第32話 少年期 初めての依頼受注
ギルドで冒険者登録をしてから一週間が過ぎ、シオンにとって待ちに待った日がやってきた。
「それじゃあ行くか」
「はい!」
ブルーノの声にシオンは元気よく返事をした。
「ミヒャエル、お前ほんとに行かないのか?」
「……パス、昨日シオンの付き添いでギルド行ったから。二日続けてあんな所にはいけない」
ミヒャエルは思い出したのかげんなりとした表情を見せた。昨日シオンの付き添いでギルドを訪れたミヒャエルは、シオンが二階の部屋でニーナからこの辺の地形や魔物の特徴、弱点といった知識を教わっている間、女性冒険者たちに囲まれ大変な目に合っていたらしい。以前に行った時も同じような目に合ったらしく、それ以降ミヒャエルは必要最低限しかギルドには近づかないようにしているらしい。
「ただの自慢話じゃねぇか! 俺だって女性冒険者にちやほやされたいわ!」
ブルーノが本音を漏らす。ブルーノも女性冒険者から人気はある。だが、それ以上に男の冒険者たちから人気があり、ギルドに入るとすぐに周りを屈強なおっさんたちに囲われてしまうから近づけないでいるだけなのだが、そのことにブルーノは一ミリも気づいていない。
「シオン、たぶん昨日座学を受けた時に言われているだろうけど、油断はしないようにね。危ないと思ったらすぐに助けを求めること」
「はい」
……まあシオンの実力ならこの辺の魔物程度問題ないと思うけどねー。これまでの鍛錬の様子を見るにシオンの強さはこの辺の魔物じゃ太刀打ちできないだろう。まあ、一つ越えなきゃいけない問題は出てくるだろうけど、そこは付き添うブルーノが上手くやってくれるはずだ。
「うん。ブルーノ、頼んだよ」
「ああ、じゃな」
「ミヒャエル兄さん行ってきます」
「いってらっしゃーい、頑張ってねー」
いまいち気合の入り切らないミヒャエルの声を背に受けながら2人はギルドに向かった。
「シオン、お前にはこの二つの依頼を受けて貰おうと思ってる」
ギルドに入り、依頼書が張られたボードの中からブルーノが二つ指さす。
「ホーンラビットとゴブリンの討伐依頼ですか? でもこれってFランクじゃ……」
冒険者になりたてのシオンは最低ランクのGランクだ。それがいきなり一つ上のランクの依頼を受けていいのだろうか。
「Gランクの依頼は採取とか討伐系は一つもないんだよ。だからぶっちゃけやってもあまり意味がない。シオンはこれからも冒険者をやっていきたいんだろ?」
「はい」
「なら遅かれ早かれ討伐系の依頼を受けることになる。だったら最初からやったほうが効率がいい。それに今回は俺も一緒にいるし何か問題が起きても対処できる」
「確かに……」
「それにゴブリン討伐はEランク昇格の為に必要な依頼でもあるから先にやっておくと後で楽になるぞ」
「やります! ニーナさんに依頼受けること伝えてきます!」
シオンは小走りになりながらカウンターへ向かっていった。
「ブルーノ、弟の初依頼か?」
一人その場に残ったブルーノに顔なじみの冒険者が声をかけてくる。
「おう」
「何を受けさせたんだ」
「ホーンラビットとゴブリンの討伐依頼だ」
「定番だな」
冒険者は口ひげをさすりながらシオンを眺める。
「実力的には申し分なさそうだな」
「そりゃあな」
「問題は技術よりも覚悟だろう。まあ、頑張れよ」
冒険者はボードから目当ての依頼書を取ってカウンターの方に去っていく。
シオンの実力なら贔屓目なしでもホーンラビットとゴブリンぐらい圧倒できるだろう。だが、実際にやってみないとわからない部分もある。鍛錬はどこまで行っても所詮鍛錬でしかない。本番で生かせないなら何の意味もないのだ。
「ブルーノ兄さん依頼受注してきました」
「なら行くか」
「はい!」
「よしっ」
一行はギルドを出て、街の正門に進む。
「ブルーノ様、何か御用ですか」
ブルーノに気づいた門番が声をかける。
「弟の初依頼の付き添いでな」
「そうでしたか、お二人ともご武運を」
「ああ」
「ありがとうございます」
「シオン、街の外は何が起こるかわからない。気を引き締めるように」
「わかりました」
シオンは腰元に差している剣の柄の位置を確認する。何かあったときすぐに構えられるようにしておかないと。
「いくぞ」
ブルーノに続いてシオンも門を抜けた。カールに拾われた時以来の街の外。
「広い……」
シオンは目を見開いた。これまで街の中が世界の全てだったシオンにとって街の外は広大だった。街道は視界の向こうまで続いていて、遠くの方には美しい山々が見える。街道の傍は背丈の低い草に覆いつくされ、ところどころ小さな花々が咲いていた。
「ひとまずは街道沿いに進んでいくぞ」
「あ、はい」
いけない気を引き締めないと。シオンは心の中で呟いてブルーノの後を追った。
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