第24話 少年期 両親到着
「シオン様、カール様、アデリナ様が到着いたしました」
4人でのお茶会を終え部屋で休んでいたシオンにアルベルトが声をかけた。
「わかりました、すぐ向かいます」
「お待ちしております」
シオンは身だしなみに変なところがないか姿見でいま一度確認する。大丈夫そうだ。シオンの視線が鏡越しに髪に向かう。金でも、銀でもない黒い髪。
「……」
シオンは無言のままドアに手をかける。
エントランスにはシオンを含む家族の他に屋敷で働いている使用人のほとんどが集結していた。程なくしてドアが開かれる。
「親父おかえり」
「ああ」
ブルーノの言葉にカールは短く返す。銀色の髪に屈強な体躯。何もかも見透かすような鋭い眼差しは、伯爵の威厳を感じさせた。
「巡察は問題なかったか?」
「どこも問題なかったよ」
「そうか、後ほど詳しい話を聞かせてもらおう」
カールはそう言って今度はミヒャエルに顔を向ける。
「……父さんおかえりー。港町の件はまとめて執務室の机の上に置いてあるよ」
「相変わらずお前はそつがないな」
「シオン、こっちおいで」
ティアナがシオンに向かって手招きする。そろそろと近づくと、伸びてきた手に引っ張られぎゅっと抱きしめられる。懐かしく安心する感じに覚えがある。
「あらあらー、ちょっと見ないうちに大きくなったわねー」
「おかえりなさい、お母さん」
「ただいま、シオン。遅くなってごめんねー」
おっとりした口調でアデリナは片手でシオンの髪を優しくなでる。
「いえ……」
「それと、12歳の誕生日おめでとう。もう祝福は受けに行ったの?」
「それなんだけど……少しお父さんと、お母さんに話したいことが」
シオンの代わりにティアナが答える。
「あらー、そうなの? じゃあ夕食後にでも時間を取りましょうか」
優しそうな瞳がシオン、ティナア、リアと移り優しく微笑む。
「奥様、長旅お疲れ様でした。お風呂の用意が出来ております」
「エマありがとう」
「リアも一緒に入りたいです!」
「じゃあティアナも一緒に入りましょうかー」
「折角の機会だしそうしよっかな」
「シオンは?」
アデリナの顔がシオンに向く。腰元まである金色の髪がふわりと揺れ動く。
「僕は大丈夫です」
「遠慮しなくていいのよー、昔は一緒に入っていたじゃない」
「もう6年も前のことです。ほらエマさんを待たせてしまったら申し訳ないので行ってきてください」
シオンの決意が固いと見たアデリナは「じゃあ、また今度ねー」と残し、ティアナとリアを連れて浴場に向かっていく。
「シオン、ティアナとリアは?」
「お母さんとお風呂に向かいました」
「おう、そっか」
「シオン」
低い声が響く。顔を上げるとカールの鋭い瞳と合って一瞬体が強張る。カールがずんずんと近づいてくる。ブルーノよりも頭一つ分大きいから近づくとより威圧感がすごい。
「父さんお帰りなさい」
「祝福で色々あったようだな」
「母さんが夕食後に時間を取ろうと言ってました」
「そうか、ならその時に聞くとしよう。アルベルト、夕食まで執務室にいる」
「畏まりました」
「ブルーノ、ミヒャエル、これから報告を聞かせてくれ」
「わかった」
「……はーい」
階段の途中でカールが足を止めた。
「シオン」
「はい」
「祝福の話の後、大事な話がある」
カールの言葉にブルーノとミヒャエルがぴくりと反応する。
「わかりました」
「うむ、ブルーノ、ティアナとリアにも伝えておくように」
大事な話。見当はついている。それでも心臓がばくばくとうるさい。大丈夫、大丈夫。
「シオン様? 少し顔色が優れないようですが」
フェリが心配そうに見つめてくる。
「大丈夫だよ、ありがとう」
「……わかりました。何かあったらすぐに呼んでくださいね」
「わかった」
「絶対ですよ、では失礼します」
念押ししてからフェリは小走りで厨房に向かい、エントランスにはシオン一人が残された。悪い想像が次々と頭をよぎっていく。そんなこと有り得ないのに。シオンはかぶりを振り、自室に戻っていった。
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