第33話 少年期 ホーンラビットとの戦闘

「まず最初はホーンラビットの討伐からいくぞ。特徴は知っているか」

 街道を進みながらブルーノが尋ねる。

「はい」

 シオンは昨日ニーナに教えて貰ったことを思い出す。

『ホーンラビットはその名の通り兎に角が生えた小型の魔物です。2、3匹の群れで行動し、変異種のようなものでない限り魔法は使うことはありません。なので基本的な攻撃方法は角を使った突進になります』

「どう戦うか考えてるか?」

「えっと、角での突進攻撃以外ないらしいので、身体強化でスピードを上げて側面か後ろに回って剣で攻撃するか、遠距離から魔法で狙おうと思ってます」

 ブルーノは頷く。

「大丈夫そうだな。ただホーンラビットは少数の群れで行動していることが多い。一一匹だけに気を取られ過ぎないようにな」

「わかりました」

「よし、ちょうどホーンラビットも見つかったことだし早速やってみるか?」

 ブルーノが見つめる先には3匹のホーンラビットが草の上で野イチゴを食べていた。


 ホーンラビットは聞いていた通りただの角が生えているだけの兎だった。3匹が野イチゴを美味しそうに食べている様子は魔物といった感じがしない。ペットとして飼っている人がいても納得してしまうぐらい普通な生き物にみえる。

「こんな可愛い生き物討伐する必要があるのかって思っているだろ」

「えっ⁉」

 心の中を見透かされシオンは思わず声を上げた。

「顔に出てたぞ」

 ブルーノはにやにやと笑う。

「確かにホーンラビットの見た目は可愛いかもしれないが、それでもれっきとした魔物で、討伐しなくちゃいけない魔物だ。理由は特徴を教えて貰った時にギルドで聞いているだろ?」

「ホーンラビットは繁殖力が高く放っておくとあっという間に数を増やしてしまうと」

「数百、数千になったらこのあたりの草や実は食べつくされちまうし、角でしか攻撃できない魔物でも女性や子供、老人が遭遇したら大怪我する場合だってある。それにホーンラビットが大量にいたらそれを餌にする肉食の魔物たちが集まってきちまう。そうなったら大変だろ?」

「そうですね」

 ホーンラビットを餌にするような魔物たちが集まってきたら間違いなく様々な問題が出てくることは想像に難くない。

「だから可愛いからって見逃すなんてことは考えないように。どんな見た目でも魔物は魔物だ。俺らが討伐しなきゃいけない対象でしかないことを覚えておくように」

「わかりました」

 シオンは深く頷く。

「よしっ、じゃあシオンあいつらを討伐してこい。最初は俺が見本を見せようと思っていたけど、倒し方も考えてるみたいだし大丈夫だろ」

「はい!」

 シオンは深呼吸をして腰に携えた剣に手をかける。


 シオンは少しづつホーンラビットに近づいていく。その距離は5mほど。ホーンラビットたちは目の前の野イチゴに夢中のままで、近づいてきているシオンに注意がいっていない。仕掛けるなら今!

 シオンは自身に身体強化の魔法を施し、剣を抜いて地面を駆ける。

「っ!」

 ようやく一匹のホーンラビットが異変に気付き顔を上げたがその時には既にシオンの間合いに入ってしまっていた。

「はぁ!」

 シオンは剣を薙ぐ。肉を断つ感覚と共にホーンラビットが横にぱたりと倒れ動かなくなる。まず1匹。シオンはすぐさま残りの2匹を捉え距離を縮める。仲間をやられ怒ったホーンラビットは角をシオンに向け突っ込んでくる。直線的な動きの為よけるのは容易い。シオンは落ち着いて突進をかわしながら剣を振る。小さな鳴き声と共に2匹目も倒れた。

「シオン、きてるぞ!」

「はい!」

 ブルーノの声に応じながらシオンは最後の1匹の突進も軽やかに避け後ろに回り込んで剣を振った。


「上出来だな。俺が声をかける前に最後の1匹の突進にも気付いていたみたいだし」

 あたりに倒れているホーンラビットを見ながらブルーノが手を叩く。

「ありがとうございます!」

 上手く行ったことにシオンはほっと胸を撫で下ろす。

「じゃあ剥ぎ取るぞ、まずは手本を見せる」

 ブルーノは慣れた手つきでホーンラビットの角を剥ぎ取る。

「討伐依頼は討伐の証明が必要になる。ホーンラビットは角だな。後の2匹はシオンがやってみろ」

「わかりました」

 シオンはブルーノに指示されながら角を剥ぎ取っていった。


「よし、こっちも初めてにしては充分だろ。後は慣れだな」

「はい……」

 初めての解体にシオンの顔色は少し悪くなっていた。

「ちょっと休憩するか」

 ブルーノはシオンの頭をぽんと叩いて街道傍にあった岩に腰かける。

「どうだ、初めて魔物を討伐した気分は、ほら」

「ありがとうございます。……あんまり良くはないです」

 シオンはブルーノから渡された水筒の水を一口飲んだ。

 魔物とはいえ生き物を殺めたのだ。手に残った感触も気持ちいいと思えるようなものではない。

「それでいい」

 ブルーノは優しい口調で語りかける。

「俺たちは街や市民を守るために魔物を討伐している。それは俺たちが生きていく上で必要だからだ。けどな、魔物だろうとそのために生き物を殺めていることに変わりはないんだ。魔物を討伐するうちにどうしても慣れはでてきちまう。けどな、お前が初めての討伐で感じたその気持ちを忘れないようにしろよ」

「はい」

 シオンは神妙な面持ちで深く頷いた。

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