第27話 少年期 両親とティアナ王都へ
「シオンごめんねー、本当ならもう少し一緒にいるはずだったんだけど」
アデリナは申し訳なさそうにシオンの頭を優しくなでる。
「気にしないでください」
シオンの誕生日を終えた翌日の早朝、王都での仕事に戻らなければならないカールとアデリナを見送るため、屋敷の庭にシオン、ブルーノ、ミヒャエル、が集まっていた。ちなみにリアは未だに夢の中だ。ぐっすり寝ていたので起こすのが忍びなかったのだ。
「ブルーノ、屋敷のこと頼んだぞ」
「任せてください」
ブルーノは自信ありげに胸を張る。
「ミヒャエル、ブルーノの補佐頼んだぞ」
「……ふぁい、わかり、ましたー」
朝に弱いミヒャエルはふにゃふにゃになりながらもなんとか返事を返す。そしてカールの視線がシオンに移る。
「シオンも二人を助けられることがあったら手伝ってやってくれ」
「わかりました」
カールは頷くと、少し声のトーンを落とした。
「それとカイエン子爵の者から我が領内に『
「……『銀亭』ですか……」
さっきまで眠そうだったミヒャエルが少しだけ目を開く。
『銀亭』とは貴族の子供をさらい、闇ギルドや奴隷商人に流している盗賊団でここ最近になって各地でその名前が聞かれるようになっている。噂によると何処かの貴族が裏で手を回しているなどの話もあるが真相は定かではない。
「気を付けておきます」
「……僕も頭には入れておきます。……まあ、うちを狙うほど奴らも馬鹿ではないと思いますけど……」
「頼んだぞ。シオンもあまり単独行動などはしないように」
「わかりました」
「うむ」
「カール様、そろそろ」
後ろに控えていたアルベルトが声をかけ、カールとアデリナを用意していた馬車に案内する。
「シオン!!!」
馬車の扉を開けた途端、ティアナが一気に飛び出してきてシオンをぎゅっと抱きしめる。
「あらあらー」
アデリナは意外そうにティアナを眺める。
「来月には王都に来るんだよね?」
「入学前のクラス分けの試験もありますしその予定です」
「そっか……じゃあ待ってるからね」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「……あの、ティアナ姉さん?」
ふつうこの流れならゆっくりハグをほどいて馬車に乗り込むとか、そんな感じだと思ったが、ティアナは一向にハグを解こうとしない。それどころかより力を入れているような……
「……やっぱり帰るのやめる! シオンと行くタイミングで戻る」
「えっ⁉」
シオンは衝撃発言に驚きを隠せないが、ブルーノとミヒャエルは全く動じていなかった。
「まあ、だろうな」
「……そういうと思っていた」
「おいティアナ、そもそも今だって学園休みじゃないだろ? 流石にあとひと月休むのは……」
そう、ティアナは無理やり休みを取ってシオンの誕生日にきていたのが昨日の夜に発覚している。そもそも四季に1度ずつの長期休暇以外、屋敷に帰れるほどの休暇は取れないはずなので少し考えれば誰でも分かってしまうのだが。
「大丈夫です。これまでも成績は常に学年でトップ3以内だし、ひと月休むぐらい……」
「ティアナ」
ティアナの言葉を遮るようにアデリナが名前を呼んだ。その途端、空気が一瞬にして凍り、心なしか気温すら涼しくなったように感じる。
「昨日の夜、約束しましたよねー? 私たちと一緒に王都に帰るって」
まるでロボットのようにティアナが首を回す。後ろに立っていたアデリナはいつもと変わらず微笑んだままだが、纏っているオーラが明らかに怒っている。
「もし言うことを聞かないなら、あの件もなかったことに……」
「嘘です! すぐに乗ります!」
あの件? その言葉をアデリナが口にした途端、一瞬全員の視線がシオンに向かった。実は昨日の夜、シオンを除いた家族全員である件について話し合っていたのだ。そのことを知らない当の本人であるシオンは小首を傾げるだけだ。
「じゃあシオン元気でね」
「はい、ティアナ姉さんも体に気をつけてください」
「ありがとう」
ティアナは最後にもう一度シオンにぎゅっと抱き着いた後、大人しく馬車に乗り込んだ。続いてアデリナ、カールを馬車に乗る。
「それでは出発いたします」
アルベルトが手綱を引き馬が歩き出す。
シオンたち一行は馬車が見えなくなるまでその様子を見送る。
「行っちゃいましたね……」
保護欲をそそられるような、少し寂しそうな口ぶりでシオンが呟く。
「やっぱりティアナはシオンが関わると途端にポンコツになるよな。まあ、原因はシオンにあるのかもしれないが」
「……シオンは魔性の男かも知れない」
「ちょっと⁉ 兄さんたちやめてください!」
シオンが慌てる姿を兄たちは楽しそうに笑う。
「そうだ、シオン。今日時間あるか?」
「時間ですか? 大丈夫ですよ」
「なら、連れて行ってやるよ、12歳になったことだし、俺も用事があるしな。ミヒャエルも行くか?」
「僕はもう少し寝るからパスで」
12歳、行きたがっていた場所。その二点でシオンは閃いた。
「いいんですか⁉」
「ああ、すぐ行くか?」
「はい! 準備してきます!」
シオンは一目散に屋敷の中に入っていった。
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