第21話 少年期 教会で祝福を
「しかし、相変わらずでけぇよな」
ブルーノに釣られてシオンも前の建物を見上げた。外壁は落ち着いた色のレンガで囲われ、建物の周りには薬草が種類ごとに植えられている。窓には様々な色のステンドガラスが埋め込まれていて、日の光を浴びて輝いていた。
「……教会が立派ということは市民からの寄付が多いということ。つまり、領内の市民たちが問題なく暮らせている証拠だよ」
ミヒャエルが隣にいるシオンに説明するように口を開く。
「なるほど、寄付が出来るということは生活に余裕があるということなんですね」
「そう、シオンは頭の回転が速いね。どこかの誰かと違って」
「なんで俺を見る?」
「……特に理由はない」
「明らかに喧嘩売ってるだろ⁉」
「ちょっと、教会の前で喧嘩とかしないでよ、周りに見られてるんだからね」
一人ずつでも人目を引く兄妹が全員揃っているのだ。ただでさえ視線が集まっているのにと、ティアナため息をつきながら、シオンの方に向き直る。
「シオン、私たちは先に教会の中に行こう」
「シオンお兄さま、行きましょう」
ティナアとリアにそれぞれ手を繋がれながらシオンは教会の中に入った。
兄妹全員で仲良く朝食を取った5人は両親が予定より遅れて到着することになったのをアルベルトから聞き、先にシオンの祝福を受けてしまおうとこうして兄弟そろって教会を訪れていた。
教会の中は多くの人がいた。木製の長椅子に腰かけ司祭の話に耳を傾けている者、両親に連れられシオンと同じように祝福を受けに来たであろう子供。奥に鎮座している女神の像に向かって祈りを捧げている者。それぞれ違うことをしているのに、雑然としたようになっておらず、教会内は荘厳な雰囲気に満ちていた。
「これはローゼンベルク家の皆様、ようこそお越しくださいました」
「ランドルフ司教お久しぶりです」
シオンたちの前に現れたのは黒い祭服に身を包んだ好々爺然とした老司教だった。
「ティアナ様、祝福の時以来になりますね。学業の方も優秀な成績を修めていると聞き及んでおります」
ランドルフはティアナに一礼した後、シオンとリアに向き直る。
「シオン様、リア様、お初にお目にかかります、ランドルフと申します。ローゼンベルク家に寄進していただいたこのノーイス教会で司教をさせていただいております。本日はシオン様の祝福を受けにこられたので?」
「はい」
シオンの瞳をじっと見つめたランドルフは優しく微笑む。
「でしたらこちらへ。私の方で承りましょう」
「よろしいのですか?」
ティアナが問いかける。通常祝福を行うのはシスターや司祭たちでこの教会でトップである司教自らが執り行うことはほとんどありえないのだ。
「ええ、元々ご挨拶させていただく予定でしたし、何故だかそうした方が良い気がするのですよ」
ささ、こちらへ、と案内するランドルフの後に続いてシオンたちは教会の横にある扉から廊下を進み、一室に通された。部屋の最奥には大聖堂で見たよりも小さいながらも精巧な女神様の像が鎮座していた。
「シオン様、もし気になるようでしたら、ティアナ様とリア様には別室でお待ちいただくことも出来ますがいかがしますか?」
「シオンの好きにしていいよ」
ランドルフの言葉にティアナが追随する。
「なら、このままで大丈夫です」
「承知いたしました。その前に簡単に祝福についてご説明を致します」
ランドルフはそう言って説明を始めた。要点をまとめると以下になる。
・祝福を受けることで相性のいい属性、スキルが判明する
・属性は、光、闇、風、火、水、土、無、の7つがある
・相性はそれぞれS~Gまでが存在していて、Dが一般的な相性になり、それより高いと消費した魔量以上の魔法が使えるが、反対に低いと消費魔力以下の魔法しか使えない
・魔法の相性は代々受け継がれていくことが多い
・スキルは一部を除き遺伝はなく、一つあるだけで女神からの寵愛を受けていると言われている
「では、はじめましょう。シオン様、女神像の前に」
「はい」
シオンはやや緊張した面持ちで女神像の前に立った。
「目を閉じ、片膝をついてお祈りください」
「……」
言われた通り、目を閉じ片膝を付きながら眼前で手を組み祈る。
「女神フリッグ様、グロファイガー王国にまた一人、聡明なる男児が成長いたしました。彼の人生の指針とならん、女神の祝福をお与えください」
ランドルフが言い終えると、シオンはうっすらとした白い光に包まれる。
『……汝が人生に幸があらんことを……』
頭の中に優しい女性の声が直接響いてくる。
「シオン様、祝福は無事終わりました」
シオンはゆっくりと瞳を開ける。いつの間にかシオンの手には巻かれた一枚の用紙が握られていた。
「そちらにはシオン様の魔法の相性、スキルが書かれております。むやみやたらにお見せにならないよう」
「わかりました」
「シオンお疲れ様」
「シオンお兄さまどうでした?」
リアは興味深々な様子でシオンが持っている用紙に視線が向かっている。
「まだ見てないよ」
「すぐにご覧になりたいのでしたら場所をご提供致しますよ」
ランドルフの言葉に甘えて、一行は教会の奥にある関係者専用の応接室に向かった。
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