第29話 少年期 ギルド登録

「それで用件は?」

 グレナはシオンを向かい合ったソファーに座らせ未だ床に倒れているブルーノに問いかける。

「流石のブラコンも弟のギルド登録だけの為に来たわけじゃないだろう?」

「……ああ」

 若干ふらつきながらもブルーノは立ち上がりシオンの横に腰かける。

「まあ、一つはシオンに関係することだがな。シオン、スキルのことギルドマスターに伝えていいか」

「ブルーノ兄さんが大丈夫だと思うなら問題ないです」

「わかった」

「なんだい、随分面白そうな話をしてるじゃないか」

「まあな、ここでの話は他言無用で頼む」

 ブルーノはそう断ってからシオンのスキルについてグレナに説明した。


「なるほどね、確かにそうやすやすと話せるような話じゃないね」

 グレナはソファーにゆったり腰掛ける。

「ああ、だからこいつには専属を付けてもらいたい」

「これから冒険者になるって新米に、ただでさえ人不足なのに人を割けと?」

「先行投資だよ。あんたならわかるだろ」

 試すようなグレナの視線をまっすぐに返すブルーノ。少しの沈黙ののち、グレナははぁとため息をつく。

「いいだろう、その専属の子にもスキルのことを伝えることになるが構わないな?」

「分かってる」

「ならいい、少し待ってろ」

 グレナは部屋を出ると数分もしないうちに一人の女性を従えて戻ってきた。


「こいつにシオンの専属をやらせる。ほら挨拶しろ」

「ニーナと申します」

 抑揚のない口調でニーナが頭を下げる。ボブカットの薄緑色の髪からとがった耳が見える。ヒスイ色の瞳に白くきめ細かい肌。整った容姿をしているがさっきからずっと無表情のままだ。

「あの、もし嫌々やらされてるとかだったら無理しなくても……」

 申し訳なさからシオンが口を開く。

「問題ありません」

 彼女は相変わらず無表情のまま答えるから、本当に問題がないのか心配になる。ギルドマスターが前にいるからとか、僕らが領主の息子だからとかそんな理由も考えられるし……

「こいつは色々あって表情を出すのが苦手なだけで嫌がってるわけじゃないから安心していい」

 シオンの心を見透かすようにグレナが答える。

「それなら……。そのニーナさん、これからよろしくお願いします」

「宜しくお願い致します」

「ニーナ、シオンの冒険者登録してあげてこい」

「了解しました、シオン様こちらに」

「はい」

「シオン、俺はまだ話があるから終わったら適当に時間をつぶしててくれ」

「わかりました」

 後ろからかけられた声に返事を返して、シオンはニーナの後に続いて部屋を出た。


「……」

「……」

「こちらに」

 ニーナに連れてこられたのは2階にある一室だった。専属の職員とのやり取りや、他の冒険者に聞かれたくない話をする際に使う部屋らしい。 

「こちらの用紙に必要事項を記入いただけますか」

「わかりました」

「……」

「……」

「すいません、ここは」

「そちらは、ここを参考に記載してください」

「わかりました、ありがとうございます」

「いえ」

「……」

「……」

「あの……書けました」 

「確認します……問題ありません。これを基にギルドカードを作成してきますので少々お待ちください」

「わかりました」

 ドアが閉められ、部屋にはシオン一人が残される。

「ふぅ」

 緊張感から解き放たれたシオンは椅子の背もたれに体を預けた。廊下を移動していた時もギルド加入の用紙を記入していた時も無駄な会話は一切なかった。それに加えて表情もずっと無表情のままでじっと見つめてくるから変な緊張感が出てきていたのだ。これから専任になってもらうんだからできれば少しは話せるようになっておきたい。

「お待たせしました、こちらがギルドカードになります。無くされると再発行の必要がありますので気を付けてください」

「わかりました」

「それとランクについては知っていますか?」

「ええと、S~Gランクまであることぐらいです」

「わかりました。初めてギルド登録をしていただいた方はGランクからスタートとなります。Dランクまでは既定の依頼を達成することで昇格できますが、Cランク以上からはそれ以外に試験やこれまでの実績が加味されるようになります。また、依頼の失敗が続いたり、ギルドの信用を貶めるような行為を行った場合は降格や除名などもありますので併せて注意してください」

「はい、気を付けるようにします」

「お願い致します」

「……」

「……」

 必要な話は全て終わったのかニーナは黙り込んでしまい、また微妙な空気が流れ始める。

「その、ニーナさんってエルフなんですか?」

 何とか話題をと視線を動かしていたシオンは目についたニーナの尖った耳を見て尋ねたが、それが失敗だとすぐにわかった。

「……いえ、……私はハーフエルフです」

「あっ……」

 彼女はほんのわずかだけ瞳を伏せながら答えた。


 


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