていた。勿論そんな中でも周囲の警戒は忘れていない。次はゴブリンか。Eランク昇格に必要な魔物。体躯は人間の子供ぐらいの大きさのものがほとんどで腕力も魔力も高くない。ただ、気を付けなくちゃいけないのは彼らには知性があることと、複数人のグループで行動している点だ。知性を生かして木の棒を尖らせたものを武器にしたり、石ころを放ってきたりと道具を使って攻撃してくる。さらに戦いなれている集団だと多対1のような状況を作るようにしているらしい。最も、そう言った集団戦ができるのはゴブリンの群れの中に上位種がいるときだけで、尚且つ依頼もDランクからしか受けられないようになるらしいので今回の討伐ではそれはあり得ない。


 ブルーノが足を止める。

「いたぞ」

 指さす先に視線を向けると、5匹のゴブリンが獲物を探して動き回っていた。緑色の肌に丸い鼻。腰には腰布が巻かれ、手には木の棒だったり手のひら大の石だったりと武器を持っているのが伺える。

「シオン、今回は俺が見本を見せる。後ろで確認しておくように」

「わかりました」

 シオンは頷き、ブルーノの一挙手一投足に意識を集中させる。

「よっしゃ、行くぞ!」

 ブルーノは地面を力強く蹴りだし一息にゴブリンたちに接敵ると、腰に携えた剣を一閃する。範囲内にいた2匹のゴブリンの首がぽとりと落ちる。状況に気づいたゴブリンたちが反撃しようと武器を構えようとするが、それよりも早くブルーノは再び剣を振るう。

「はぁ!」

 木の棒で受けようとしたゴブリンは木の棒ごと真っ二つになる。残り2匹となったゴブリンたちは何かを喋り1匹がブルーノの前に立ち、もう1匹はわき目を振らず一目散にこの場から逃げようとする。

「ゴブリンはピンチになると仲間を呼びに行く場合があるから気を付けるように」

 ブルーノは焦る様子もなく残ったゴブリンを難なく倒すと、逃げていくゴブリンに向かって手をかざし火球を飛ばす。

「ギャァァァァ!」

 火球が当たったゴブリンは火だるまになり、断末魔を上げながらその場を転がりまわったのち、動かなくなった。


「すごい……」

 シオンは思わず声を上げた。時間にして2分もかかっていない。動きに無駄がなくまるで舞っているかのようにすら思えた。

「とまあ、こんな感じだな」

 ブルーノは剣を肩に担ぎながらシオンに向き直る。

「ポイントは可能であるなら複数体をまとめて倒すことと、増援を呼ばせないことだ」

「はい!」

 シオンの尊敬の眼差しを感じて、ブルーノは明らかに気分が上がっていた。

「それとゴブリンの討伐の証は耳になるからな」

「わかりました」

「なら次はシオンに戦ってもらおうか、シオンの実力ならゴブリンも大丈夫だと思うけど、ホーンラビットよりは数段強いから慢心しないようにな」

「はい!」

 シオンは頷きながら返事をする。


「ギャァァァァ!」

 そんな二人の後ろ、小さな林から叫び声が聞こえてきた。すぐさま振り返ると、そこには1匹のゴブリンが立っていた。何となくだがさっきのゴブリンたちよりも若いように見える。ゴブリンは倒れている仲間の方に近づき既にこと切れていることに気づくと、ぐるりと顔をこちらに向けた。

「グギャァァ!」

 瞳には明らかに怒りで燃えていて、シオンは怯みそうになるのを必死でこらえる。

「シオン、いけるか?」

「……大丈夫です、いけます」

「そうか、なら任せた」

「はい!」

 怒りに震えたゴブリンと対峙する。

「ふぅ」

 シオンは息を吐きながら剣を構えた。

 

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る