第15話 少年期 ティアナのお説教
「……シオン、今のはどうやったの?」
「はい、高熱の火の球と空気中の酸素を集めた球を岩の窪みで混じりあうようにしたんです」
「……なるほど、高酸素の球に火が混じりあうことで爆発を起こさせたんだね」
シオンは頷く。
「はい、ミヒャエル兄さんが一つの属性にこだわらなくてもいいってヒントのおかげで閃きました」
「……うん、いい発想だね。多くの魔力を持っていなくても、今回のシオンみたいに上手く掛け合わせたりすることで自分が出せる以上の威力を出せたりすることができる」
「はい」
「シオンは柔軟な発想ができるから、これからもその発想力を大事にね」
ミヒャエルは誇らしげにシオンの頭を優しくなでる。
「シオンっ‼」
「えっ、ティアナ姉さんどうしまし……っ⁉」
砂煙が舞う中からシオンを見つけたティアナが思い切りシオンを抱きしめた。
「……もがもが」
抜け出したいのに全く動けない!
「何があったの⁉ ケガは?」
ティアナはシオンの体をまさぐり、大丈夫なことを確認してようやく抱きしめる力を弱める。
「シオン! ミヒャエル! 無事か⁉」
ティアナに遅れてブルーノが駆けつける。二人の血相を変えた表情にシオンとミヒャエルはぽかんとしてしまう。
「……何が?」
「特に大丈夫です、よ?」
「えっ?」
「えっ?」
四人はそれぞれ顔を見合わせた。
「……だからさっきの爆発はシオンがやったんだよ」
まるで自分のことのように自慢げにミヒャエルが答える。ただ、庭に正座させられている状態だから全く格好がついていない。
「シオン、ほんとなの?」
「……はい、ティアナ姉さん。さっきの爆発は僕がやりました」
シオンもまたミヒャエルの隣で正座させられていた。
「まじかっ! 流石は俺の弟だ!」
「ブルーノ兄さん?」
「いや、ごほん、そ、その、すまん」
ティアナが睨みつけ、ブルーノは言葉を濁す。
「……本当にケガとかはしていないのね?」
「大丈夫です、ミヒャエル兄さんが風の壁を作ってくれたので」
「全く、本当に心配したんだからね! 急に爆発音がなって二人がいたところをみたら砂煙で見えなくなってたし!」
「ごめんなさい」
「ほんとにもう……、それとミヒャエル兄さん。この惨状はどうするんですか! 今日にもお父さんもお母さんも帰ってくるんですよ」
「……屋敷は無傷のはず」
「屋敷じゃなくて、庭のことを言ってるんです!」
ティアナが庭一帯を手のひらで差した。
青々と生い茂っていた芝生は剥げて地面が見え、綺麗に咲いていた花は先ほどの爆風で辺りに吹き飛び、木々は枝葉が折れ曲がり、中には幹からぽっきりと折れてしまっているものもあった。まるで大型の台風が過ぎた後のようなありさまで、控えめに言って大惨事だった。
「懐かしいなぁ、俺が小さいときも同じようなことがあったなぁ」
ブルーノの発言にティアナの額に青筋が浮かぶ。
「……僕の時もあった」
「そういやミヒャエルもやってたよな、確かその時は直すのに3日かかったんだっけ」
「ブルーノの時は1週間かかってた」
「あの……」
ティアナの様子に気づいたシオンが二人を止めようと声を上げるが、二人の耳には全く届いていない。
「それは庭師たちが丁度休みで家に帰ってたりしてたから遅くなっただけで同じぐらいの惨状だっただろ」
「いや、ブルーノの時の方がひどかった、……そんなことより、やっぱりシオンは魔法の才能がある。そろそろ魔法一本で鍛錬をするべき」
「はぁ、何言ってやがる、シオンは剣術の才能の方がある。だから魔法の鍛錬の時間を減らしてもっと剣術に打ち込むべきだ」
「……剣術は所詮近距離でしか使えない。けど魔法は長距離でも近距離でも自由に使える汎用性がある。だから魔法の鍛錬にもっと時間を割くべき」
「魔法こそ魔力が尽きちまったらなんもできないだろ。だが剣術は違う、己の体さえあれば戦える。だから魔法よりも剣術に時間を当てるべきだ」
「その……二人とも……」
「シオン」
「はいっ⁉ テ、ティナア姉さん。なんでしょうか?」
怒りを押し殺したような静かな口調だった。
「今後は気を付けるようにね」
にっこりと笑いかけてきてくれているが、目が笑っていない。
「はい、気を付けます」
背筋をぴしっと伸ばしながら答える。
「うん、シオンはいい子だね。その素直さに免じて今はこれぐらいにしておいてあげるけど、夜に部屋に行くからね」
「……はい」
「うん、じゃあシオンは屋敷に戻っていいよ。アルベルトに庭師を大至急呼ぶように伝えといてくれる? お姉ちゃんこれからちょっと用事が出来ちゃったから」
有無を言わせない迫力。シオンはこくこくと首を縦に振りすぐに立ち去る。庭に残っているのはティアナと、いまだ言い争いを続けているブルーノとミヒャエルだけ。
「……二人とも」
「「っ⁉」」
恐ろしい圧にブルーノとミヒャエルも言葉を止め、ゆっくりと振り向く。
「ブルーノ兄さん、正座」
「いや、俺は何も……」
「正座」
「だから……」
「正座」
「……はい」
ティアナだけは怒らせてはいけない。この日、ブルーノ、ミヒャエルはそのことを強く理解した。
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