第28話 少年期 初めてのギルド

「ブルーノ、分かってると思うけど……」

「ああ、流石に初日からクエスト受けに行かねぇよ」

「……ならいいけど」

「準備できました」

 シオンが準備を終えて戻ってくると、二人は話を止めた。

「シオン行ってらっしゃい、気を付けてね」

「はい、行ってきます」

 シオンたちは玄関先でひらひらと手を振るミヒャエルに見送られながらギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは街の西側にあり、これまでシオンがほとんど行ったことがない場所だった。

「さあ、焼き鳥3本銅貨2枚だよ!」

「でよー、そいつなんて言ったと思う……」

「おばちゃん、ビール追加で」

「お姉さんと呼べこのクソガキども!」

 この前お世話になったノーイス教会のある通りは見栄えのいい店が並び全体的に落ち着いた雰囲気があったのに対し、冒険者ギルドの通りはそれとは対照的で、見栄えが良いとは言えないが、その分活気に満ち溢れているように感じる。同じ町なのにこんなに違いがあるのか。


「シオンはこっちの方には来たことがなかったっけ?」

「はい、街を出るときは中央の道を通るだけでしたし、用があるときもノーイス教会の方に行っていたので」

 シオンは物珍しいものを見るようにあちこちに視線を回す。

「そうか、見ての通りごちゃごちゃしているがそれはそれで悪くないだろ」

「はい」

「まあ、ティアナとかミヒャエルはあまり好みじゃないらしいんだけどな」

 確かに二人はノーイス教会側の方が好きだろうし、雰囲気的にも合っている。


 ブルーノはこの近辺でも有名みたいで進むごとに様々な人たちから声がかけられる。

「よう、ブルーノ! ひさびさじゃねぇか」

「おう、少し前まで巡察に行ってたからな」

「今日は寄ってかないのかい?」

「悪いな、ギルドに用があってな」

「ブルーノ、隣にいる坊主がお前が自慢してる弟か?」

「ああ、下手な冒険者よりも余裕で強いぜ!」

「そいつは将来有望だな! がっはっはっ!」

 そんな中を通り抜けていくと、頑丈そうな建物が見えてきた。


「着いたぞ、ここがギルドだ」

「ここが……」

 レンガ造りの3階建てで立派に見えるがよく見てみると、ところどころ壁に傷がついていたり、僅かにえぐれていたりしているのがわかる。

「そこら辺の傷は大体酔った冒険者が付けたやつだな」

「そうなんですか」

「酒に酔って力加減が出来なくなってるんだよ」

 あほだよなとブルーノは笑っているが、シオンからしたら不安を煽るような話でしかない。

「まあ、基本冒険者ってのは荒くれ者が多かったりするからな。怖気づいたなら帰ってもいいぞ」

 シオンは首を横に振り、小さく深呼吸する。

「大丈夫です」

「よし、なら行くぞ」

 ブルーノは大きな扉に手をかけた。


 建物の中は吹き抜けになっていることもあってかかなり広い印象を受けた。入り口の正面奥には依頼を受けるカウンターがあり、左手には数多くの依頼書が張られたボードが、右手には小さなバーがある。

 ここがギルドなんだ! きょろきょろと視線を移していると、幾つかの視線がこっちに向いていた。

「あれブルーノじゃねぇか?」

「その横にいるガキは見ない顔だな」

「もしかしてブルーノが言ってた弟か?」

「ふふっ、初々しくて可愛いわね」


「シオン先に用を済ませたいから上に行くぞ」

 ブルーノはカウンターの横にある階段を上っていくのでシオンもそれに続く。2階は資料室や会議室などがあるらしく1階と違って静かだ。ブルーノは廊下を付き辺りまで進み、出てきた階段を上がる。


 3階に上がったブルーノは迷うことなくまっすぐに廊下を進み一番奥の部屋に辿り着いた。あれ、ここって。

 ブルーノがノックすると中から「どうぞ」と女性の声が聞こえた。

「失礼するぞ」

「し、失礼します」

 ブルーノに続いてシオンも部屋に入る。部屋の中は変哲のない執務室のような感じだった。

「ブルーノ元気そうだな、ん? そっちは初めて見る顔だな」

 キセルをふかしながら机の上の書類に目を通していた女性が顔を上げた。燃えるように赤い髪に獰猛そうな鋭い瞳が印象的で、彼女はシオンをロックオンすると愉快そうに口をにやりと曲げた。

「こいつがお前が言ってた自慢の弟か」

「ああ、そうだ!」

 自信満々にブルーノが答える。

「ブルーノ兄さん、さっきから思ってたんですけど僕のことどんな風に言いふらしてるんですか⁉」

「えっ、将来絶対大物になる天才だって」

「いやぁ、正直ただのブラコンの戯言だと思ってたんだけどねぇ」

 彼女は席を立ちゆっくりとシオンの方に近づくと、シオンの顎をくいっと上げ顔を近づけた。

「いい目をしてる」

「あの……」

「おや、顔が赤くなってきたな、どうかしたかい」

「いや、その……」

「はっきり言ってみな」

「綺麗なお姉さんの顔が近くにあるから……」

「はっ?」

「シオン、お前、目は確かか?」

 一瞬凄い音が鳴りシオンが目をつぶり、再度開けた時にはなぜかブルーノが床に横たわり、赤髪の女性は嬉しそうに大声を上げて笑っていた。

「こいつは大物かもしれないねぇ、君、名前は?」

「シオンです」

「そうか、ようこそシオン、冒険者ギルドへ」

 彼女はキセルの灰をカッと机の上の灰皿に落とす。

「私はこのギルドのギルマスをしているグレナだ」

 

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