第17話 少年期 突貫工事
シオンとティアナが二人仲良く寝ている頃、屋敷の庭では数十人の庭師たちがかがり火をたきながら忙しなく働いていた。
「親方、ひとまず被害の少なかった部分については何とかなりました」
「そうか」
若い庭師の報告に親方と呼ばれたダーヴィットは庭全体を見渡しながら考えるようにあごひげをさすった。
これで爆心地付近を除いて何とかなったか。だが本題はこれからだ。ダーヴィは爆心地に視線を向ける。そこでは複数人の庭師が折れて駄目になった樹木を次々に引き抜いている最中だった。比較的に順調に進んでいるが、それでも時間に余裕は全くない。眉間にしわが寄る。ただでさえ筋肉隆々で強面のダーヴィットがしわを寄せるものだから、報告にきていた若い庭師は明らかに委縮していた。
執事のアルベルトから至急の依頼として集められる庭師を招集してダーヴィットが屋敷に着いたのが夕方の少し前。着いた途端、至急の理由がわかった。毎月手入れをさせて貰っているからある程度修復するのにどれだけの時間が必要か判断がつく。
「ダーヴィット様お待ちしておりました」
いつの間にか隣にきていたアルベルトが一礼をする。
「至急と言われたから何事かと思ったが、これは確かに至急だな……。反乱でも起こされたか?」
笑いながら話すダーヴィットに若い庭師たちはぎょっと目を見開く。貴族ではないがアルベルトはローゼンベルク家に長年使えている執事だ。その人を前に主家を愚弄しているともとれる発言は良くてお小言、悪ければ即刻牢獄送りになる。現にここまでついてきていた若い門番は一瞬鋭い視線をダーヴィットに向けていた。
「ダーヴィット様の予想ではどれぐらいかかると思われますか?」
しかし、当のアルベルトや古参の庭師たちはまるで気にした様子はなかったので若い庭師たちはほっと胸を撫で下ろしていた。
「そうだな普通にやったら3日は必要だな」
ぐるりとあたりを見回してからダーヴィットが告げる。
「だが、そう言う訳にはいかないんだろう?」
「はい、明日の朝9時までには元の通りとはいかなくても、最低限見れるようにしていただきたい」
「なるほどな……まあ、いつもより人数も多いし、見れるようにするのなら辛うじて間に合うかもしれないが、その分高くつくぜ」
「ええ、構いません」
ダーヴィットの鋭い眼光にも送すことなくアルベルトは柔らかな笑みを讃えたまま返す。
「ちなみに、どうしてこうなっちまったんだ? 作業をする以上理由ぐらいは聞いても良いだろ?」
「……昼間にシオン様とミヒャエル様が魔法の鍛錬をしておりまして。その際にシオン様が使った魔法によりこうなりました」
アルベルトの答えに古参の庭師たちが「おおー」と声を上げた。彼らはシオンのことを幼いころから知っているのだ。
「あのシオン様がねぇ」
「これだけの有様にするんだ、将来は優秀な魔法使いになるに違いねぇ!」
これから夜通しの作業になるかも知れないと言うのに、古参の庭師たちは文句を言うどころか何故だか嬉しそうだ。何より普段全く笑わないダーヴィットがにやりととがった歯を出して笑っていることに若い庭師たちは驚きを隠せないでいた。
「わかった、何かしょうもない理由でだったとしたら最低限直すだけにするつもりだったが、シオン様の為となりゃ話は別だ。お前ら明日朝9時までに元以上にするぞ!」
「「「おおー!」」」
かくして、庭師たちの壮絶な一日は幕を開けていた。
「ダーヴィット様、進捗はいかがですか?」
庭師たちの為のタオルや飲み物、軽食を持ってきたアルベルトが声をかけた。
「見ての通りだ、損傷が少ないところは終わったが、一番問題の所はこれからだ」
「左様ですか。簡単な軽食と飲み物はあちらにご用意させていただいております。仮眠の為の部屋も用意してあります」
「わかった。……あんたは寝ないのか?」
屋敷に戻る様子がないアルベルトにダーヴィットが尋ねる。
「家を預かっているものとして見届ける必要がございますので」
「そうか……まあ、好きにすればいい」
ダーヴィットはそう言って仲間たちに声をかける。
「お前ら、交代で休憩と仮眠を取るように。何としても朝9時までに全て終わらせるぞ!」
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