第22話 少年期 魔法の相性とスキル
「おうシオン、祝福終わったんだってな」
ブルーノが片手を上げながら応接室に入ってきた。
「はい」
「……相性はもう見た?」
「いえ、兄さんたちがきてから見ようと思って」
シオンは柔らかく笑う。
「ブルーノ様、ミヒャエル様、お久しぶりです」
「ランドルフ司祭、弟がお世話になりました」
「とんでもございません、ささ、どうぞお二人とも座ってください」
応接室は中央に置かれたテーブルを挟んでソファーが二組置かれており、その一方にティアナ、シオン、リアが座り、もう一方にランドルフ、ブルーノ、ミヒャエルが座った。
「じゃあ、確認します」
シオンはやや緊張した面持ちで持っていた用紙をテーブルに置き、ゆっくりと開いていく。
「えっ?」
用紙には何も書かれているように見えない。これはどういうことだ?
「シオン様、用紙に手を当て魔力を入れてみてください」
ランドルフに言われるままシオンは用紙に右手をかざし魔力を込める。すると白紙だった用紙にふわりと文字が浮かび上がってきた。
「他人が盗み見たりできないように、ご本人が魔力を込めないと見えないようになっているんですよ」
ランドルフがすかさず解説を加える。
「俺も最初の時焦ったわ」
ブルーノがにやりと笑う。
「ブルーノ兄さん、知ってたなら教えてくれても」
「どんな反応するのか気になってな。それでどうなんだ」
ブルーノがテーブルにかぶさってくる。
「ちょっとそれだとシオンが見えないでしょ」
ティアナがブルーノを押し返す。
「悪い悪い、気になっちまってな」
「……それでシオン、どう?」
「……」
シオンはミヒャエルの問いかけに気づかず、自分の魔法の相性が書かれた部分を見つめていた。魔法の相性は両親の遺伝によるところが大きい。
父さんは火を、母さんは光と水、風の魔法が相性が良いって……
「シオン?」
「えっ? すいませんミヒャエル兄さん、こんな感じです」
シオンはブルーノたちが見やすいように用紙をテーブルの中心の方に持っていった。
シオン・ローゼンベルク
<相性>
・光 E
・闇 C
・風 C
・火 E
・水 C
・土 D
・無 C
「おおー!」
「……これは」
ブルーノは単純に顔を驚かせ、ミヒャエルは眠そうな目を大きく開ける。
「凄い……」
「ティアナお姉さま、凄いんですか?」
ティアナは口元に手を当て、リアはよくわからないと言った風に小首を傾げている。
「なんと……」
ランドルフは絶句した後、すぐさま周囲に視線を配り、口元で何かを唱えた。途端にさっきまで聞こえてきていた外の音が一瞬にして聞こえなくなる。
「申し訳ありません。魔法を使いこの部屋と外を多い音を遮断させていただきました。シオン様、皆様、このスキルについては決して他言しないようにした方がよろしいかと」
「スキル、ですか?」
シオンが聞き返す。相性の所ばかりに目がいきスキルの部分は頭に入ってきていなかったのだ。シオンは改めて用紙のスキルの所を確認し、声を漏らす。
<スキル>
・フリッグの寵愛
あらゆる魔法の相性について研鑽を積むことで成長することができる。また、研鑽に応じてスキルを獲得することができる。
「やっぱ早々ないことなのか? このスキルは」
ブルーノがスキルの所を指さしながら尋ねる。
「文献上ではこれまでに幾人かが持っていたことは確認されておりますが、一番最近の者でも40年以上前のことになります」
「そうか……、他言しないようにと言われたが、親父たちには伝えるべきだよな」
「信用できる方やご両親であればよろしいかと思いますが、あまりそれ以上は広げるべきではないかと。それと、特に教会の者たちには絶対に伝えない方がよろしいかと」
ランドルフがこれまでにない鋭い視線でシオンに進言する。
「教会での地位向上の道具に使われる恐れがあります」
「わ、わかりました」
あまりの剣幕にシオンはどもりながらも頷く。
「後でスキルの部分を秘匿する方法をお教え致しましょう。そうすればそう簡単にばれることもなくなるはずです」
「「「……」」」
確認する前とは打って変わって部屋には重苦しい空気が流れ始めてしまっていた。そんな中、ブルーノがすくっと立ち上がる。
「流石、俺の弟だ!」
ブルーノはソファーから身を乗り出してシオンの頭を抱きかかると、わしゃわしゃと髪を撫でた。
「まさか俺たちからだけでなく、女神様からの寵愛も受けてるなんてな!」
豪快に笑っているブルーノのおかげで空気が一気に軽くなる。
「そうね、シオンおめでとう!」
「……シオンは女神に愛されている。誇っていいこと」
「シオンお兄さま、おめでとうございます!」
「はい! ありがとうございます」
「シオン様、申し訳ありません。本来ならばまず賛辞を贈るべきところでした」
ランドルフが深々と頭を下げる。
「ランドルフ様、頭を上げてください。むしろ色々と教えてくださりありがとうございます」
ブルーノから抜け出したシオンは慌てながらお願いする。何度かの押し問答の末、ランドルフはようやく頭を上げた。
「私としても女神さまの寵愛を受けた方の祝福に立ち会えたこと、フリッグ様を信仰する一人の者として心より嬉しく思っております」
「ありがとうございます」
シオンは笑った。だが、その中に一抹の寂しさが混じっていることに誰も気づけていなかった。
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