第23話 少年期 リアたちからのプレゼント

 シオンたち一行は、ランドルフにスキルを秘匿にする方法を教わって、彼に見送られながら教会の入り口まで戻ってきていた。

「ランドルフさん、色々と教えて下さりありがとうございました」

 シオンは姿勢を正して一礼する。

「いえいえ、お役になれて良かったです」

「シオン様。私から一つお願いがございます」

 ランドルフは少し申し訳なさそうに口を開いた。

「実は私の孫も今年から王都の学院に通うことになっておりまして、もし宜しければ仲良くしていただけると幸いです」

「そうだったんですね、わかりました」

「ありがとうございます。少々男勝りな子に育っておりまして、もしかしたら失礼な態度を取ってしまうやも知れませんが、根は真っ直ぐな子ですので」

 応接室での鋭い雰囲気から一転、孫を心配している様子は教会でも有数の権力者と言うよりかはただ人の良いご老人といった感じだ。

「わかりました」

 シオンは苦笑いしながらもしっかりと頷き、一行は教会を後にした。


「皆様お帰りなさいませ」

 屋敷に戻るとエマを筆頭に数名の使用人たちが出迎えてくれた。

「ただいま、エマさん」

「そういや親父たちはもう着いたか?」

「いえ、ですがもうすぐ着くと言うことで街の正門までアルベルトが向かっております」

「そっか、じゃあ俺はそれまで剣でも振ってるかな」

「……なら僕は部屋に戻って休む。いつもより歩いて疲れた」

「おい、ミヒャエル。もう少しぐらい体力つけたらどうだ。そんなんじゃ何かあった時どうにもならないだろ」

「魔法があるから問題ない。じゃあシオンまた後でね」

 ミヒャエルはシオンに向かってヒラヒラと手を振りながら自室に戻っていく。

「ったく、じゃあシオン、一緒に……」

「ブルーノ兄さん、悪いけどシオンはこれから私たちと予定があるから。ほらシオン、リア行きましょ」

「はい、ブルーノお兄様失礼致します」

「えっ?」

 予定なんて何も聞かされておらず、ぽかんとしていたシオンはなされるがまま、ティアナとリアに連れて行かれ、エントランスに1人残ったブルーノはそっと剣を振りにドアに手をかける。その背中は少し寂しそうに見えていた。


「あのティアナ姉さん、リア、予定って……」

 2人に連れて行かれたのは、リアの部屋だった。

「まあまあ、いいからいいから。はい、シオンはそこに座って」

 シオンはおあつらえ向きに準備されていた丸テーブルの前に置かれた椅子に腰掛ける。

「じゃあ私たちが良いって言うまで目を瞑ってて」

「……」

 シオンは逆らわず目を閉じる。

「薄目開けてるとかしてないよね?」

「してないです」

「よろしい、じゃあその状態で少しだけ待っててね。リア行くよ」

「はい! ティアナお姉様」

 ドアが開く音がして2人が部屋を出ていく。

 この状態で放置されるの?

 部屋内はシオン1人きりになり、時計の針がチクタクと動く音が聞こえるほど静寂に包まれていた。


 いつまでこうしていれば良いんだろうか?

体感的には10分ぐらいは経ったと思うけど……

 シオンが薄目を開けて辺りを確認しようかどうか迷っていると、部屋に近づいてくる足音が聞こえてきて、程なくドアが開けられた。

「ごめんねシオン、ちょっと遅くなっちゃった。もう少しだけ待ってもらえる?」

「大丈夫です」

「ありがとう、ほらリア」

「はい」

「リア様、お気をつけて」

 ティアナとリアの他にもう1人誰かの声がする。

「もしかして、フェリ?」

 尋ねると、近くでガチャっと音が鳴った。

「フェリ! 大丈夫!」

「ティアナ様、だ、大丈夫です。ご心配おかけしました」

「なら良かった。でもシオン良くフェリって分かったね」

「前に食堂で話した時凄く綺麗な声だったので」

 ガチャガチャガチャ!!!

「フェリ⁈」

「し、し、失礼致しました。大丈夫ですので」

「そう……シオン、急にそんなこと言ったら駄目でしょ」

「いや、でも……」

「まったく、どこでそう言うのを覚えてきたんだか……」

 何故、質問に答えただけで怒られているのだろう? 

「ティアナお姉様、準備できました!」

「ありがとうリア、じゃあ座ろっか」

「はい」

「シオン、目を開けていいよ」

「わかりました」

 シオンがゆっくりと目を開ける。

 さっきまで何もなかった丸テーブルには、真ん中にジャムの入ったクッキー、一口サイズのシュークリーム、クリームをたっぷり挟んだマカロンなど、様々なお菓子が並べられていた。

「「「シオン(様)お誕生日おめでとう(ございます)!」」」

「これは……」

「凄いでしょ? 私たちが作ったのよ」

 確かにそう言われると、少し形が崩れてしまっていたり、焦げてしまってるのもあるがそれでも十分過ぎるほどの出来栄えだ。

「リアが案を出したのよ」

「シオンお兄様には良くご褒美にお菓子を作ってもらったので、ティアナお姉様とフェリに手伝って貰いながら作りました」

 はにかみながらリアが答える。

「そっか、ありがとうリア、ティアナ姉さん。フェリさんも」

 ティアナとリアは笑顔になり、フェリは「もったいないお言葉です!」と顔を伏せていたが、尻尾がぶんぶんと左右に揺れている。

「さぁ、食べましょっか」

 ティアナの言葉を合図にシオンは手作りのお菓子舌鼓を打ちながら、午後のひと時を過ごしていった。

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