第30話 少年期 ハーフエルフ

 この世界には様々な種族が生きているが、場所によっては迫害されている場合もある。ハーフエルフもその一つだ。グロファイガー王国でも現王に変わってから迫害や差別を禁止するようになったが、それでも完全になくなっているわけではない。王国の隣にある帝国では獣人は奴隷なんて考え方が現在でもまかり通っていると聞いている。かなり根深い問題なのだ。


「その、すいません」

「いえ、私の方から先にお伝えすべきことでした。申し訳ありません」

 ニーナは頭を下げる。

「そんな! 頭を上げてください」

「もしシオン様が専属担当を変更したいのであればギルドマスターの方に伝えておきます」

「必要ないです。ニーナさんこそ新人の専属にさせられて嫌とかあったりしませんか?」

 シオンの問いかけにニーナは首を振る。

「そんなことは」

「じゃあ僕はニーナさんにお願いしたいです」

「……わかりました」

「あと、様づけもなしにして貰えませんか。ニーナさんの方が年上ですし」

「ですが……」

「お願いします」

 言葉を遮るようにシオンが頭を下げる。

「……」

「駄目、ですか?」

「……わかりました。ではシオンくんで」

「はい! これからよろしくお願いします、ニーナさん」

 シオンの満面の笑みを見て、ニーナの口元が僅かにだがほころぶ。

「承知いたしました。これからよろしくお願いします。シオンくん」

 

 二人が少しだけ打ち解けた頃、ギルドマスターの部屋ではブルーノとグレナがテーブルを挟んで話し込んでいた。

「つまり『銀亭』の奴らが領内に入り込んでいるかもしれないから、その調査をしてほしいと」

「できればそれとなく噂も流して欲しい『銀亭の奴らが領内にいるかもしれないから子供だけで出かけない方がいい』とかな」

「そんなの領主代行であるお前がやったほうがいいんじゃないか?」

 グレナは試すような視線をブルーノに向ける。

「ギルドに金を払ってこそこそやるよりも効果的だと思うけどね」

「いや、こっちもカイエン子爵から貰った情報だけで確実じゃないからな。それに領主一族がそんなお触れを出したとなれば、『銀亭』に対応することができないから自衛してくださいと言っているようなものだろ。更には周りの領主たちから盗賊ごときにビビっていると舐められかねない」

「ほう」

「それでも領民が危険な目に合う可能性を減らすためにはこの方法しかない」

 ブルーノの言葉を聞きグレナは感心したように何度か小さく頷く。

「思ったよりちゃんと考えているじゃないか」

「当たり前だろ」

「いや、こんな小さかったクソガキがいっちょ前に領民のことを考えられるようになるとはねー」

「誰がクソガキだ!」

「十年ぐらい前にギルドに初めてやってきて、『お前みたいな女なんか一瞬で倒してやる』と息巻いて私にぼこぼこにされたのはどこのどいつだったっけなー」

「……」

「まあ、わかった。諜報系に強い冒険者たちをピックアップして対応させておこう。あくまでも調査で捕縛はしないでいいんだな?」

「それで問題ない」

 話は終わり、ブルーノが席を立ち、ドアに手をかけたところで「これは出来ればでいいんだけど」と口を開く。

「シオンのことよろしく頼む」

「いいだろう。まぁ、何もしないがな」

「ああ、っておぉい!」

 思わずズッコケそうになるブルーノをグレナは面白そうに笑う。

「当たり前だろ、冒険者は実力主義だ。私が目をかけてランクが上がったとしてそれを他の冒険者たちがみたらどう思う?」

「あ……」

「明らかにコネでクラスが上がっただけの汚い奴と思われるだけだろうな。ギルドで一目置かれるには実力を示すしかないだろうし、伸びるやつは何もしないでも勝手に上がってくる。お前が才能があると思っているなら手を出さないことだな」

「確かにその通りだわ」

「はぁ、やっぱりまだまだ領主には程遠そうながきんちょだな」

「そりゃ齢にひゃ……」

「おい、それ以上言ったらわかってるな」

 瞬間、すさまじいほどの威圧感がグレナから出され、ブルーノは思わずすくみ上り、こくこくと首を縦に振ることしかできない。

「わかればいい、だがまあ、私としても面白そうな子だと思うから気にしてはおいてやる。わかったらとっとと出てけ、このクソガキ」

「失礼しました!」


「ったく」

 グレナは執務室の窓から開け外を見やりながらキセルをふかす。すると少ししてブルーノとシオンがギルドから出て行くのが見えた。これまでに何百と新米の冒険者たちを見てきたグレナからみてもシオンには才能があるように思えた。だが、才能だけでやっていけないのが冒険者だ。

「どうなるかね」

 そんなことを思っていると視線に気づいたのかシオンがこちらを向き一度頭を下げてきたのでひらひらと手を振ってやる。この距離の視線に気づくのか……

「失礼します……」

「おう、ってどうしたニーナそんな驚いた顔をして」

 はたから見ると無表情のままに見えるが、グレナにはニーナが驚いていることがはっきり分かった。

「いえ、随分と機嫌が良さそうに見えたので」

「そりゃ、有望な若者が入ったからね。シオンとは上手くやっていけそうか?」

「はい」

「ならいい、ちゃんとサポートしてやれよ。才能があると言ってもまだ12歳になったばっかの子供なんだからな」

 グレナはもう一度窓の外を見やる。昼に差し掛かった街中は大勢の人で賑わいを見せていた。

 


 

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